新春特別企画

2010年をふりかえり、2011年のキャンペーンサイトを展望する

あけましておめでとうございます。京都と東京に拠点を持つインタラクティブ・スタジオ 1→10designでプランナーをしている松倉早星(まつくらすばる)です。

リーマン・ショックの余波で不安いっぱいな2010年の船出でしたが、1→10designとして年間約90個ものWEBサイトを公開させていただき、さらに自社サイトのリニューアルも実施することができました。企業サイトでありながら格闘ゲームという弊社らしいサイトに仕上がっています。CREATIVE IS ENDLESS BATTLE⁠、是非遊んでみてください。

本稿では、2010年の話題になったキャンペーンサイトを振り返りながら(かつ、自社の宣伝もしつつ⁠⁠、今年のキャンペーンサイトの展望を考察していければと思います。

Twitter文化圏

2010年を語る上で「Twitter」は外せません。ほとんどの案件でTwitterが何らかの方法で導入されています。あまりに大きなトレンドとなりすぎて「その課題解決にTwitterは必要だったのか?」と疑問に思うサイトも本当に多かったように思えます。

そんな数あるTwitterキャンペーンの中でも強く記憶に残っているのが「UNIQLO LUCKY LINEシリーズ」IS Paradeです。

UNIQLO LUCKY LINE in Taiwan
UNIQLO LUCKY LINE in Taiwan
IS Parade
IS Parade

どちらもTwitter特有の文化やニーズを理解し、⁠盛り上がり」「つながり」を見事にヴィジュアライズした好例ではないでしょうか。本当に多くのソーシャルネットワークがあるなかで、それぞれの文化・マナーを理解し、行動を促すことは非常に緻密なコミュニケーション設計となります。Twitter文化を理解せずに手掛けたキャンペーンサイトではスパム扱いされ苦情が殺到し、即日キャンペーン中止というのも何件か見受けられました。

どちらのキャンペーンも一言で説明することができるシンプルなコンセプトです。Twitterというソーシャルネットワークをハブにライトなつながりと集合体が2010年ならではの象徴的な盛り上がりのようでした。

あまりに多くのTwitterキャンペーンが増えた中、素晴らしい映像とトリガーとしてのTwitterという見事な構図をもったキャンペーンサイトが公開されました。それがSHIRO Cheers Systemです。

高橋酒造 ⁠SHIRO Cheers System」
高橋酒造 「SHIRO Cheers System」

UNIQLOCKの映像も担当した児玉裕一さんが映像監督として参加しています。

Twitter IDを入力すると自分のフォロワーから友人数名を巻き込んだ映像を見ることができるシンプルな設計です。映像の魅力に心を掴まれ、Twitterアイコンがあまりにキレイに合成されているのを見て、WEB業界の人は驚いたんじゃないでしょうか。このSHIRO Cheers Systemは、映像のもつメッセージの伝達力を再認識できた良いキッカケでした。そして、Twitterキャンペーンが多い中、さらりと広告的な気配を消し、ちょっとやってみようかと思わせる心の導線設計は、何度も見返し模範したものです。

WEB × 映像 × テクノロジー

SHIRO Cheers Systemと同様に、Tabio Slide Showの映像が持つ説得力・世界観は見逃せません。これまた児玉裕一さんが映像監督です。

Tabio Slide Show
Tabio Slide Show

映像のクオリティもさることながら「廊下を靴下で滑る」という、誰もが幼い頃に体験した記憶を抽出した事にプランナーとして感服せざるをえません。

さらにフリックさせる動作は、iPhoneやiPadが登場してから定着したデバイスアクションです。このデバイスアクションが新鮮な感覚である、まさに2010年しかないタイミングで、⁠フリックして、スライドさせる」=「廊下を滑る」というデバイスアクション=動画演出を見事に紐づけています。人が「当たり前に行う行動」「新しく導入される行動」を冷静に観察している視点が想像できます。

そして、JRA CINEMA KEIBA ON WEB JAPAN WORLD CUPは、いちユーザーとして本当に楽しめたサイトの一つでした。あの「スキージャンプ・ペア」で有名な真島・茂木コンビが放つふざけきった競馬サイトです。

JRA ⁠CINEMA KEIBA ON WEB JAPAN WORLD CUP」
JRA 「CINEMA KEIBA ON WEB JAPAN WORLD CUP」

感心すべきはこの企画にOKを出したJRAさんじゃないでしょうか。これを見たときには、心の中で拍手喝采でした。大企業であっても、このような決断をできることは本当に凄いことだと思います。この他にも好き撮り!MY JOCKEYなどのコンテンツも注目を集めました。

若者の競馬離れが激しい中、いかにして「ターゲットの心を掴むか」だけをしっかり考えていなければ、この企画を許可することはできなかったのではないでしょうか。レースは何度見ても面白くバリエーションも豊富です。久々にWEBを見て腹がよじれました。ここまでふざけきれたサイトは2010年、他にないと思います。

WEB × 映像 × テクノロジーの好例として、RhizomatiksさんがNIKEのシューズをハックし楽器にしたNike Music Shoeは、まさに[ 映像×WEB×テクノロジー ]のハイブリットな事例だといえます。Youtubeの映像1本とTwitter / Facebookのシェアボタンのみ。映像の力だけでメッセージを主張するという、まさに2010年以降を予感する内容ともいえます。

Nike Music Shoe
Nike Music Shoe

NIKE FREE RUN+をぐにゃりぐにゃりと捻ることで様々な音がでる。映像として奇妙なその光景が音楽となったときの鳥肌は忘れられません。NIKE FREE RUN+を演奏するHIFANAとRhizomatiksの組み合わせで生まれたグルーヴが「新しいカッコいい」領域を押し広げているようでした。

「靴を捻って音がでる、それを組み合わせて演奏するんです」というプレゼンを聞いて、⁠カッコイイ」になるとは到底思えません。しかし、目の前にあるものは「カッコイイ」そのものでした。広告という行為を飛び越えて私たちが「カッコイイ」といえる領土を拡張させられた感覚。⁠ユーザーには理解できないテクノロジーをシンプルにスタイリッシュにとけ込ませる⁠⁠けっしてユーザーには悟られずサラリと新しい価値を提案する⁠⁠、最新の技術で構成されながらも広告本来の在り方を感じさせられる事例でした。

「伝えること」「伝え広がること」を考える。

これまでいくつかの事例を追って、その特質すべき点をあげてきました。私が「良い」と思える仕事は「ユーザーに伝える」ことをしっかりと考えているサイトです。クライアントのニーズを理解し、ユーザーの気持ちを考え、どう伝えるかが考え尽くされた仕事。プランナーという職種である以上、それが判断の基準となっています。どんなに凄い技術でも伝わらなければ意味がない。WEBを知らない人も感動できるか、ただそれだけです。

Twitterがトレンドとして先行しすぎた2010年は、⁠仕組みだけ」でTwitterやソーシャルネットワークをベースとした「キモチの導線設計」がなされていないキャンペーンサイトも多かったですね。ほとんど記憶に残っていません。技術や仕組みが先行する仕事では「キモチ」が忘れ去られがちです。冷静にソーシャルネットワークという生態系を観察したチームが素晴らしい仕事に結びつけているのではないでしょうか。⁠伝える」ということから、それが「伝え広がっていく」までの言葉のバトンを想像し、そこに追随するキモチを繋いでいく。そこまで考えることができて、はじめてキャンペーンサイトの真意がユーザーに届くはずです。

そのような意味で2010年を総括し、さらには2011年の良き指標となったのが、川村真司さんが監督したSOURのインタラクティブ・ミュージックビデオ映し鏡でしょう。

SOUR「映し鏡」
SOUR「映し鏡」

ソーシャル上の自分を取り巻く人々を「映し鏡」としたソーシャル上のもう一人の自分、というアイデアは、楽曲の世界観を見事に表現しており、その世界を表現するために技術が裏側で支えています。技術を見せたい表現ではなく、表現を支える技術。それが見事に相乗効果となった事例だと思います。広告ではなくMVですが「伝える」という観点でいくと今年最も打ちのめされた事例でした。

ブレークスルー

SOURの「映し鏡」はWEB業界にとって1つの大きなブレークスルーだったと思います。UNQLO LUCKY LINEを含め、WEBに無関心な友人たちが、これらのサイトが面白い、といいだしたのです。今まではそんなことありませんでした。業界内で盛り上がってる、とはよく言われたものです。しかし、その壁が倒壊しようとしている。そんな気配を感じる2010年でした。人々がWEBに近づいたこともあると思います。Twitterという日常に強くコミットしたツールが普及したこともあるでしょう。

しかし何より、上記で紹介したキャンペーンサイトのメッセージが強く真っすぐなものだったことが、壁を壊し始めた要因でしょう。日清カップヌードル「hungry?」のようなTVCMの王道レベルのものをWEBでも作り上げることができるのではないでしょうか。むしろ、過去の素晴らしい広告を越えるのは、WEBなくして作り上げれないとさえ思います。

最後に

先日、Facebookのユーザー数が5億人を越えたというニュースがありました。仮に国として考えた場合、中国、インドについで3番目にFacebookのユーザー数が多いといえます。WEBは軽々と国境を越え、私たちはYoutubeで海外の面白動画を眺め、海外の友人とFacebookでチャットし、Twitterで好きなアーティストにエールを送ります。

技術も社会も流行りも好みも、人の気持ちも、常に変化し流れていきます。世界の対話方法や文化を理解した上で、私たちはそこに流れる人々の気持ちをしっかりと見つめる必要があります。簡単に繋がれる時代だからこそ、⁠広告」が示す未来は「理想」であってほしい。私はそう思います。誰もが憧れたり、感動したり、微笑んだりできることは、受け手より先に作り手が前に前に突き進んで物事を捉えているからです。⁠映画は夢を魅せるため」といわれます。ディズニーランドなどのエンターテイメントすべてが「夢を魅せる」ために努力しています。今年、WEB広告はこの領域に足を踏み込む必要があるでしょう。私たちはその一撃をたたき出す必要があると思います。

すでにWEBではないのですが、私が好きな広告を最後に紹介して本稿を結ばせていただきます。

この動画は、2010年の頭に公開されたCoca-Cola の「Happiness Machine」というプロジェクトです。こんなベンダーあったらワクワクしますよね。新しい技術なんて何もありません。裏側に人がいるだけ。何をしたら皆よろこぶか。驚くのか。笑ってくれるのか。人の気持ちをしっかりと考えて作られた仕事は、古くなってもきちんと伝わるものです。

Twitterがキャンペーンで使い古され、今年はソーシャルグラフを用いた機能的なキャンペーンサイトが量産されるでしょう。それ以上にクリエイティブの第一線では、アイデア先行型の戦国時代に突入する予感がします。どちらの領域でも奮闘できればと思いますので2011年も是非、1→10designにご注目ください。

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