クリエイティブカレッジはYahoo! JAPAN と、ロクナナワークショップ が「Yahoo! JAPANインターネット クリエイティブアワード2009 」のプレイベントとして開催した1日限りの無料セミナーです。
インスピレーション セッション
「Yahoo! JAPAN×ロクナナワークショップ クリエイティブカレッジ 」最後のセッションを飾るのは、博報堂アイ・スタジオ クリエイティブディレクターの 佐野勝彦 (さのかつひこ)氏、電通 テクニカルディレクターの 中村洋基 (なかむらひろき)氏による「インスピレーション セッション クリエイティブアワードを獲れる5つ(くらい)の方法 」だ。
佐野勝彦氏(左)中村洋基氏(右)
二人がセッションする機会は、滅多にあることではない。常にWeb業界の第一線で活躍する二人が、どのような考え方でクリエイティブなコンテンツを生み出しているのだろうか…満員の会場内から熱気に、二人への注目度の高さが感じられる。
本セッションでは主に、「 Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」の「一般の部」に関し、審査員も勤める立場から見た印象的なコンテンツの作り方、また、自分達が一人のクリエイターとして、このアワードに作品を申し込むなら…などといった切り口で、実際の制作事例を取り上げながら具体的な解説がなされた。
”シンプルな事”だからこそ強いコンテンツ作り
まず、アワードへ挑むための作品作りのポイントとして、次のような議題を投げかけた。
” 一人でも作れるのではないか、もしくは予算が無くてもできるのではないか”
この部分にフォーカスを当てると、「 自然とシンプルな事だからこそ印象的なコンテンツに仕上げることが重要。」だと中村氏は語る。そこで、実際のクライアントワークから使えそうなアイデアを紹介。
どこでもラストガイ
中村氏は、シンプルな発想と、予算的にもコンパクトにまとめたコンテンツとして「どこでもラストガイ 」を紹介。「 どこでもラストガイ」は、PLAYSTATION®3 のゲーム「The Last Guy 」のプロモーションサイトである。
中村氏はこのゲームに至って、シンプルなルールがFlashでも実装可能な点に目をつけた。「 もともとおもしろいゲームの母体があるので、基本的にトレースすれば良かった。それがプロモーションに繋がる、どちらかというと完成度を上げるだけ。」
シンプルながら飽きさせることの無いコンテンツは、国境を越え、ボーダーレスな展開を実現。公開1週間で、143ヵ国で660万プレイを記録したのだという。さほど告知もされていなかったというから驚きだ。このコンテンツでは、実在するWebサイトのキャプチャ画像が、ゲームのステージとして利用されている。実際のキャプチャ画像を生成するサービスもあるとの事なので(このコンテンツでは独自開発されている)気になった方は是非調べてみて欲しい。
次に中村氏は「Honda」の「INTERNAVI(インターナビ) 」と呼ばれるカーナビのプロモーションサイト、「 INTERNAVI REALIZATION 」を紹介。ここでは「分かりにくいインターナビの機能を、可視化して見えるようにしよう。」といったコンセプトのもと制作された。
INTERNAVI(インターナビ)
まず「001 NEURON ROAD」では、日本全国の無数にある道路が光の道筋となり、浮かび上がるビジュアル表現を実現。細部にまで広がる道路をどのようにビジュアル化したのか…初めてこのコンテンツを見た佐野氏も、その手段を疑問に思ったそうだ。
その答えは「Honda」が蓄積していた、「 INTERNAVI」のGPS情報にある。INTERNAVIを搭載していた車から送信され、数値化された位置座標を、Flash上で点に置き換えてビジュアル化したのだそうだ。「 こういう状態が気持ちいいね、というインプットさえ自分にあればあっという間に行き着く。」と、着眼点の重要度についても触れた。
「 Honda」だからこそ実現した技術力と、蓄積された莫大なデータが新たな可能性を生み出した偉大なる産物と言っても過言ではない。
また「002 DRIVE LAPSE」では、車にデジカメをつけて、前方に走る車を一定距離を空けながら追尾し、写真を撮り続けたものを、ひとつなぎの映像として表現。一見すると、デジカメと車さえあれば誰にでも実現可能だ。だがここから、さらに完成度を上げるため、注目のアーティストによるBGMをプラスするなどの作り込みで、クオリティの高いコンテンツに仕上げられている。
一方、佐野氏からは少人数でもでき、低コストでも実現可能なアイデアソースとして、自社の リクルートバナー 制作について解説がなされた。
リクルートバナー
リクルートバナーを制作する上で、出てきた意見は「就職活動って恋愛に似ているよね。」というもの。そこで、履歴書をラブレターと位置づけすることにした。実際に社員に、自らの履歴書をラブレターに見立てて朗読してもらい、映像化することになったのだそうだ。
その映像はどれも非常にユーモラス。ロケ先に偶然居合わせた人々の協力を得るなどして、あえて狙ったかのような映像が納められている。自然発生的に現れた素材も、おもしろいと感じることで、充分に意味をなすコンテンツになりうる可能性を感じられる作品だ。
また佐野氏は、雑誌「Pen 」が創刊10周年を記念したアニバーサリーコンテンツ、「 pen-web.jp FIVE WORKS 」で自身が手がけた作品についても紹介。「 musee a paris -パリの美術館-」をテーマに制作されている。
Pen 創刊10周年を記念したアニバーサリーコンテンツ
満点の星空に浮かぶ星座をたどるように、一筋の閃光が駆け巡るというもの。パリの美術館や展示作品のシルエットが、次々に描画され、最後に満点の星空からパリの地図が浮かび上がる。よくよく見ると、無造作に並べられたかに見えた星はパリの交差点、無数の星が集まる天の川はセーヌ川だということに気づく。
佐野氏はこのコンテンツを制作するにあたって、もともとあったパスデータの素材に着目。パスデータにはイラストを形作るための座標が存在する。それらをパースすることで、イラストのシルエットを描画することができたのだそうだ。
これらの事例には、その裏側で大変な苦労があることをもちろん忘れてはならない。だがそれ以上に、大切なことは目の前に元々あるリソースの価値を見極める事だ、と二人は語る。クライアントは、それが当たり前で気づかない部分だとしても、自分たちがそれを価値のあるものであるかに気づき、おもしろいと感じることができるか…それを形にすることがクリエイターの使命なのだ。
テーマの見つけ方のきっかけ
佐野勝彦氏(左)中村洋基氏(中央)今北舞(右)
「一般の部」自由な課題から生み出すことの難しいポイントは” テーマ設定” 。ここで、” テーマの見つけ方のきっかけ” を見つける方法論として、” もし自分たちが一人のクリエイターとしてアワードのグランプリを目指すならば…” といった観点から解説がなされた。
疑問に思ったことをビジュアル化してみる。
佐野氏からは、テーマの見つけ方について、「 ふとした疑問をビジュアル化することがそのままコンテンツになりうるのではないか」といった提案がなされた。
そこで佐野氏の疑問、” なぜ満員電車は発生するのか?” 。佐野氏は、そんな疑問を検証するためのメトロマップ をflashで制作。
メトロマップ
プライベートワークにおいても、かなり緻密な設計、随所にこだわりを感じるインターフェイスだ。日常生活のあらゆる疑問の中にも、見る人を感動させるコンテンツはたくさん眠っているのかもしれない。これは、いつでも、誰にでも実践可能なケーススタディだ。皆さんも是非、トライしていただきたい。
相手の立場で考えた場合に、一番響くコンテンツは何かを考える
中村氏はアワードの審査員達が、審査員である前に一人のクリエイターである背景を述べた。常に物づくりへ力を注ぎ続ける彼らの立場から、「 あ~!そういう体験あるある!といった部分をうまく突けば、アワードでも高得点が狙えるのでは?!」と提案。応募する側の意表を突く、斬新な切り口だ。ここで中村氏が紹介したのが、「 Coming Soon Generator 」 。
Coming Soon Generator(左)404 enhancer(右)
広告に携わるものなら、誰でも経験したことのある、時間ギリギリに間に合わない体験。そんな彼らの” あるある” を突いて制作されたのが、このティザーサイトジェネレーターだ。ユーザーの共感を得る、つまりアワードにおいては、審査員の共感を得ることで、より彼らにとって印象的なコンテンツとなることは確かだ。
また、” すでに、世の中にある資産を、うまく使うことで無限の可能性が広がるのではないか” といった側面についても提案。「 アイデアの固まりを形にするだけでもいい。今はアイデアだけでも今後大ヒットするものは何かないのか。」と述べた上で、アイデア探しのヒントを解説した。
ここで中村氏は「404 enhancer 」を紹介。その斬新、かつユーモラスなコンテンツに会場内も爆笑の渦。すでにあるものでも、未来への可能性を切り開くツールとして、充分に活用できる事を体感させられた。
日常に潜む” ひらめき” は非常に重要だ。そしてその” ひらめき” を、どこまでのクオリティに持ち上げることができるのか…飽くなき追求と研究心が、ある専門性に特化したクリエイターになるためには必要不可欠だ。また、中村氏は「自分で作ることができる力も絶対大事。その中から新しいアイデアが生まれる。」と述べ、スキルの重要性にも触れた。
多忙を極める二人にとって、仕事以外の時間を作り出すのはとても困難な事に思える。そんな中、プライベートワークにおいても探求心、さらに高いクオリティまで育て上げる情熱と、遊びゴコロをスパイスとすることは忘れない、これが見る人の心を掴んで離さないコンテンツを生み出す秘訣なのだろう。
そして、「 発想はもっと自由でいいのだ、縛られることなく大胆にクリエイティブすることが大切なのだ。」という二人からのメッセージに、来場者一人一人が、自身への大きな可能性を感じたのではないだろうか。
今回ご紹介いただいたサイトのURLは、ロクナナワークショップ ニュース でもご紹介しています。是非ご覧ください。