The Analytics──誰のためのWebアクセス解析か?

第5回直帰率からはじめるサイトの改善

広告代理店にお願いしているバナー広告のクリック数が、代理店からもらっている資料と、導入したアクセス解析ツールで見えるものとで違っていた。いったいどっちが正しいのかわからなかったので、矢島へ電話をした。

数字は正確ではない

「ツールで取得できる数字に100%正確なものなんてないからな」

これが矢島の一言目だった。なんだよ正確じゃないって。だってツールだろ。システムだろ。

「これにはいくつか理由があるんだ。ちょうどこの前、社内の勉強会用にまとめた資料があるからメールで送るよ」

数分後に資料がメールで送られてきた。しかし、こういったことにすぐに対応してくれる矢島には本当に感謝である。この資料によると、ツールが解析をする際に差が出るのはいくつか原因があり、それが箇条書きで書かれている。

1 取得方式の違い

同じサイトを解析してもツールの取得方法によって差異が出てしまうことがある。原因としては、ログ型、パケット型がサーバへのリクエストベースで計測を行っているのに対して、タグ型は読み込まれたページからのリクエストベースで計測を行っているためである(方式の詳細については第1回を参照⁠⁠。

サーバへのリクエストベースで計測を行われている場合、ISPやコンテンツキャッシュサービスなどでキャッシュされたコンテンツが計測されない。つまり、キャッシュコンテンツを参照された場合、ログ型、パケット型ではカウントがされない。

また、タグ型の場合は計測タグがページ内に埋め込まれていることが計測の条件となる。これはJavaScritで実装されるものがほとんどのため、そもそも実装がうまくされていない、JavaScriptがうまく実行されない場合にも計測がされないことになる。

このように取得方式によって計測値が変わる可能性がある。

2 Cookieの設定による違い

最近のアクセス解析ツールでは、セッションを認識するためにブラウザにCookieというものを埋め込み、それでどのブラウザごとに認識を行っている。

CookieにはファーストパーティCookieサードパーティCookieの2種類が存在する。Cookieを設定する場合、その範囲をドメインで設定をする。ファーストパーティCookieとは実際に計測を行っているサイトと同じドメインで設定されるもので、サードパーティCookieは計測を行うサイトとは別のサイト(ツールのサービス)ドメインで設定したものだ。

サードパーティCookieはブラウザの設定で受け取らなかったり、セキュリティソフトによっては削除をしてしまったりされてしまう可能性が高い。そうすることで、PVは取得できていても訪問者数や訪問回数、セッションの計測にブレが出てきてしまうことがある。

サードパーティCookieはASPサービスを利用したアクセス解析ツールで提供されることが多い。

3 取得場所の違い

遷移元と遷移先で違うツールで計測している場合に起こることが多い。遷移元では実際にクリックがされたものの、ページが表示される(リクエストされる)前にブラウザを閉じてしまったりすると、遷移先の計測ツールでは計測ができない。

また、広告などの場合は、どこからの遷移かを認識するために、遷移先のURLの後ろにパラメータを付けることがある。これらの文字化けにより認識できなかったり、リロードによりダブルカウントされてしまうことがある。


以上が資料に書かれていた内容だ。今回の件は3番目の原因にあたるようだ。なるほど、実際に広告代理店から提出されたクリック件数よりも、導入したツールで計測した流入件数の方が数が少しだけ少ない。

これでやっと、もともとやろうとしていた直帰率の改善にとりかかることができる。

直帰率を改善する

実際に矢島から教えてもらった直帰率改善指標を利用して、直帰率の改善をした方が良さそうなページを洗い出してみた。

実際に上から何ページかを確認してみたが、いったい何を改善したら良いのかわからない。とはいえ、そうそう矢島に助けを乞うてもしかたがない。たまには自分で考えてみよう。とりあえず目についた1番上位のページから考えてみることにした。

まずはお客様の気持ちになってみることにしてみた。このページへはいくつかのバナー広告から入ってきているはずである。柏木さんからもらったデータを確認してみると、2つのバナーで出稿していたようだ。

それぞれのバナーの実績はこうだ

表1
 インプレッションクリック直帰数
バナーA 10000 500 200
バナーB 800 500 300

これだけ見てもなんだかよくわからないので、とりあえず数字を計算してみることにした。まずはインプレッション数のうちクリックした割合を計算することにした(後でこれはクリックスルー率:CTRと呼ばれていることがわかった⁠⁠。

表2
 インプレッションクリックCTR
バナーA 10000 200 20%
バナーB 800 500 62.5%

これで見る限りバナーBの方が好調のようである。次にバナーごとの直帰率を計算してみることにした。

表3
 クリック直帰数直帰率
バナーA 500 200 40%
バナーB 500 300 60%

直帰率で見るとバナーAよりもバナーBの方が直帰率が明らかに高い。つまりクリック率で見るとバナーBの方が良く、直帰率で見るとバナーAの方が良いのである。

よくわからなくなってしまったので、実際に入稿していたバナーを見せてもらった。バナーAの方は「急げ!売り切れるっ!」と書かれている。バナーBの方は「この便利グッズはみんなには内緒!?」と書かれている。

またすごいバナーだなぁと思いつつ、リンク先のページも確認してみた(これはランディングページというらしい⁠⁠。

ページにはいろいろなお勧め商品が掲載されていて、その中にいくつか便利グッズもある。しかし、⁠便利グッズ」という単語はどこにもなく、バナーBを見た後だったので、少しの間探してしまった。

つまり、バナーで「便利グッズ」と書かれているから、それを期待してページにやってきたのに、その単語が見つからずに直帰してしまったのかもしれない。

とりあえず柏木さんに頼んで、このランディングページの上のほうに「便利グッズ」という文字を追加してもらうことにした。長い道のりだったが、おそらく直帰率を改善していくというのはこういうことなのだろう。

夜は矢島と約束をして、飲みながら今日のことを報告することにした。

お客様の気持ちになって…
お客様の気持ちになって…

永遠に続くサイトの改善

今日あったことを一通り説明すると、矢島は「がんばったな」と一言。そしてビールを左手に持ち続けながら、いつものように説明が始まった。

「ランディングページでの直帰率を高くしてしまっている原因はいくつかあるんだ。設定的な原因は以前に話したから今日はいいな。大きくは…3つある」

「1つめが流入するきっかけとなった単語がランディングページに存在していない場合だ。これは今回のお前の対応がまさにそうだ」

グビっと一口ビールを飲む。

「2つめがランディングページに来たものの、次へのリンクがなかったり、わかりにくかったりする場合だ。せっかく次に進もうとしても、リンクが見つからなければ先には進めないよな」

ここでも一口。

「3つめがそもそもバナーを出していたページと誘導したいセグメントが違う場合だ。今回のケースでいけば、もう少し調べないとわからないが、クリック率の低かったバナーAはその可能性もある」

ここでさらにグビっと飲んで手に持っていたジョッキを飲み干してしまった。そしてもう1杯頼む。

「これら3つの理由をツールの数字と仮説を考えながら詰めていくんだ。あとはテストをしながら実際に仮説を検証していく。そういえば、今日の対応はちゃんと後で検証しろよ。でないと対応の意味がない」

確かに実際の対応については検証をしないと意味がない。明日、柏木さんにも入れ替えた後の数字をもらえるよう頼んでおこう。しかし、検証結果も数字で知ることができるアクセス解析はやはりすばらしい。

そんな事を考えながら、自分も一気にビールを流し込みジョッキが空いた。

つづく

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