ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第1回便利な時代に潜む「著作権」いう名の見えないリスク

はじめに

  • 「自社のホームページに掲載する予定の新製品紹介資料に、○○○というサイトにあったフリー素材のイラストを使いたいんだけど?」
  • 「新入社員向け研修のレジュメに、当社を紹介したニュースサイトの記事を無断で引用してもいいですか?⁠

会社の中で、⁠著作権の担当です」と名乗って仕事をしていると、こんな相談ごとばかり飛び込んできます。 また、時には、見ず知らずの個人の方から、

  • 「貴社のホームページに掲載されている製品の画像を自分のブログで使いたいんですが…?」

といったご要望をいただくこともあったりします。

インターネットが普及した今、手に入れたい素材は検索サイト等を通じて、簡単に手に入れることができるようになりました。しかし、他人が創作したものを使う、ということは常にリスクを伴います。その最たるものが、⁠著作権」という第三者の権利を侵害する、リスクだといえるでしょう。

近年、著作権をめぐるニュースが世の中を賑わすことが多くなってきました。これまでは出版や音楽といった一部の業界の片隅のほうで細々と行われていた著作権をめぐる争いは、広く大衆化する様相を示していますし、⁠著作権」が民事上の争いにとどまらず「刑事事件」として登場してくる機会も明らかに増えているように思います。

冒頭でご紹介したような相談・要望が最近になって増えてきている背景には、そういった事情があるわけですが、それでは、"実務の現場で役に立つような指針がどこかに示されているか?"といえば、何とも心許ない、というのが現在の状況です。

なぜかと言えば、もともと「著作権」というのは、"紙の上"や"レコード盤やフィルムの上"で表現される創作物を想定して出来上がってきた権利であり、⁠著作権法」によって定められているルールも、それを前提として成り立っているものがほとんどだからです。

これまでにも、複写機器や録音・録画機器の普及に伴い、いくつかの手直しはなされてきました。しかし、現代のように、誰でも手軽にインターネットを通じて、第三者の創作物を入手して加工したり、そのようにして作成した創作物を発信できるような状況まで想定されているとはとても言えません。

法律がそのような状況ですから、インターネットユーザーが第三者の著作物を利用するような場面まで想定して書かれている解説書等も決して多いとは言えず、インターネットユーザーによる第三者の著作物の利用に関しては、"グレー"とされたまま残されている部分が多いのが実情だといえます。

幸か不幸か、最近ではインターネット上での第三者コンテンツの利用をめぐる事例などが、訴訟となって登場することも増えてきました。この連載の間にも、新しい事例が次々と世の中で取り上げられ、注目を浴びることが予想されます。

"技術が発達したからといって何でも許されるわけではないだろう。でも、こんな杓子定規な対応をしたのでは、今の世の中、非常識と言われないだろうか…?"

自分自身が日々直面しているこのような悩みを、この連載を通じて、読者の皆様と共有できれば幸いです。

何が「著作権」によって守られているのか?

連載を始めるにあたって、私たちが日頃行っているどのような行為に「著作権」が関係してくるのか、そして、この連載ではどの辺りに着目して説明していこうとしているのか、簡単に確認しておきたいと思います。

「著作権」によって保護されるもの(=著作物)

 ⁠著作権』『著作物』を保護する権利です。だから他人の『著作物』を使う時には気を付けましょう」という決まり文句を耳にしたことのある方は多いのではないかと思いますが、続けて「何が著作物か?」を説明するのは、そう簡単なことではありません。

「著作物」とは何か、ということは著作権法で定義されているのですが、そこに書いてあることといえば、単に、次の事柄だけです。

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

著作権法2条1項1号

これだけ読んで、何を指しているかを即座に理解できる人は、皆無と言っても良いのではないでしょうか。

しかも、他の知的財産権(特許権や商標権)の場合、権利を得ようとする人が(特許庁に)保護しようとするもの(発明や商標)を出願し、登録されて初めて「権利」として認められることになるのに対し、著作権の場合、公的な登録がなくても権利が発生します。 したがって、登録原簿を確認して警戒すべきものの目星を付ける、といったワザもここでは使うことができません。

細かいところは追って説明するとして、ここではさしあたり、仕事、プライベートを問わず、インターネットの利用に際してよく問題になる、典型的な「著作物」の例を挙げておくことにしましょう。

  1. ニュース記事、小説、論文、日記、コメントなど(言語の著作物。キャッチコピーや料理のレシピ等も含まれる可能性あり)
  2. イラスト、キャラクター、シンボルマークなど(美術の著作物。特殊な文字フォント、ロゴマーク等も含まれる可能性あり)
  3. 写真(写真の著作物)
  4. 地図、案内図、図表、グラフ、設計図、模型など(図形の著作物)
  5. 楽曲、歌詞(音楽の著作物)
  6. 劇場用映画、動画CM、PV、ゲームソフト画面(映画の著作物又は「映像著作物⁠⁠)
  7. コンピュータプログラム(プログラムの著作物)

これらは、いずれも著作権法で「例示」されているカテゴリー(⁠⁠ )内に記載したもの)に含まれる「著作物」と考えられているものですが、インターネットが発達した現代では、これらの素材を第三者のウェブサイト等を通じて入手することは、そう大変なことではありません。

厳密に言えば、ここに挙げられている「日記」「イラスト⁠⁠、⁠写真」といったものが全て「著作物」になる、というわけではなく、⁠著作物」としての保護(⁠⁠著作権」による保護)を受けるためにはもう一段高いハードル「創作的な」ものであること等)を越える必要があるのですが、その辺りの判断は、素人目にはなかなか難しいのが現実です。

したがって、これらの素材に接した時は、まずは「著作権要注意!」と意識しておくのが無難ですし、この連載もこれらの素材を利用する場面を念頭において進めていくことにします。

「著作権」によってコントロールされる行為

上に挙げた「著作物」を創作した人(=著作者⁠⁠、あるいはその人から権利を譲り受けた人は、⁠著作権」の権利者(著作権者)となります。 そして、⁠著作権者」となった人(会社)は、⁠著作物」を一定の態様で利用する権利を独占(専有)することができ、無関係の人間が無断で著作物を利用した場合(=著作権侵害)には、そのような利用をやめさせたり(差し止め⁠⁠、損害賠償を求めたりすることも可能です。

著作権法には、著作権者が独占できる利用態様が明記されているのですが、ここでもインターネットユーザーに馴染みの深いものとしては、以下の3つのものが挙げられるでしょう。

  1. 「複製」
  2. 「翻案」
  3. 「公衆送信(及び送信可能化⁠⁠」

それぞれ簡単に説明すると、1)「複製」とは、印刷、複写、録音等、手段を問わず「有形的に再製する」こと(要するに、⁠著作物」のコピーを作成すること⁠⁠、2)「翻案」とは、元の「著作物」をベースに、変形・改良を加えて別の「著作物」を作成することであり、3)「公衆送信」とは、通信手段を用いて著作物を公衆に送信することをいう、とされています。

「著作権者」が権利を「独占」しているといっても、これらの態様での「著作物」の利用を全て著作権者自身で行わなければならないということではありませんから、⁠著作権者」は第三者に対して、これらの態様での「著作物」の利用を許諾することが可能です。

裏返せば、ユーザーとしては、⁠著作権者」から「許諾」を受けることによって、⁠著作権侵害」のリスクを冒すことなく「著作物」を利用することが可能になりますから、一般的には「権利者から許諾をとれば安心です」という説明がなされることになります。

しかし、先ほども説明したとおり、⁠著作権」は登録によって発生する権利ではありませんから、誰が著作権を持っているかを確認するだけでも結構大変な作業になりますし、その「許諾」を得るとなると、相手のある話だけに、より多大な労力がかかります。

また、⁠著作物」該当性の判断と同様、どのような場合に上記のような行為態様に該当するのか、法律等で明確な定義がなされているわけではありません。

著作権者の権利が及ばない場合の例外等も存在しますので、自分たちの行っている著作物の利用が「許諾」が必要な行為なのかどうかを判別することも、実は容易なことではないのです。

この連載では、インターネットユーザーが「著作物」を利用する様々な場面を想定しつつ、どのような状況においてリスクを警戒すべきなのか、逆に「許諾なし」で使えるのはどのような状況なのか、といった点を重点的に説明していきたいと考えています。

「著作権法」が、インターネットを通じた「著作物」の利用に特別な規定を設けていない以上、まずは通常の「著作物」利用に際してなされている議論を参考にすることになりますが、連載の中で、第三者の「著作物」に容易にアクセスし、利用することが可能になっている現在の状況も適宜反映しながら解説していければ、と思っています。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧