ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第4回 盗作しても著作権侵害にはならない?-「アイデア」と「表現」の分かれ目

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有名な作家B氏が新興企業である当社を素材に執筆したモデル小説が巷で話題になっています。当社はこれまで⁠乗っ取り屋⁠のイメージで語られることが多かったのですが,B氏の小説の中では,当社をモデルとしたと思われる会社が,⁠ベンチャー魂あふれる先進企業⁠として好意的に描かれていることから,これを読んで感銘を受けた社長から,⁠B氏の小説を素材にした当社のイメージビデオを制作して,投資家に配布するように」という指示を受けました。
ビデオの台本は口語体で構成されており,B氏の小説の表現とは相当異なるものになっていますが,使われているエピソードやそれに対する評価などに,小説におけるB氏独自の着想が反映されているのが明確に分かってしまうのも事実です。ビデオを配布するにあたって著作権の問題が気になるのですが,大丈夫でしょうか?

先に述べた学術論文等の事例と同じように考えるなら,ここでも「⁠表現」の形式が異なるから大丈夫」とあっさり言ってよさそうなものですが,話はそう簡単ではありません。

この種の「著作物」の場合,小説の脚色や映画化といった行為を行う場合でも,⁠翻案」権に基づく著作(権)者の許諾を要する,というのが一般的な考え方ですから,⁠多少形式が異なっても,なお「表現」が共通しているということになってしまうのでは・・?」という疑問も当然出てくるところです。

そんな中,最高裁判所は,(4)に類似した事件について以下のような判断を行い,このような場面での著作権(翻案権)侵害の判断基準について,一応の⁠模範解答⁠を示しました。

言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)⁠既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である。

最高裁平成13年6月28日判決

そして,上告人(被告)が制作した番組のナレーションにおいて,被上告人(原告)が執筆した「著作物」⁠ノンフィクション)特有の認識と同一の認識に立った表現が用いられたとしても,⁠その認識自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず」⁠具体的な表現においても両者は異なったものとなっている」以上,著作権(翻案権)侵害にあたるとはいえない,という結論を導いたのです。

「既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる」

と言われても,ピンとくる方はそんなにいないと思いますし,これだけで保護される著作権侵害となる場合とそうでない場合を明確に区別できるかといえば疑問もあります。

しかし,著作物としての高度の創作性が認められ,著作(権)者の翻案権が広く及ぶと考えられているジャンルの「著作物」であっても,やはり「アイデア」が共通しているだけでは著作権による保護を受けることはできないことを明確にした,という意味では,先の最高裁判決にも大きな意義を認めることができるでしょう。

ちなみに,上記事件の被告と同じ放送局が制作したドラマのワンシーンが,故・黒澤明監督の「七人の侍」の著作権侵害にあたる,として争われた事件でも,裁判所は,

前記番組が前記映画との間で有する類似点ないし共通点は結局はアイデアの段階の類似点ないし共通点にすぎないものであり前記映画又はその脚本の表現上の本質的特徴を前記番組又はその脚本から感得することはできないというべきであるから,前記番組がDの有する前記著作権(翻案権)を侵害するものではない。

知財高裁平成17年6月14日判決

として,著作権者側の主張を退けています。

この事件は,当初,放送局による「盗作」問題として各種メディアに取り上げられ,⁠放送局が原告側に謝罪した」といった事実も伝えられました。

しかし,仮に本件が,広義の「盗作」にあたるとしても,⁠表現/アイデア二分論」の原則を採用している我が国の著作権法の下では「著作権侵害」にあたらない,というのが現実なのであり,私たちが同種の「盗作」騒動に接した(あるいは巻き込まれた)際には,そういったことにも留意する必要があります。

ちなみに,以前,エイベックス・グループの「コンプライアンス・ポリシー」にある,⁠真似ても盗むな」というフレーズが話題になったことがありますが,これを「⁠アイデアを)真似ても,⁠表現は)盗むな」という風に解釈すれば,⁠他者の知的財産権(著作権)を尊重する」という当該指針の内容と何ら矛盾しないということになります。これはまさしく著作権の本質を言い表わした絶妙なフレーズであるように思えてなりません。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。