ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第5回 「著作物」は生き物である-「著作者人格権」という不思議な権利

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「著作者人格権」のこれからの行方

近年,デジタル化,ネットワーク化の進展に伴い,誰でも自由に「著作物」を創作し流通させる環境が整ってきたこともあって,法改正や新たな立法により,現行の「著作者人格権」を制限しようという動きが出てきています。

その背景には,既に見てきたような,⁠著作(財産)権を適切に処理しても,⁠著作者人格権」の存在ゆえに利用に制約が出る可能性がある」という問題に加え(特に「同一性保持権」には,⁠著作物の表現の変更を認めるか否か⁠という点で,著作(財産)権中の「翻案権」と重なる部分があり,まさにこのような問題に直面することになります)⁠著作権法に設けられている以下のような規定の存在も影響していると考えられます。

この款の規定(注:第30条以下の著作権の制限規定)は,著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

第50条

この規定がある限り,著作権保護と著作物の円滑な利用を調整するための規定として設けられている「私的使用」「引用」といった規定が「著作者人格権」の前では無力なものになってしまいますし,今後,著作物の利用促進のために,⁠フェア・ユース」規定を含む新たな著作(財産)権の制限規定をいくら導入しても,利用者が完全に免責されることにはならない,という帰結になってしまうのです。

このような帰結により不都合が生じることを防ぐために,世の中ではこれまで様々な解釈論が展開されてきました。しかし,現に「著作者人格権」「権利制限規定も含めた著作(財産権)に関する規定」を別物として扱う規定が存在している以上,⁠現実に争いになった場合に大丈夫だろうか?⁠という不安はどうしても残ってしまいます。

「インターネットを活用したコンテンツの流通促進」が大きな政策目標として掲げられている状況を考えれば,今後は現在の著作権法における「著作者人格権」の存在意義自体を問い直す動きがより強まってくることでしょう。

「新しい著作物を創作する」という行為は,それ自体価値の高いものであり,そのような行為によって生み出された著作物に対する著作者のこだわりも,十分に尊重されるべきだと思います。

しかし,だからといって,著作物の利用に伴って生じる常識的な範囲の改変行為まで著作者の一存によって禁止される,と解したのでは,著作物の円滑な流通の促進など望むべくもありません。

そもそも,現実に「著作者人格権」侵害が問題になったケースの中には,著作(財産)権の譲渡(利用許諾)時に著作者が当初意図した条件で契約できなかったため,同じ目的を達成するために,あえて「著作者人格権」を持ち出したのではないか,と推察されるものさえあります(いわば,権利処分後の⁠蒸し返し的権利行使⁠ともいうべきものです)⁠⁠如何なる権利も濫用してはならない」という社会の基本的なルールを,私たちは今一度見つめなおす必要があるように思います。

今後,⁠著作者人格権」がどのような運命を辿っていくのか,ここで予測することは極めて困難ですが,著作権制度が,著作者(著作権者)の利益と利用者の利益の双方に配慮して設計されたものであること,そして,⁠著作者人格権」も基本的にはそのような制度の枠の中で認められている権利であること,を考えれば,方向性は自ずから見えてくるように思えてなりません。

今,実務で問題となっている「著作者人格権」をめぐる話題は数多く存在しており,ここで取り上げたものは,そのほんの一端に過ぎませんが,今回の連載が,皆様にとって,⁠著作者人格権」という不思議な権利に思いを馳せる一つのきっかけになれば,望外の幸いです。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。