ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第6回 社員のモノは会社のモノ? -「職務著作」という考え方

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時代の変化が招く「職務著作」トラブル?

このように,これまで注目されることの少なかった「職務著作」ルールですが,最近になって,会社と社員のいずれが著作者となるか,について正面から争われる事件がチラホラ登場するようになりました。

「職務発明」をめぐる紛争が多発した背景には,⁠個々の社員の権利意識の高まり」に加え,⁠いわゆる"終身雇用"時代が終焉したことにより,これまで会社に忠実に働いてきた人々の不満が爆発した」といった事情もあったと言われていますが,こういった事情は「職務著作」をめぐる紛争においても,何ら変わるところはありません。

そして,上意下達的な仕事の進め方に変化の兆しが見られ,しかも様々なツールを用いて個々の社員が高度な創作活動を行いうるようになってきた今(例えば,プレゼンテーション用の資料ひとつ取ってみても,以前に比べればデザイン上の創作性は遥かに高いといえるでしょう⁠⁠,これまで必ずしも「職務著作」ルールを明確に意識していなかった企業内の実務と法律で定めるルールとの食い違いが引き金となってトラブルが起きる可能性を否定することはできません。

実際,冒頭に紹介したA氏のケースと似たような事例が,裁判所に持ち込まれて争われているのですが(知財高裁平成18年10月19日判決⁠⁠,そこでは,「教材(講習資料)の作成名義として記されているのは業界団体(C協会)の名称だけであり,A氏の所属する会社(B社)の名義は記載されていない」という理由で(上記の要件を満たさないとして⁠⁠,"著作者はA氏である(会社の著作物とはいえない)"と判断されています。

もっとも,裁判所は続けて,A氏がB社やD課長による教材の利用を「黙示的に許諾」した,と判断し,加除修正についても「同意に基づく改変」にあたる,として,A氏側の損害賠償請求等を退けています。

また,別の事例として,次のようなものもあります。

(2)

(甲氏)は,現在の会社(乙社)に入社後,プログラムの開発を担当していました。ある時,私は大学院時代の研究成果を元に,業務に関係する特殊なプログラムの開発を提案したのですが,上司の反対にあったため,独自に開発を進め,⁠プログラム丙1」を完成させました。また,会社を一時休職して海外に留学した際に,既に開発したプログラムをさらに改良して「プログラム丙2」を完成させました。

当初,乙社は,これらのプログラムの採用に消極的だったのですが,やがて方針を転換してこれらを業務に用いるプログラムとして採用したほか,他のメーカーにライセンスする等して利益を上げています。

これまでの私の苦労を考えると,丙1や丙2が"会社のプログラム"として一方的に利用されるのは不当ではないかと思うのですが,創作者として私が法的に何らかの主張をすることはできないものでしょうか。

ここでは,⁠プログラム丙1・丙2」の創作に関し,「職務上作成するものであること」という要件や,「法人等(会社)の発意に基づくものであること」という要件が,問題となりえます。

直接の「業務指示」を観念しにくい休職・留学中に作成したプログラムの著作権の帰属が問題になったことなどもあって,裁判所の判断が注目されたのですが,結局,知財高裁は,「職務上作成する」という要件を,業務に従事する者に直接命令されたもののほかに,業務に従事する者の職務上,プログラムを作成することが予定又は予期される」場合も含むと広く解釈し,また,「法人等の発意」についても,法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり,法人等の業務計画に従って,業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には,法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも」法人等の発意があるといえるとすることによって,自己に著作権が存在することの確認を求めた甲氏の請求を退けました(知財高裁平成18年12月26日判決⁠⁠。

社会常識に照らした結論の妥当性を重視した判断だと思われますが,このようなタイプの紛争が世に出てくるようになったこと自体に,時代の変化を感じずにはいられません。

一般的に,⁠職務著作」ルールの背景には,

会社の内部では日常的に無数の著作物が創作されているため,それらについての著作権や著作者人格権の帰属が一元化されていないと,会社の活動や著作物を利用しようとする者の活動に大きな制約が生じてしまう。

といった問題意識がある,とされています。そして,それゆえに,⁠著作物の創作者個人を「著作者」とする(=著作権・著作者人格権も創作者個人に帰属する⁠⁠」という本来の原則を大幅に修正するルールも許容されているのです。

しかし,どんなに便利なルールであっても,法の定める要件をきちんとクリアしていなければ有効に活用することはできません。社員対会社,あるいは社員同士の著作権トラブルを生じさせないためには,日頃から「職務著作」のルールをしっかり意識して,実務を進めていく必要があるといえます。

また,会社が著作者となるに足る要件を満たしているかどうかが疑わしい著作物を改変したり,他の用途に転用したりする場合には,念のため作成した本人に可否を確認する,あるいは,むやみに改変・転用等を行わない,といった安全策をとることも一考に値するのではないかと思います。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。