「多くのクリエイターにとって、これは受け入れがたい事実かもしれない。広告を自分のクリエイティビティのはけ口と期待して業界に入った彼らは、他人の優れたアイディアや既存のプラットフォームを上手く活用することが重要であり、成功の可能性を高めるためにはより多くの場所からクリエイティブを集めることが効果的であるということに気づき始めている。」
RazorfishのCEOであるBob Lord氏は、著書の『Converge』で「次世代のストーリーテリングはテクノロジーを通じたブランドの表現になる」と述べています。新たなテクノロジーが次々と消費者や広告主に採用されるなかで、クリエイターにも様々なテクノロジーへの理解が求められています。
なかでもクリエイティブの数を増やし、その効果を測定するテクノロジーはクリエイターの仕事に大きなインパクトを与える可能性があります。「クラウドソーシング」という考え方はクリエイターの立場を揺るがすものとして数年前に大きな注目を浴びましたが、いまだその活用はロゴやグラフィック制作など小さな案件に限定され、クリエイティブエージェンシーに大きな影響を及ぼすまでには至っていません。しかし、テクノロジーの進歩と共にテクノロジーがクリエイティブに与える影響は確実に増えています。
正確なクリエイティブブリーフを短期間で作るeYeka
昨年アサツーディ・ケイと提携し日本に上陸したeYekaというプラットフォームは、現在154カ国から25万人を超えるクリエイターのデータベースを抱え、世界の多くのトップブランドにクリエイティブを提供し続けています。
このeYekaは一見映像コンテンツのクラウドソーシングサイトのようにも見えますが、クライアントが購入しているものはコンテンツではなく「クリエイティブアイディア」そのものです。クライアントの課題に対し、eYekaは2行のシンプルな指示を作成し、クリエイターから映像やコピーなどのクリエイティブを募ります。投稿されたクリエイティブはもう一度全員に配信され、閲覧・投票・コメント投稿・アンケートが実施されます。eYekaはその反応を基に、エージェンシーへのクリエイティブブリーフの基となるドキュメントを提供しているのです。
本来であれば半年以上ものリソースを要するキャンペーンアイディアのクリエイティブプロセスを大幅に短縮し、より効果的なクリエイティブを導き出すことができるとCo-FounderのAlexander Olmedo氏は言います。私も最初は半信半疑でしたが、クライアントの意向で協業する機会があり、その効果を実感しました。実際に他のクリエイティブエージェンシーが制作した映像とeYekaの調査が元となった映像のパフォーマンスを比較したところ、数十%ものパフォーマンスの差が出たのです。
クリエイティブを自動的に最適化するiogous
Fringe81が提供するiogousはパーツごとに異なるバナーを大量に生成し、コンバージョン率の高いバナーを自動的に絞り込むことができるクリエイティブ最適化ツールです。
実際の事例から、バナーのパフォーマンスは何倍にも改善され、広告費のROI向上に役立っていることが証明されています。さらに、ユーザーがバナーをクリックした後の行動を解析することにより、どのような態度変容が起きたかとうこともわかります。
このようなツールを使えば、クリエイターやマーケティング担当者が主観的にクリエイティブを選定する必要はありません。すべての仮説を検証し、最適なものを採用すれば良いということになります。今はバナーのクリエイティブに限られたテクノロジーですが、この結果がテレビや店頭でのコミュニケーションに活用されることも十分に考えられます。より多くのクリエイティブをテストし、ユーザーの行動データから最適なものを見つけ出すという手法はテクノロジーの進歩と共にいずれ多くのクリエイティブの分野に広がるでしょう。
今後ブランドコミュニケーションの有効性を左右するのは、クリエイティブの量とデータになるでしょう。より多くの仮説やアウトプットのバリエーション、さらにはデータを正しく得るための設計が求められます。近い将来「クリエイティブ」という仕事はアイディアやコンテンツの制作にとどまらず、効率的にコンテンツを集め、最も効果的なものを導き出す設計を行うことを意味するようになるのかもしれません。