組織が事業目標を達成するためには、部署や従業員のレベルで様々な指標を設定し、管理する必要があります。デジタルマーケティングでは測定可能な項目が多く、指標は無数に存在しますが、その多くは売上や利益に直接結びつくものではありません。PVやいいね!数の増加がどのように収益の成長に貢献しているのか? そのような疑問を抱くマーケティング担当者は決して少なくはないでしょう。また、マーケティング担当者が短期的な収益を直接の指標とした場合、一時的な売上増や利益確保を重視した施策が多く実行されてしまいます。このような施策は、長期的な利益を生む戦略や投資の妨げとなり、結果的に継続的なビジネスの成長を難しくしてしまうのです。
多くのビジネスにとって、最も重要な成長の指標はブランドに対するロイヤルティです。ロイヤルティの高い顧客は新規顧客を紹介し、自らの継続的な購入を通じて、ブランドの収益を成長させます。さらに、推奨を通じて、ブランドの資産価値を向上させ、プロモーションや値引き、カスタマーサポートの不要性から、様々なコストを削減し、利益率の改善にも貢献します。ブランドがビジネスを成長させるためには、ロイヤルティの高い顧客を増やし、低い顧客を減らすことが最も効果的であると言えるでしょう。
ブランドロイヤルティと購買行動の関係は40年以上も前から注目され、数値的な計測が求められて来ました。2002~2003年には米コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーとサトメトリックス・システムズが、顧客ロイヤルティ調査に用いていた『Loyalty Acid Test』の質問項目と、対象企業のビジネス成長の相関性を分析し、ネットプロモータースコア(NPS)という測定方法を考案しました。以来、NPSは世界中の企業から注目され、ブランドロイヤルティの指標として活用されています。
ブランドのNPSを測定するためには「X社を友人にや同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 0~10点で評価してください」という一つの質問から、ユーザーを「批判者(0~6)」「中立者(7~8)」「推奨者(9~10)」の3グループに分類し、推奨者と批判者の比率の差異を計算します。この数値を競合ブランドや業界平均などと比較することで、ブランドの競争力を知ることができます。しかし、ただ数値を知るだけではロイヤルティ向上に向けたアクションを実施できません。NPSを測定する際には、必ず「評価の主な理由は何ですか?」というフォローアップの質問を加えるようにします。その回答内容からは、ブランドが推奨者を増やし、批判者を減らすためにどのようなアクションを行うべきかが見えてくるのです。
"X社を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 0~10点で評価してください。"
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"評価の主な理由は何ですか?"
NPSをマーケティングの主な指標とし、その改善に向けたアクションを徹底することで、顧客のブランドに対するロイヤルティは間違いなく向上するでしょう。ブランドの健康状態や、ビジネスインパクトの高い施策をリアルタイムに理解し、すべてのマーケティング活動を1つの指標で管理することが可能になります。しかし、NPSを指標とする最大のメリットは消費者に向けた施策の改善ではなく、組織にもたらす意識の改革であると言えます。ロイヤルティの向上を目的に戦略を考えることで、「顧客を喜ばせること」がチーム共通のゴールとなり、組織全体が「顧客中心主義」へとシフトすることができるのです。
NPSとビジネス成長には相関関係があるだけであり、因果関係は証明されていません。しかし、NPSを採用しているブランドの成長や、顧客ロイヤルティとビジネス成長の密接な関係を否定することはできません。NPSの採用からは、ロイヤルティの向上に向けた仮説が明確になるだけではありません。既存ユーザーを3グループに分類すれば、ユーザー行動の比較からインサイトを得たり、推奨者にクチコミを促したりすることも可能になります。NPSの測定は決して多くのリソースや、コストがかかるものではありません。たった2つの質問を行うことで、ブランドは確実なビジネス成長へのヒントを得ることができるのです。