デジタルブランドマネジメント

第39回広告クリエイティブのアイディエーションプロセス

クリエイティブな広告は、マーケティングメッセージに溢れた環境の中で消費者の注目を獲得し、新しい手法で広告主の課題を解決するものです。クリエイティビティとは「未だ見ぬものを形にすること」であるとも言われています。独創的であり、既存のアイディアに依存しないものがクリエイティブであると言えるでしょう。

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しかし、新規性だけがクリエイティブの定義ではありません。二つ目の側面として有用性があげられます。マールボロマンの広告で有名なレオ・バーネットは、クリエイティビティを「本来無関係なものの間に、新たな有効な関係を確立する技術」と定義しました。広告の場合、消費者にベネフィットを伝えるということが広告主にとって有要な価値であると考えられ、優れた広告クリエイティブは「新しい方法でベネフィットを伝える」ものと定義できます。

従来、クリエイティブは、コピーとアートワークの組み合わせによってもたらされるものでした。しかし、現在では、ソーシャルメディアなど、消費者がクリエイティブに参加できるタッチポイントや、様々なテクノロジーなどの要素も含まれるようになり、クリエイティブの幅は大きく広がっています。

クリエイティブの要素

優れたクリエイティブには4つの要素があるとも言われます。広告クリエイティブの有効性を評価する4-Dモデルには次の4要素が含まれます。

  • ① 新規性(想像性・独自性・革新性・斬新性・驚き)
  • ② 有用性(有意味性・説得力・戦略性・記憶容易性)
  • ③ 影響力(好感度・情緒的な魅力・共感性)
  • ④ ユーモア
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すべての広告が必ずしもクリエイティブである必要はありません。特定の情報を伝えるだけの広告も多く存在します。しかし、効果的な広告クリエイティブの多くは上記の4要素を含むものが多いため、4-Dモデルは優れたクリエイティブの評価基準であると言えます。

クリエイティブのプロセス

『アイデアのつくり方』の著者、ジェームス.W.ヤングはクリエイティブのプロセスを5段階に分けています。

  1. Ingestion:情報を収集する
  2. Digestion:目的と収集した情報を理解する
  3. Incubation:タスクから離れ、無意識下で情報を組み合わせる
  4. Inspiration:アイディアを発見し、理解する
  5. Verification:アイディアを評価し、実現に向けて改善・開発する

エージェンシーではアイディエーションをグループで行うことが一般的です。ブリーフやリサーチの内容を共有し、複数のメンバーが異なる視点からソリューションを考える「ブレーンストーミング」が一般的ですが、誰もが過去の知識や情報をもとに考えるため、新規性が重要である広告クリエイティブには適していません。より効果的な手法として、イノベーション・コンサルティングを提供するSIT社のサブトラクション、マルティプリケーション、アトリビュート・ディペンデンシーなどがあります。商品の構成要素や消費者の可変要素などを分解し、1つずつその状態を変化させることでアイディアを生み出して行くシステマチックなプロセスです。

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サブトラクションでは、商品やサービスが提供する体験の構成要素を分解し、重要なものを1つ取り除きます。商品が提供するエモーショナルなベネフィットなどを描くのに効果的です。上記のハインツの例では、最も重要なケチャップのボトル自体を映像から無くし、⁠幸せな食卓」というベネフィットを演出しています。MazdaのBe a Driverも同じような方法で考えられたのかもしれません。

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マルティプリケーションも同様に体験の構成要素を分解しますが、今度は1つの要素を増やします。ポイントは増やしたことによって定量的ではなく、定性的な変化を起こすことです。上記のAXEの例では香りに惹かれる女性が無数に登場します。この場合、ベネフィットは「もっとモテる」ではなく、⁠最も」または「モテすぎる」というものです。ベネフィットを大袈裟に表現する際に効果的です。

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アトリビュート・ディペンデンシーでは、広告の対象となる商品やサービスの構成要素(内的要素)と、消費者や市場などの可変要素(外的要素)を分解し、洗い出します。その一つひとつをシステマチックに掛けあわせ、新たなベネフィット表現の可能性を検証します。既成概念を取り払って考えるため、ブレーンストーミングよりも多くのアイディアが生まれます。また、過去のクリエイティブの模倣にならず、クリエーターが既存のイメージにとらわれることもありません。上記の例ではTVネットワークで放映されるホッケーの試合を試聴する回数と、ユーザーの強さ(痛みに対する耐性)をつなげています。一見全く無関係なものをつなげ、新しいベネフィットを見出す手法は、世の中のイノベーションの3分の1を生み出しているとも言われています。

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内的要素と外的要素に加え、チャネルの次元を足すことにより、インタラクティブな企画のアイディエーションにも使えます。上記のパンテーンの例では、製品の「効果・仕上がり」⁠天候・気温」「アプリ」を掛けあわせ、⁠どんな天気でも美しい髪でいられるアプリ」を作り出しています。

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クリエイティブのプロセスはアイディエーションだけではありません。エージェンシーだけでなく、広告主や(リサーチなどを通じた)消費者を含めた、各ステークホルダーのコンセンサスを得ながら開発を進める必要があります。広告クリエイティブの制作は、複数のステークホルダーによるインプット、アウトプット、評価が必要となる複雑なプロセスであるため、アトリビュート・ディペンデンシーのようなロジカルなアイディエーションプロセスと、4-Dモデルのような客観的な評価方法が採用することが効果的であると言えます。

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