Flash CS4に搭載された「モーションプリセット」は、“モーション(motion)”の“プリセット(preset)”ですから、前もってセットされている動きをステージ上のオブジェクトに適用できる機能、もしくは自分で設定した動きを記録・再利用できる機能のことです。
今回は、このモーションプリセットの活用方法について解説していきます。
モーションプリセットは、タイムラインエフェクトとは違う
Adobe社のサイトでFlash CS4の製品ページを見ると、「基本的なモーショントゥイーンをワンクリックで作成」「新しいアニメーションツール群で編集作業がさらに効率化」といった見出しが目につきます。
一押しの新機能として紹介されており、アニメーション作業の「効率化」が強調されています。「最適化されたアニメーションツール群」を見ると、以下の4つの新機能が列挙されています。
- オブジェクトベースのアニメーション
- モーションパス
- モーションエディタ
- モーションプリセット
「モーションプリセットって、“タイムラインエフェクト”みたいな機能でしょ」などと思っていませんか?
たしかに、タイムラインエフェクトもアニメーション作業を効率化するために搭載された機能でしたね(※タイムラインエフェクトはMX2004から搭載された機能。CS4では廃止されました。タイムラインの制御が重たくて、作業の効率化には貢献できなかった機能かもしれません)。
一見すると、モーションプリセットも同じような印象を持たれてしまいそうですが、大きく異なるのは(トゥイーンが、キーフレームではなくオブジェクト自体に適用される)オブジェクトベースのアニメーションに最適化されたツールになっていることです。これで、アニメーションワークの効率化につながるモーションの再利用が可能になったわけです。
以下のビデオは、MX2004を使っていた頃、タイムラインエフェクトを駆使して作るはずだったアニメーションです。いろいろ試行錯誤しましたが、あまりにもパフォーマンスが悪くて挫折してしまいました(結果的に、通常のモーショントゥイーンで作成しました)。
このビデオのような長いアニメーションをデザインするとき、モーションプリセットが活用できないか考えてみました。複数のモーションの組み合わせで作られているため、基本となるモーションを登録しておけば再利用によって大幅に効率化されます。これは実際に試さなくても想像できる利点でした。
実は、もっと大きなメリットがあったのです。それは、「調整」の容易さです。複雑な設定をしたアニメーション・シーンを調整するときに、絶大な効果を発揮します。たとえば、トゥイーンスパンを短くして、動きの速さを部分的に調整したい場合、CS3までのモーショントゥイーンだと(中間のキーフレームも調整しなければならないため)大きな作業が発生してしまいますが、CS4だとドラッグするだけで終了します(プロパティキーフレーム間も自動調整してくれます)。
一発適用して完成!というわけにはいきません。こまかい調整を何度も繰り返して、作品のクオリティが上がっていきますから、エディティングのユーザビリティが高いというのは大きな利点だと言ってよいでしょう。
モーションプリセットの使い方
モーションプリセットの使い方はとても簡単です。すでに30種類のモーションが登録されていますので、実際に適用してみましょう。
それでは、「ウェーブ」をステージ上のオブジェクトに適用してみます(書籍のPart-2 Lesson-5 STEP02「モーションプリセット「ウェーブ」を適用する」と同じです)。
- ステージ上のオブジェクトをクリックして選択しておく
- モーションプリセットの「ウェーブ」を選択し[適用]ボタンをクリックする
- 適用されたオブジェクトの位置を調整する
- 適用されたオブジェクトの大きさを調整する
- 全体を見ながら、もう一度オブジェクトの位置を調整する
重要なポイントは、「適用後」の編集です。モーションプリセットを適用した後に、位置の変更や伸縮を実行してアニメーション全体を調整するとき、操作手順が多かったり、Flashの動作が重たくなるようでは作業に支障が出てしまいます。CS4のモーショントゥイーンではモーションパスが表示され、オブジェクトとは別に伸縮や回転などを実行することができるようになっています。この仕様によって、柔軟性や表現のバリエーションを容易につくり出すことが可能になっています。
モーションプリセットの登録方法
モーションプリセットには、30種類のモーションが登録されていますが、自分で作成したモーションが再利用できないと実用的なツールにはなりません。同機能では、カスタムプリセットとして登録することが可能になっています。
以下に手順を示します。
- トゥイーンアニメーションを作成する
- ターゲットオブジェクトを選択して、モーションプリセットの[選択範囲をプリセットとして保存]アイコンをクリックする
- プリセット名を入力して[OK]ボタンをクリックする
これで登録されましたが、プレビューが表示されません。登録数が増えてくると、プレビューなしでは使いづらくなってしまいます。以下の手順を実行すると、カスタムプリセットにもプレビューを付加することができます。
- ムービープレビューを実行してSWFファイルを書き出す
- ファイル名は、カスタムプリセットと同じ名前にしておく
- 「Motion Prisets」フォルダにドラッグする
- 「Motion Prisets」フォルダの場所:
- Windows Vista:
ローカルディスク > ユーザー > ユーザー名 > AppData > Local > Adobe > Flash CS4 > ja > Configuration > Motion Presets
- Mac OS X:
ローカルディスク > Users > ユーザー名 > Library > Application Support > Adobe > Flash CS4 > ja > Configuration > Motion Presets
オブジェクトベースのアニメーションについて
書店の美術コーナーに置かれている「アニメーション技法」に関する専門書を見ると、「歩く」「走る」「座る」「立つ」といった人間の動きについての解説ページがあります。掲載されている理論や技法の解説を読み、頭で理解しても、そう簡単には実践できません。デッサン力を身につけながら、鉛筆で一枚ずつ動画を描いていく地道な作業です。描画力だけではなく、観察力も要求されます。
「Flashだったら、もっと簡単にできるはず」と思って、チャレンジした人も多いのではないでしょうか。たとえば、人間がステージの右から左へゆっくり歩く、というアニメーションをつくる場合、二通りの手法が考えられます。一つは、タブレットペンなどを使って歩く絵をステージ上に一枚ずつ描いていく手法、もう一つは手足などをこまかくパーツ分けして、モーショントゥイーンで動かす手法です。パーツをそれぞれ描いて、個別にモーショントゥイーンを設定して動かす方がFlashの機能を駆使できますので作成も容易に思えますが、けっして楽な作業ではありません。
以下のビデオは書籍のレッスンファイル(Part-4 Lesson-6)ですが、リミテッドアニメのように少ない絵数による「走り」を実現するため、手法としてクラシックトゥイーンを選択しています。
人間らしい動きを表現するのなら、手描きの方が適しているかもしれません。モーショントゥイーンだと、どうしても人形やロボットのような動きになってしまいます。フレーム数を増やしてスムーズにしても動きがリアルになるだけで、やはりロボットのような感じになってしまう。アートアニメーションのように一つの表現として、動きの違和感も作品の魅力にできればよいのですが(カットアウト・アニメーションのように)、ビジネスプレゼンテーションなどでは尖がりすぎるかもしれませんね。無理に動かさず、数枚のイメージ写真で構成した方が意図したイメージに近づくこともあるでしょう。
オブジェクトベースになっても、最終的には「何をどう表現するのか」で決まります。表現の内容によっては、クラシックトゥイーンも選択肢の一つになり得るという意識を持つことも重要です。
まとめ
本連載のテーマは「オブジェクトベースアニメーション」です。CS3までのワークフローに慣れてしまった人にとっては、可能性よりも戸惑いの方が大きいと思いますが、すこしだけ頭を切り替えて、新しい学習に時間を使ってほしいと思います。よく使いそうなモーションをモーションプリセットに登録していくのもよいでしょう。何か、きっかけをつくってオブジェクトベースのアニメーションの世界に入ってみてください。
次は、最終回です。3Dやインバースキネマティックなどの新機能を紹介します。