個人でもドメインを取得する時代
伸長するホスティングサービス
ほんの何年か前まで、個人だけでなく自営業者や中小企業の多くは、インターネット接続サービスのプロバイダが提供するディスクスペースにホームページを開設することが一般的でした。それが2001年に汎用JPドメインが新設されたのを機に、自社ドメインを取得して運用する例が増え始め、現在は大部分の企業が自社ドメインのインターネットサーバを運用するようになりました。
そうは言っても、インターネットサーバを自社で構築/運用するような技術のある自営業者や中小企業は一部に限れられます。そこで、レンタル用のインターネットサーバに独自のドメイン名を割り当て運用する「ホスティングサービス」のビジネスが伸長しています。
ホスティングサービスは、大きく共用サーバと専用サーバに分けられます。共用サーバは、1つのIPアドレスを複数ドメインで共有する「バーチャルドメイン」という仕組みを利用したホスティングサービスです。インターネット接続回線と1台のサーバを数十?数百ドメインで利用するため、初期導入コストや月額の利用料金が安価という特長があります。ただし、他のドメインのユーザに迷惑をかけないように、ディスク容量は小さく、データ転送量にも制限が設けられているのが普通です。
一方の専用サーバは、1台のサーバコンピュータを1つのドメインで占有するホスティングサービスです。サーバが丸ごと利用できるので、サーバOSを自由に選んだり、アプリケーションをインストールしたりすることもできます。接続回線のデータ転送量の制限はなく、最大ギガビットまでの帯域保障を設けている場合もあります。もちろん、共用サーバに比較すると、専用サーバを用意するための初期費用や月額料金はやや高めになります。
多様化するホスティングサービス
共用と専用の中間的サービスも出現
ホスティングサービスの利用者の幅の広がりとともに、ホスティング事業者が提供するサービスは多様化しつつあります。
共用サーバは従来、数十~数百のディスクスペースと数個?数十個程度のメールアカウント数で月額5000円程度の利用料金が相場でした。しかし、料金の低価格化、サービスメニューの高度化により、現在ではドメインの維持費用を含めても、年額で5000円以内という非常に安価なホスティングサービスもあります。
同じように、専用サーバの低価格化も顕著です。従来は専用サーバを用意するために、数万円?十万円程度の初期導入費用が必要で、月額料金は3万円?5万円が相場でした。それが現在では、初期導入費用が無料、月額料金も1万円以内というサービスが続々と登場しています。低価格の専用サーバの中には、他の事業者やユーザに再販できないなどの条件が設けられている場合もありますが、サーバのOSを自由に選択し、管理者権限で自由自在に運用できるのは従来の専用サーバと変わりありません。数十ギガバイトのディスク容量を利用できるインターネットサーバを数千円で借りることができるので、すでにインターネットサーバの運用実績のある企業の乗り換えも拍車がかかっているようです。オプションサービスの充実ぶりよりも、料金を優先する企業には魅力的な選択肢になっています。
さらに、低価格と高機能を両立するホスティング環境を実現するために、共用サーバと専用サーバの中間的位置付けのサービスも出現しています。これは、サーバコンピュータのハードウェアやOSは共有するものの、それぞれのドメインに独立した領域を割り当て、各ドメインのユーザは管理者権限でサーバにアクセスできるというホスティングサービスです。これは、「 バーチャルプライベートサーバ」と呼ばれ、共用サーバ並みの料金で専用サーバに匹敵する自由度の高さをウリにしており、今後のユーザ増が大きく見込まれています。
図1 ホスティングサービスの種類
用途・目的別にホスティングを選ぶ
パッケージの内容に注目
従来のホスティングサービスは、「 com」「 jp」などの独自ドメインの取得を代行し、ホームページ用のHTTPサーバ、ファイル転送用のFTPサーバ、メール受信用のPOP3サーバなどの機能を備えた共用サーバを数十?数百メガバイト単位のディスクスペースに区切ってレンタルするというビジネスでした。ディスク容量あたりの料金競争はあっても、各社がサービスの違いを明確に示すことはあまりありませんでした。
ところが、独自ドメインを取得してインターネットサーバを運用する利用者の裾野が広がるにつれ、料金の違いだけではホスティングサービス事業者間の差別化が難しくなってきました。そこで、ホスティングサービス事業者が提供するサービスは、同じ料金でどれだけ豊富な機能をより簡単に利用できるパッケージとして用意するかの勝負になってきました。
ホスティングサービスのパッケージ化とは、インターネットサーバの運用に必要な機能をすべて用意し、基本料金の範囲内で提供するものです。初めて独自ドメインでインターネットサーバを運用する自営業者や中小企業で、インターネットサーバの運用のノウハウがまったくないような場合、こうしたパッケージ化されたホスティングサービスを提供している共用サーバを選ぶとよいでしょう。ホームページを会社紹介などに利用するのであれば、サーバの性能やディスク容量も、インターネット回線の帯域幅も共用サーバで十分です。
インターネット上にオンラインショップを開設したいという商店主であれば、ショッピングカート、決済などの機能がウィザード形式の簡単な操作と設定で利用できるオンラインショップ構築用アプリケーションをパッケージとして用意しているホスティングサービスを選ぶとよいでしょう。また、インターネットサーバをオフィスの業務効率化に役立てたいという企業なら、予定表や掲示板、施設予約などの機能を備えたグループウェアアプリケーションが用意されているホスティングサービスがお勧めです。
この他にも、送受信メールのウイルスチェック機能、大きな添付ファイルもやりとりできるメール容量無制限サービス、迷惑メールやスパムメールなどをフィルタリングする迷惑メールチェック機能、会員制ホームページや掲示板/チャットなどのコミュニケーション機能、インターネットサーバをWindowsのフォルダを操作するように扱えるWebDAVファイルサーバ機能、動画や音声をリアルタイムに配信するストリーミングサービスなど、特徴的な機能を用意するホスティングサービス事業者も増えてきました。
ホスティングサービスを予算重視で選ぶのもひとつの方法ですが、インターネットサーバで何をしたいのか、その用途/目的に合致するホスティングサービスを選びましょう。
機能の豊富さだけではない
管理者の負担を減らす操作性も大切
パッケージ化を進めるホスティングサービスでは、前述したようにオンラインショップが簡単に開設できたり、グループウェアが利用できたりといったより特徴的な機能を用意して、新しいユーザの獲得を狙っています。
しかし、機能がたくさん用意されていても利用する必要がなければ意味がありません。むしろ、機能が豊富すぎるために操作性が損なわれる場合もあります。オンラインショップ、グループウェア、ストリーミングなど、特殊な利用方法を考えていないのなら、ホスティングサービスの操作性や管理性に注目するとよいでしょう。
たとえば、ホスティングサービスに用意されている管理者用の画面インターフェイスも、ホスティングサービス選びのポイントとして考えられます。管理者用の画面インターフェイスは通常、Webサイトの管理者だけに用意されていますが、管理者だけでなく、一般の利用者用にも専用の管理画面を用意しているホスティングサービスもあります。こうしたホスティングサービスは、専門の管理者を用意することができない自営業者や中小企業では非常に役立つサービスと言えるしょう。
また、オンラインショップを開設している企業では、ホームページの閲覧数や検索キーワードなどの細かいアクセスログを分析/表示してくれるアクセス解析機能も便利です。現在、話題になっているSEO(検索エンジン最適化)を支援する強力なアクセス解析機能を用意したホスティングサービスもあります。
ブロードバンド接続サービスや
特徴的なOSの採用例も登場
ホスティングサービスを巡るこのところの動きとして最も顕著なのは、ディスク容量あたりの単価の下落ですが、一方でホスティングサービスで採用するオペレーティングシステムについて、その特徴を前面に出すホスティングサービスも増えてきています。たとえば、ADSLまたはFTTHのブロードバンド接続サービスをホスティングの標準メニューに組み込んだ事業者もいます。従来からのISP(インターネット接続サービスプロバイダ)が回線接続の延長線上でホームページ用レンタルディスクスペースを有償無償で提供しているのと逆のアプローチになります。従来型のISPでは、ナローバンドによる接続を考慮したアクセスポイントを設置しなければならないなど、膨大な設備投資が必要でしたが、PPPoEによって簡単に回線接続ができるブロードバンド専用とすることで、ホスティングサービス事業者も容易にアクセス回線を提供できるようになったのです。
また、ホスティングサービスのサーバコンピュータのOSに特色を持たせた事業者も目立ってきました。たとえば、いくつかの事業者では、ホスティングサービスに採用される例の少ないWindows Server 2003/2008を採用し、.NETによるWebアプリケーション/Webサービスの提供を可能にしています。Linuxでは、さまざまな商用版Linuxを利用したサービスなども登場しています。
確実な運用・管理を実現する
マネージドホスティングサービス
ホスティングサービスを利用するのは、自社でインターネットサーバを運用するスキルのない企業だけとは限りません。今や、ある程度の規模の企業であってもホスティングサービスを利用する時代です。インターネットサーバは、とかくセキュリティ面で細心の注意を払わなければなりません。ネットワーク機器の設定はもちろん、サーバ上で動作するOSやアプリケーションのセキュリティホール対策を考慮する必要があります。こうした作業を自社内で行うには、専門のインターネットサーバ管理者を置き、常にインターネットサーバを監視していなければならないため、自社で運用するよりもホスティングサービスを利用したほうが手間もコストも削減できるわけです。
そうしたインターネットサーバの運用ノウハウや技術的なスキルを持った企業を対象に、障害保守を含めた管理/運用をホスティングサービス事業者側が行うマネージドホスティングサービスも増えています。これは、従来のホスティングサービス事業者だけでなく、これまでインターネット接続回線とサーバの設置場所である19インチラックを用意するコロケーションサービスを提供してきたデータセンター事業者にとっても、新しいサービスとして注目されています。
管理/運用までをホスティングサービス事業者が担当するマネージドホスティングは、専用サーバとハウジングの隙間を埋める新たなホスティングサービスの分野として期待されています。マネージドホスティングサービスを利用することで、ユーザはインターネットサーバを自由自在に構築できるというメリットと、障害対策/セキュリティ対策など、面倒な管理/監視業務を事業者に代行してもらえるというメリットの両方が享受できます。こうしたメリットが評価され、これまで自社で運用してきたインターネットサーバをマネージドホスティングサービスにアウトソーシングする例が急増しているのです。
マネージドホスティングの提供形態は、パッケージ化が進むエントリークラスの共用サーバホスティングと同様に、豊富な管理/監視メニューをオールインワンで用意する事業者があります。一方で、利用しない機能に無駄な料金を支払うことのないように、オプションとして詳細に用意しているホスティングサービス事業者もあります。
マネージドホスティングの主なオプションには、ホームページにアクセスするエンドユーザに対して、他のサーバのアクセス数にかかわらず一定の品質の回線接続を提供する帯域保障サービス、トラフィックが集中するホームページで複数のサーバに処理を振り分けるロードバランシングサービス、24時間365日インターネットサーバの稼働を監視して障害発生時に通知するサーバ監視サービス、サーバの障害発生時に遠隔地からサーバコンピュータを再起動する遠隔保守サービス、インターネットサーバのゲートウェイ部分にファイアウォール専用装置や不正アクセス侵入検知システムを設置するセキュリティ関連サービス、重要度が高いデータをファイバチャネルなど堅牢なストレージに保管するストレージサービスなど、実にさまざまなサービスがあります。
配信するコンテンツを考慮して
自社のニーズに適した事業者を選ぶ
ホスティングサービスの目的は、インターネットサーバを手間をかけずに運用することにあります。ホスティングサービス選びの第一歩は、インターネットサーバでどんなコンテンツを配信するのかを考えてください。
たとえば、24時間365日、絶対にシステムを止めることのできないオンラインショップなど、ミッションクリティカルなWebサイトを構築/運用するのなら、多少のコスト高を考慮してでも、ネットワーク機器やサーバコンピュータ、ストレージなどを冗長化構成にできる専用サーバサービスを選ぶべきです。逆に、プロモーションの一環として、自社の事業や製品を紹介するWebサイトの場合は、ある程度月額料金を重視した共用サーバでもよいでしょう。
それを念頭に置いた上で、多彩なサービスの中から自社のニーズにマッチするサービスを提供しているホスティングサービス事業者を選びます。ノウハウをまったく持ち合わせていない自営業者/中小企業のユーザには、コンテンツも含めたWebサイト運営のコンサルティングサービスを提供しているホスティングサービス事業者を利用することも、ひとつの手段と言えるでしょう。
次のページからは、本誌がお勧めするホスティングサービス会社のスペックを一覧表にまとめてあります。新規導入および乗り換えを検討される際に参考にしてください。