2010年はTwitterをはじめ、ソーシャルメディアが大きな話題をさらいました。そのソーシャルメディアをビジネスに活用する動きが本格化しつつあります。ここでは、既存顧客の情報を分析し、顧客満足度の向上を図るCRMにソーシャルメディアを取り入れた「ソーシャルCRM」について、特長やメリットなどを解説します。
ソーシャルCRMが登場
2010年は、Twitterが飛躍的な普及を遂げました。多数の参加者がインタラクティブなやりとりをするソーシャルメディアは、UGC(ユーザ生成コンテンツ)やCGM(消費者生成メディア)として新たなマーケットを確立し、iPhoneやiPad、Androidなどのスマートフォンでリアルタイムにソーシャルコミュニケーションが展開されるなど、現在では企業活動においても無視できない存在となっています。
たとえば、企業の営業活動では、自社で構築した顧客データベースを活用し、嗜好性や特性などを分析してきめ細かい対応を図ることで長期的な関係を築いてきました。その根幹を支えるシステムのひとつが「CRM(Customer Relationship Management)」です。
しかし、利便性と顧客満足度を高め、収益アップにつなげるCRMも、経済環境の変化にともない、さらなる利益の確保、コストダウンが求められています。
ソーシャルCRMは、そのCRMの進化系と言えるもので、ソーシャルメディアを利用して、顧客のもつネットワークまでを情報源とし、精度の高いデータベースを構築します。また、ブログやTwitterなどにより、社内のコミュニケーション、コラボレーションを図りつつ、リアルタイムのサービス、サポートを実現します。このように、これまでのワントゥーワンマーケティングを拡張し、オープンなソーシャルメディアを利用してより正確な情報収集と収益アップを目指す、“囲い込みからの解放”、それがソーシャルCRMのコンセプトです。これにより、1対1の関係から、不特定多数の関係が築け、新しいサービスの確立やソーシャルメディアでつながったチャネルの開拓などが可能になります。
なお、ソーシャルCRMは、社内のコミュニケーションのソーシャル化、データベースの拡張といった2つの意味合いで表現されることがあります。ともに従来のCRMを否定するものではなく、考え方を変えて、時代のニーズを取り入れた新しい仕組みと言えるものです。
ソーシャルCRMのメリット、デメリット
ソーシャルCRMのメリットは、既存のマーケティング活動で収集したデータに加え、投稿されるソーシャルメディアのデータを取り込んだ膨大な情報量によって、より詳細な分析や分類ができる点です。企業がコントロールする情報ではなく、透明性を持った顧客の声が情報となるため、消費者に近い生の情報を得ることが可能になります。
また、CRMは既存顧客との良好な関係を築き、離反率の低下、再来店率の向上を図ることができるクローズなシステムですが、ソーシャルCRMはオープンなシステムであるため、多くの顧客に情報が公開され、より多くの顧客との関係性を保つことで収益を上げる新たなビジネスモデルと言えます。
たとえば、コンタクトセンターによるサポート業務を例にとると、会員制サポートは個人の質問に的確に回答する1対1が基本でした。しかし、ソーシャルメディアで回答した内容は不特定多数の顧客でも見ることができ、その情報は緩やかにソーシャルネットワークでつながった顧客に広がっていきます。このように、情報の収集、情報の発信の双方で利用するメリットは大きいと言えるでしょう。さらに、ソーシャルメディアはさまざまな人にフォローされるため、営業やオペレータ以外の全社員によるバックアップも可能になります。社内のコミュニケーション力を高め、企業対応力を認知させるといった側面をもつのもソーシャルCRMの大きな魅力です。
ただし、その書き込みに多くの時間を割き、本業に支障を来たすようでは本末転倒です。また、内容がネガティブなものであった場合、マイナスイメージを抱きかねないという不安もあります。ソーシャルCRMはチャネルが拡大するというメリットと背中合わせにある情報の管理が課題と言えるでしょう。
導入時期はまだ先?
実際にSalesforce.comがサービスを開始した「Salesforce Chatter(クラウド型コラボレーション支援ツール)」は、SNSのメリットを取り入れた企業内リアルタイムコラボレーションツールとして、情報共有に利用されています。ほかにもTwitterにより、企業がこれまでリーチできなかった潜在顧客の情報分析ができるといった声も多く、140文字のつぶやきが人々の関心をネットワークでつなぐ新たなマーケットの形成は、ソーシャルCRMの流れを加速させると見られています。Facebookも、関心をもったページを他の利用者に推薦できる「Like」機能を提供開始するなど、ソーシャルメディアは顧客との関係を築く窓口になりえます。
こうした企業の取り組みが始まる中で、ソーシャルCRMのロードマップがNRIから発表されています。それによると、2010~2011年度は欧米で始まっているソーシャルメディアの収集、分析が国内で始まる「黎明期」ととらえています。2012~2013年度は、iPhoneやAndroidなどのスマートフォンにソーシャルメディアが多用され、顧客サポート分野で利用が開始される「発展期」、2014~2015年度は顧客の情報分析が進み、キャンペーンや販促活動が行われる「普及期」になると見られています。結果的に早期からソーシャルメディアをマーケティングや販売に活用する企業は、既存の広告活動やマーケティング、コールセンターなどを組み合わせ、ソーシャルCRMを確立していくことになります。
CRMは、顧客本位であることが重要ですが、ソーシャルメディアを活用するソーシャルCRMも、同様に顧客の声に耳を傾け、顧客を主役としたシステムであることを忘れてはいけません。これからソーシャルCRMを導入する企業は、チャットやブログ、Twitterなどリアルタイムでやりとりができる分、今まで以上に情報の取り扱いが大切になります。
Webサイトへの活用
Webサイトでは、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーションが活発化しています。マス広告からWebマーケティングへ、より確度の高いリードを獲得するために企業は戦略をシフトし、ソーシャルメディアの活用を進めることは間違いありません。顧客のサービスに双方向性のコミュニケーションを組み合わせることで、グラフィカルに、リアルタイムに顧客情報を深く理解するWeb 2.0の世界が広がろうとしています。
今後はソーシャルCRMのツールも登場し、クラウド型サービスやオンプレミスで提供されることでしょう。
まだ、ソーシャルCRMの本格化には時間がかかるでしょうが、Webを使ったソリューションだけに、いつでも、誰でも、どこでもできる魅力と可能性があります。Web 2.0やエンタープライズ2.0のキーワードとも言われるソーシャルCRM。企業が成長していくうえで、インターネットとは異なる新潮流のソーシャルメディアの活用は、営業力やサポート力の差別化を図りたい企業やサービスの向上を目指す企業にとって、今後導入を検討していく必要があるのではないでしょうか。