多様化する消費者心理に響く、イマドキのプロモーション

第8回オウンドメディアとブランディング

広告や制作以外の面でも必要になるもの

日本市場に物が溢れているという状況から、商品の品質や機能だけでの差別化が困難となり、賢い消費者はとりあえず多くの商品やサービスに触れ、⁠どの商品を買うのが良いか?」を判断するようになってきています。

広告や制作物に予算を多くかけるほど、この課題の解決につながるように思われがちですが、広告や制作物以外の面から課題解決に影響を与えることができるものがあります。

それは「ブランディング」という観点を持つことです。

ブランディングとは

商品の選択肢が多い環境の中で、消費者は時間をかけて自分が大切だと思うさまざまな要素を比較しながら何を買うか検討します。消費者心理として同じカテゴリの商品が複数ある場合、知らない会社の商品よりも、自分がよく知っているブランドの商品を選ぶ傾向があります。

このように自社の商品が信頼を勝ち取り、消費者に選ばれるための印象づくりをおこなうことをブランディングと言います。

消費者にとって「ブランド」とは商品購入に関する大きな影響力を持っていると言え、その信頼度は絶大な物です。

消費者に向けた自社のブランディングができていれば、企業側が必死に売り込みを行わずとも「○○と言えば××」と自社のイメージが思い起され、他社の製品と並んだ時にも比較検討の段階を省略して自動的に選択してもらいやすくなり、その分購入機会が増えるのです。そして、このブランドの浸透力が強大なほど、購入機会の増加と共に「新規参入の障壁」にもなり競合の排除にもつながります。

しかしブランディングは短期間で形成できるものではありません。ブランド作りには時間が必要で、ブランディングの下準備として「商品の認知⁠⁠、⁠品質への好評価の獲得」は必須です。消費者へ自社の個性を伝え、印象付けるための施策を繰り返し行い「○○なら××」というように消費者の中で、自社が無意識にイメージされるまでに長い時間が必要なのです。

では、消費者に自社の個性を認識させるには具体的にどんな工夫が必要となるのでしょうか?

ブランディングするために活用するツールを紹介していきます。

ブランディングするために活用するツール

アプリ

今までもさまざまな企業がアプリを提供してはいましたが、近年ではゲームなどの「楽しんでもらい宣伝につなげるアプリ」や通販機能の付いた「商品購入につなげるアプリ」ではなく、⁠自社の魅力を知ってもらうためのアプリ」の開発を行うようにもなってきました。

実際のサービス内容の一部を体験してもらったり、自社サービスを連想するような「お役立ちアプリ」を配信することで消費者の生活に「ブランド」を溶け込ませ、認知度やブランドのイメージを向上させるようにしているのです。

しかしダウンロードした後、生活の一部として利用されるアプリは、ごくわずかなので、他のアプリに消費者が取られないように、自社アプリをスマートフォンの機能やターゲット層の感性をふまえた、デザインや機能にすることが「ブランドアプリ」の課題となります。

海外での事例を見てみましょう。

サングラスブランド「レイバン」 “ひだまりスポット”を案内してくれるアプリ [国名:スウェーデン/企業名:Ray Ban]

⁠サングラス」のブランド向けにストックホルムの学生が提案したユニークなアプリに、GPS機能を使いオフィス街など陽だまりが見つけにくい場所で日光浴をしたい人向けに「今、陽だまりがどこにあるか」を教えてくれる「Bright Light」というアプリです。

陽だまりがある場所が図解でわかりやすく表示されるとともに、任意の場所をタッチすれば時間帯による陽だまりの変化を教えてくれるので、自分にとってベストな時間帯はいつかが分かり日光浴をしたい人の満足度を上げるとともに「日光浴に使いたいサングラスと言えば…」というように、自社商品を日光浴と紐づけ、提案するようにできているのです。

直接的な売り上げにはつながりにくいかもしれませんが、ユニークさがうけて自社商品のPRに適したアプリと言えます。

コミュニティサイト

コミュニティサイトとは、企業が提供する「ユーザ同士」「ユーザと企業」がコミュニケーションをとる場所です。

インターネットの発達により、通販サイトやソーシャルメディアの利用者が増えたことで年齢・生活スタイルなど「自分と共通点のあるユーザとの交流」がニーズとして生まれてきています。より効果的な商品の使い方や、自分は買っていない商品についての口コミを知りたいということが動機で、このニーズに応え、ユーザ同士の情報交換の場(コミュニティサイト)を作ることでユーザの満足度を高め、自社のブランド作りに貢献してもらえるようになるのです。

コミュニティサイトを作ることで、会員となった消費者に「掲示板」などを使い商品の感想などを会員同士で自由にやりとりしてもらう事は「自分と近いライフスタイルの人が体験した事」としてより身近な情報に感じられ、消費者の印象に残ることから、他のユーザの商品選びの「説得力のある参考材料」となり、商品開発の裏話、商品を使う時のポイントなども載せることで、⁠商品ページとは違った面からの企業側の情報発信」が可能となります。

ユーザにアンケートを取ったり、メッセージを送ることで、企業の担当者とユーザとの密なコミュニケーションがとれることも特徴の一つで、これらを利用して新商品のPRや商品やブランドについての理解度の向上、ブランドの良さの再確認をしてもらうことが可能です。

イベント

ブランディングの手段として「イベント」を活用する方法があります。

ネット上ではなく「人と人が触れ合う、現実で行われるイベント(リアルイベント⁠⁠」を指し、ブランドの「認知度」を向上させることが目的となります。この「イベント」にはお祭りや展示会への出店、店頭での特別なキャンペーンはもちろんのことながら「セミナー」「芸術鑑賞」なども含まれます。

ネットやほかの媒体では、刺激できる感覚が制限されますが、リアルイベントの場合商品を見る(視覚⁠⁠、商品に触れる(触覚⁠⁠、商品がたてる音や説明を聞く(聴覚⁠⁠、食べてみる(味覚⁠⁠、においを嗅ぐ(嗅覚)というように企業は消費者の五感すべてに訴求が可能です。さらに大人数が集まるイベントは「イベント参加者全体の雰囲気」も消費者の記憶に残ります。

また、リアルイベントの場合は「そのとき限りのイベント」という特別感があり、良い思い出も悪い思い出も強く記憶に残る要素を持っていますので、できるだけ楽しい雰囲気でイベントが進むよう工夫も大切です。

イベントを開催し反響が良かったとして、その1度だけで、イベントの開催をやめてはいけません。リアルイベントは人の記憶に作用するものなので、すぐに結果が出にくく、イベントの反響を見て改善を行いながら、規模に関わらず、何度も繰り返すことでファンをつくり、関係を深めたり、消費者の記憶により深く残すことを前提とした継続的な開催が必要です。

組み合わせ方がカギを握る

アプリ、コミュニティサイト、イベントとツールごとに提示してきましたが、ブランディングするために活用するこれらのツールとオウンドメディアとの組み合わせ方には特徴があります。

アプリの場合、自社サービスを連想するような「お役立ちアプリ」を配信したり、コミュニティサイトの場合、ユーザ同士の情報交換の場を作ったり、イベントの場合、現実で行われるイベントで参加者全体の雰囲気を楽しんだりすることで、消費者の中で身近な存在となります。

そのようにして興味をもってもらった消費者に対して、コーポレートサイト、ブランドサイト、メールマガジンなど自社のオウンドメディアで、より詳細な情報を発信していくことで、その企業の理解が深まり、優良顧客へと育成されていくのです。

一見、ブランディングツールは実利に影響を与えないように思われがちですが、商品の選択肢が多い環境の中で、⁠○○と言えば××」と思いだしてもらえる存在になることは購入機会に大きな影響を与えるのです。

本連載のまとめ

いかがでしたでしょうか?

今回で「多様化する消費者心理に響く、イマドキのプロモーション」の連載が終わりとなります。一番、伝えたかったことは、多様化する消費者動向の中で、企業が持つべき消費者との関係性は、特定のツールを用いて完結するものではないということです。企業理念の策定、様々な分析を行った上で戦略を考案し、プロモーションを組み立てることで可能となるのです。

トリプルメディアの中でも、とくに「オウンドメディア」を他のツールとどのように関与させるかを中心に提示してきましたが、アーンドメディア、ペイドメ ディアそれぞれの理解をしていないとオウンドメディアをどのように関与させればいいかは分かりません。ですので、それぞれのメディア理解を進めることも必要だということがわかります。

売上を上げたい通販企業、店舗企業、認知度を高めたいメーカ、顧客の囲い込みをしたいメーカなどさまざまな立場で課題が異なるかと思いますが、手順はすべて同じです。現状どのような段階で、何が不足しているから、何を補う必要があるのかを考えて行動をとることにより課題解決につながります。

それは、戦略から練り直す必要がある場合もありますし、アーンドメディアを用いたプロモーションをブラッシュアップする必要がある場合や、ペイドメディアの選定やクリエイティブの改定を行う必要がある場合もあります。オウンドメディアとの相関性を見直す必要がある場合もあるでしょう。

それらの判断はそれぞれの結びつきがどのようになっているのかを知っておくことによってできるものです。ですので、制作会社や企業発注担当者は指示があったもののみを直感的に制作したりプロモーションの実施をするのではなく、それらの根拠となる相関性を理解した上で、進めるべきなのです。

本連載は、同様の立場である方々にも読んでもらえることも期待しています。同様の立場である方々にも読んでもらうことでプロモーション、制作スキルが向上し、企業は消費者が望んでいるものを提供する土壌が整備され、企業と消費者が真意につながることができるような環境になるからです。

今はWebを活用するにあたって過渡期を迎えています。そういうときだからこそ、このようなことを意識し、起業と消費者が真意につながりを持てる成功事例が増えていくことを期待したいと思います。

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