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SwapSkills 2011(vol.8)「電子書籍 Web標準 EPUB3.0 で作る、出版する」レポート

Web標準EPUB3.0の仕様が確定したと10月10日に発表された事もあり、2011年11月23日(水)に電子書籍関係の勉強会が開催されました。SwapSkillsでは電子書籍に関する内容の勉強会は初めてという事もあり、電子書籍に関する概要も含めてご紹介いただきました。

はじめに電子書籍出版「Puboo:パブー」を発案された⁠株⁠paperboy&co.の副社長である吉田健吾氏より「電子書籍とセルフパブリッシング」について話をしていただきました。

吉田氏はテキストが電子化したものを電子書籍と定義し、ニコラス・ネグロポンテ氏が提唱した「アトムからビット」=つまり物体から情報になる事は、電子書籍だけでなくあらゆる物がビットになっている時代で、そのメリットは、物体が無い事のコスト削減やコピーしやすい事だと解説しました。

また、昨年2010年は、電子書籍元年と言われました。

しかし電子書籍自体は以前からあり、1994年には日本電子出版協会が作られ、その後1990年代後半から2000年前後にかけて電子書店パピレス、電子文庫パブリ、eBookJapanと言った電子書店の老舗が誕生していると紹介されました。それなのにも関わらず2010年が元年だと言われる理由として「出版不況」⁠黒船」⁠端末」の3つが理由であると言います。

出版業界は1996年をピークにどの書籍も下降し、その中でも情報を扱う雑誌の売り上げはインターネットの普及と共に下降していると解説しました。

2つ目の理由としてあげられた「黒船」とは、日本でも人気のサービス・会社であるGoogleやAmazon、Appleの事を指していて、日本に来た年、来ると噂された年であったという事です。3つ目にスマートフォンを含め、端末の普及と種類が揃ってきた事が元年の由来と話していました。

次に、従来の出版体系とは明らかに異なってきている出版業界の体制をまとめているウェブページを参考に、出版業界について解説していただきました。

電子書籍情報まとめノートさんというウェブページがかなりまとまっているので、そちらを引用させていただきながら紹介されました。

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電子書籍では、出版会社以外の企業の新規参入が多く、その多くは合従連衡で、凸版印刷、KDDI、sony、朝日新聞社がブックリスタを提供、角川書店がドワンゴとサービスを提供するなど、多種多様な業界が参入し、サービスも多様化している状態であると解説されました。

このように多くのプラットフォームやサービス、端末が存在しているため、特定の書店でしか書籍が読めないという問題があると話し、さらに、この状況をユーザーがもっと意識しなくては電子書籍業界が広がっていかない要因にもなっていると言及されました。

どの書籍も自由に読む事ができるようになれば、ユーザーは自ずとその端末やサービスを選ぶのかも知れません。Appleはそれらを理解した上で、利便性をはかりながらも連載書籍はアプリでは販売できないようにしているとも紹介されました。

元年と言われ注目されている電子書籍は、今後市場拡大が予測される事で、多くの企業が参入しはじめている状況の解説をしつつ、実際には電子書籍の出版部数は非常に少なく、スマートフォンでのアプリ閲覧が伸びていて、しかも18禁の漫画などが多いと解説されました。

吉田氏は、書籍が電子化され端末で見られる事だけが電子書籍の世界ではないと解説します。それは、インターネット化も有効であると解説されました。つまり、ブログや2ch、携帯小説、メールマガジンなども電子書籍のひとつであると吉田氏は言います。

今までの出版物のしくみは以下の図に表しています。

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電子書籍は、一般的には「印刷⁠⁠→⁠製本⁠⁠→⁠流通⁠⁠→⁠プロモ販売購入⁠⁠→⁠読書」の部分が電子化されると思われがちです。ですが、編集や構成などの行程は従来のものと同じではありますが、全ての行程がインターネットを利用することで電子化が成り立つものだと吉田氏は考えます。これらは10年前の電子書籍とは明らかに違うと解説されました。

そして、電子書籍がインターネット化される事で知らない人とでも手軽に仕事ができるようになり、ソーシャルリーディングを通して作品も変化しつづけ、愛されるものが生まれると言い、電子出版/セルフパブリッシングでは、常にアテンションを維持させる事が重要だと解説し、セッションを終了させました。

EPUB3.0の利点・制作方法・これから準備すること

次に、電子書籍関連の情報を多く発信されている境祐司氏より、EPUB3.0での制作についてご紹介いただきました。

電子書籍には大きく2つの種類があります。1つは雑誌や書籍のレイアウトをそのまま実現するプリント・レプリカという方法で、PDF、もしくはPDF+テキストで実現されています。中には動画やハイパーテキスト(リンク)などが含まれるインタラクティブ・レプリカというものもあります。レイアウトはそのまま実現されるのですが、端末によっては読みづらいなどのデメリットがあります。

もう一つはリフローコンテンツと言われ、スクリーンに合わせて最適化してデザインされ可読性に優れていますが、きちんとしたスタイルを割り当てないとレイアウトが乱れてしまったり、端末によっては同じレイアウトで見せる事ができないため、技術が要されるなどのデメリットがあります。

また、電子書籍はリーダーで読むだけでなく、アプリケーションでも読むことができます。

iBookStoreで販売しているオライリーメディアの電子書籍アプリは、Stanzaというエンジンを利用していますが、今後Stanzaのサポートがなくなるため読むことができなくなります。

アプリケーションはOSに依存しているので、OSと共にバージョンアップがされないアプリケーションは読む事ができなくなるそうです。

そのため、オライリーメディアではEPUB形式で抽出してダウンロードできるようにされていたり、DRM(DigitalRightsManagement:著作権を保護し、その利用や複製を制御・制限する技術の総称)フリーにしているケースなどもあると紹介されました。

このように未来を見据えたフォーマットを採用する事は重要で、Web標準技術であるEPUBは、他のフォーマットより永続性が担保されていて良いと解説されました。

その一方で、Web標準ではないフォーマットでも、世間的によく使われているリーダー用に最適化させる必要がでてきてしまうとも解説します。これらをアレンジする技術が必要になり、eBookデザイナーなる肩書きの人も出てくるだろうと紹介されました。

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EPUB2.0からEPUB3.0になって何が変わった?

EPUB3.0になってから4つの事ができるようになったと解説しました。まず、縦書きが実現できるようになった事は日本にとっては大きい事だと言います。そして、EPUB2.0ではテキスト主体のシンプルなレイアウトが大半でしたが、マルチカラムレイアウトなどの仕様が使えるようになり、段組み表現が簡単になったこと、スクリプトの使用も可能になって、Annotation(metaを注釈として付与する事)を共有することができるようになりました。さらにGoogleMapとの連携やSocialMediaでは"いいね!"をしたものを他のユーザと共有できるようになりました。また、ユーザーによって記事(広告)をすり替える機能など、Webページと同様のインタラクションも実現する雑誌もあると紹介されました。

その他にも、⁠EPUB Media Overlays 3.0」という仕様が加わり、テキストを読み上げたり、テキストと音声を同期するなど、アクセシブルな電子書籍の開発も容易になりました。

EPUB3.0で電子書籍を作ってみよう!

現状、EPUBを完全に作成できるオーサリングがないので、いろいろなツールを駆使して行っていかなければならないものだと紹介され、今回は「Dreamwaver+ユーティリティ」でのデモストレーションをしていただきました。

AmazonKindleStoreへのパッケージ方法の紹介

日経では今年(2011年)KindleStoreが日本に来ると紹介され、既に100タイトルの電子書籍があるKindle Storeへの発行も意識したほうがよいと紹介されました。テキストベースのファイルならKindleGenというユーティリティにドラックしてmobiファイルに変換するだけでよいが、凝ったレイアウトにすると調整が必要になるとのこと。

ただ、kindleもEPUBを意識していて、既に大手はEPUBで発行している事が多いので、mobiファイルに変換する事は今後はあまり気にしなくても良いそうです。

EPUB3.0のレイアウトなどの特徴を紹介

EPUB3.0ではメディアクエリを利用し、スクリーンサイズによってデザインを変更するレスポンシブウェブデザインでの実現が成されています。スマートフォン、タブレットなどのサイズが異なるデバイスや、1つのデバイスでも縦横の2つのサイズを持ちそれらに合わせたレイアウトが実現できます。

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先に紹介したプリント・レプリカもリフローコンテンツを実現できるため、それらを駆使して行っている書籍もあると紹介されました。

将来はページ送り(ページネーション)などもCSSだけで指定できるようになり、EPUBの仕様に採用されることで、表現の幅が広がるだけではなく、制作コストも大幅に下げることが可能になるそうです。

既にアプリで発行されている動画をリアルタイムで表示する書籍などは、EPUBでも近未来で実現できるかも知れません。今後技術面の飛躍も楽しみだと紹介しつつ、まだ未成熟の市場であるため、ビジネス的な観点でアイディアや業界を見極める必要があると、具体的な提案や例を紹介し勉強会を終了しました。

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