サンフランシスコ/シリコンバレー 最新Webトレンドレポート

第2回23andMe―次世代のDNA分析サービス

Webサービスの最先端を走る、アメリカサンフランシスコより、ベンチャー企業が参加するイベントや、関係者のインタビューなどから得られるホットな最新情報をお届けいたします。

SFNewTechから

今回も前回と同様にサンフランシスコにて月一に行われているネットベンチャーによるイベント、SFNewTechにて見つけた興味深いサービスをご紹介します。通常、このイベントにてプレゼンを行う会社の多くが、サイト上のみで展開するタイプのサービスを提供しているケースが多いのですが、今回ご紹介する会社は、ネットとリアルのサービスをうまく融合させた点において、とてもユニークだと言えます。既存のビジネスモデルにインターネット技術を導入することで、まったく新しいサービスを生み出したという斬新なモデルです。

23andMeという企業

ここシリコンバレーではITと共に世界的に注目されているビジネスとして、バイオテック産業があります。1990年代の中頃からネットベンチャーが、そして2000年当初よりバイオベンチャーが注目されてきています。

そして、最近その2つを融合させた23andMe図1という会社が大変注目されています。2008年度における⁠今年最大の発明大賞(Invention of the year)⁠を、Time Magazine社から受賞したこの会社が提供しているサービスを一言で言うと、ネットを使って、誰でも簡単に自分のDNAテストが受けられるというもの。

図1 23andMe
図1 23andMe

テストキット+Webを利用した遺伝子検査

ユーザはサイトにてアカウント作成後、$399にてサービスを申し込みます図2⁠。数日後に送られてくるテストキット写真1を使い唾液の採取を行った後、キットを送り返します。

図2 DNAテスト申し込み画面
図2 DNAテスト申し込み画面
写真1 23andMe DNAテストキット
写真1 23andMe DNAテストキット

オンラインで確認できる検査結果

23andMeは送り返されてきたテストキットに含まれる唾液からDNAの分析を行い、10週間以内にサイトにそのテストデータをアップします。その時点でユーザにメールが送られ、アカウントにログインすることでテスト結果を見られます図3⁠。このテスト結果画面では、自分の染色体マップをはじめとして、各種病気における発病の可能性、アルコールへの抗体性、アレルギーに関する情報、そして自身の遺伝子的なルーツを探ることも可能です図4⁠。多人種国家であるアメリカのユーザにとっては、遺伝子的にどのような人種が含まれているかを知るのは、大変興味深いことであり、革新的なことでもあります図5⁠。

図3 テスト結果の閲覧
図3 テスト結果の閲覧
図4 遺伝子のルーツを確認できる
図4 遺伝子のルーツを確認できる
図5 自分の遺伝的な要素を見ることが可能
図5 自分の遺伝的な要素を見ることが可能

創始者の一人、Anne Wojcicki氏

シリコンバレーのマウンテンビューに位置するこの会社は、2006年にGoogleを含む合計3社からの出資を受け設立。創始者の一人であるAnne Wojcicki写真2右はGoogle社創始者Sergey Brin氏の奥さんでもあります。社名である⁠23andMe⁠の23は染色体の数を表し、文字どおり⁠私のゲノム情報⁠といったところです。

写真2 創始者の一人、Anne Wojcicki氏(右)
写真2 創始者の一人、Anne Wojcicki氏(右)

現在は社内に多くの医学博士を抱え、日々ユーザから送られてくるDNAデータの解析を行っています。ちなみに、この会社が展開しているサービスはアメリカだからこそ可能であり、日本国内ではやはりさまざまな制約により、不可能だと考えられます。

上記のSFNewTechのイベントでプレゼンテーションを行っていたAlex Wong氏写真3に話を聞いたところ、より良いサービス提供にあたって3つのポイントに力を入れているとのこと。

写真3 SFNewTechにて発表を行ったAlex Wong氏
写真3 SFNewTechにて発表を行ったAlex Wong氏

最も重要なのはプライバシーとセキュリティへの対策

その中で一番重要なのがプライバシーとセキュリティに関する対策です。Wong氏によると「数多くのユーザの個人データ、それも遺伝子情報を管理しているわけですから、外部に漏れることがあってはなりません。社では実際のDNAサンプルの物理的な管理から、オンラインコンテンツに対するエンクリプションに至るまで、非常に強力なプライバシー保護措置を施しています。少しでもデータの漏洩があった時点で、ビジネスが終わってしまう危険性があります」とのこと。

次にサイトのUIにおけるデザインと、コンテンツの表示方法です。サイトを通じて遺伝子データをユーザに公開する必要があるため、老若何女を問わず幅広いタイプのユーザにとって使いやすいサイトを目指し、レイアウトはシンプルに、文字は大きめに設定してあります。また、実際の遺伝子情報に関するコンテンツですが、生物学者ではない一般のユーザにも理解できるようにわかりやすく表示されています。また、サイト内にgenetics 101(遺伝子入門)というセクションを設け、初心者にも遺伝子学に関しての情報をわかりやすく説明しています図6⁠。 

図6 遺伝子入門を解説する⁠genetics 101”
図6 遺伝子入門を解説する“genetics 101”

遺伝子学に関するリサーチにも貢献

3つめのポイントとしては、遺伝子学におけるリサーチ業務の展開です。23andMeでは、遺伝子リサーチを専門に行う⁠23andWe⁠という部署を儲け、遺伝子学における新たな発見を目指し、積極的に業務に取り組んでいます。ユーザはサイト上からアンケートに答えるという形でリサーチに参加し、技術の発展に貢献することが可能です図7⁠。

図7 遺伝子リサーチを行う⁠23andWe”
図7 遺伝子リサーチを行う“23andWe”

新しいビジネスモデルを体感させるサービス

今回ご紹介したサービスは、サンフランシスコ/シリコンバレーに存在する数多くのネットベンチャーの中でも、ネットとリアルを繋げることによる次世代のビジネスモデルとしても最も衝撃的なものでした。今までのサービスはユーザに情報を提供する、ユーザ同士で共有する、もしくは、エンターテインメント性の高いコンテンツを配信する、などが主でしたが、23andMeが提供する⁠ユーザの知られざる情報を分析/掲載する⁠モデルは、さまざまな情報がネットを通じて手に入れることができる時代の最たる象徴かもしれません。

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