カンヌに見る広告賞と現状とのギャップ
この原稿を書いているまさにこの時間、フランスのカンヌでは広告賞の最高峰Cannes Lionsが催されている真っ最中だ。
このカンヌのサイバー部門には、世界から選りすぐりのインタラクティブ広告がずらり居並んでいる。
その多くが、キャンペーンサイト、ブランディングサイトと呼ばれる類ものである。
リッチコンテンツと呼ばれる最新のテクノロジーやアイデアの詰まったサイトの多くは、こういったキャンペーンサイト、ブランディングサイトとして生まれている。
そこで、こうしたサイトの制作に関わっているキープレイヤー、広告主、Webクリエイター(制作会社)、広告代理店、の三者のそれぞれの立場をインタビューすることで、Web広告寄りの視点、これからのWebデザイン業界の未来を探ろうというのが本連載の趣旨だ。
さて、その記念すべき1回目に登場いただくのは、Webクリエイターの立場であるイマジナティブのお二人、水藤氏と深澤氏である。
代表作にはハインツケチャップリポート、同ケチャットライブ、MSN The Handshake Company、日本郵政公社 テガミでリレー(公開終了)などどれも他のサイトにはない独自性をもった作品が並ぶ。
東京インタラクティブアドアワードグランプリ、Clio賞ファイナリスト、ロンドン国際広告賞ファイナリスト、など数々の実績をもった日本でももっとも注目を集めているデザイン会社のひとつだ。
まずは、インタビュー当日に発表になったばかりの2007年のカンヌのショートリストを見ながらトークをスタートさせた。
新野:
日本のサイトがどのくらい入賞しているかはとりあえずチェックしたいですよね。
NIKEのCosplayや、マイクロソフトのBIG SHADOWあたりは当然入ってくるでしょうね。
深澤:
ですね、ひととおりチェックしないとですね。(笑)
日本で賞を受賞したり話題になったサイトとかでもカンヌには入ってないのも結構ありますね。
あといくつか名前だけでわからないのは、バナーですかね。
新野:
結構バナー作品も多いみたいですね。
あ!!MSNのThe Handshake Companyが入ってますね。おめでとうございます!
深澤・水藤:
ありがとうございます。よかった!
新野さんもハーマンミラーが入ってますね!おめでとうございます!
新野:
おお!ハーマンミラーはバナー作品なんです。ありがとうございます。
じゃあ、今日はお互いを祝いあう会ってことで。(笑)
新野:
ところで、そろそろ本題の話をしましょうか。
カンヌの日本からの入賞作品を見ると、前評判の高かったさっきの、NIKEのCosplayやBIG SHADOW、それにユニクロなどが名を連ねてますが、日本でここ1年くらいで一番多かったのは「続きはWebで」とか「○○で検索」といった類のCMから引っ張ってくる受け皿としてのサイトだったと思うんですね。
そういうサイトがまったく入賞してないっていうのはどうなんでしょうね。
深澤:
そうですね。ライフカードの『カードの切り方が人生だ』ってサイトがあるじゃないですか。
あれなんて、普通の人がCMをきっかけにWebにアクセスしてくれているようになったすごいサイトだと思うんですよ。
それ以前はWebで話題のサイトって言っても一部のマニアックな人達のなかでウケていたり、話題になっているだけで、周りの普通の友達に聞いてもサイトのことなんて誰も知らなかったりしたわけですよ。
そう考えると、広告賞を受賞するサイトと実際に多くの一般の人が見てくれているサイトは別だったりする。
水藤:
そもそも、そういう「続きはWebで」のサイトとかは賞にエントリーすらしてなかったりも多いんでしょうね。
新野:
そうですね、賞を受賞したサイトが必ずしも広告効果の高かったサイトではないですね。
ブラウザの枠の外のことも考える
新野:
ところで、こうして広告賞もいろいろと受賞されたり、雑誌で紹介されたりした反響で、イマジナティブさんにはオファーが殺到してると思うのですが、仕事を選ぶ基準ってどうしてますか?
深澤:
実はこの質問って、いろんな人から聞かれるのですが、実際はそんなこと無いんですよ。
そんなにオファーってこなくて。
この仕事が片付いたら、次も決まってないし倉庫の整理でもしようかなんて話してたり。
ちょうどそういうタイミングで次の仕事が決まったりして、これまで続いているような状況ですね。
新野:
えー、意外ですね。
オファーする側で勝手に「こんな内容の仕事じゃ、受けてくれないだろうな」ってあきらめちゃうのかもしれないですね。
水藤:
それもあるのかもしれませんが、そもそも2人しかいない会社なので、大きな仕事を頼むのは心配だって思うんじゃないですかね。
やっぱり企業の担当者だったら、安心して頼める規模の会社がいいと考えると思いますよ。
新野:
結果的にそれがいい感じのフィルターになってるのかも知れないですね。
でも、会社の規模を大きくしようとかは思わないんですか?
水藤:
そうですね、思わないわけじゃないんですが。結果的に増えてないですね。
でも会社ごとに得意分野というか、プレーヤーごとの役割があっていいと思うんです。
僕らは、いかにしてWebブラウザの中だけにとらわれないで、その外の世界とどうつながっていくかを考えるのを得意としていきたい。たとえば、ハインツのケチャットさんとか。
みんなこれからどんどんテレビを見なくなるでしょうし、Webブラウザだっていまみたいな使われ方がずっと続くとも限らない。
携帯の画面で全部済んじゃうかもしれないし。
新野:
じゃあ、イマジナティブはWeb制作会社って枠じゃくくれないってことですね。
深澤:
あ、いや僕はWeb好きなんで、それは外せないです。(笑)
あくまでWebが中心ってことで。
新野:
クライアント向けの企画書でよく見るのが、真ん中にWebが置いてあって、それがHubになって周辺にCMとかいろんな媒体が置いてあるっていう図。
やっぱり、Webっていろんなメディアとつながりやすいからだと思うんですが。
必ずしも中心がWebでなくてCMだったりすることもありますが、それでもWebが絡まない広告キャンペーンってこのご時世でまず無いですからね。
水藤:
Webが得意な僕らが、そこから飛び出した企画も考えて行く。
ちょうど今取り掛かっている企画もまさにそんな感じです。イベントを実施してそことWebがつながっているっていう。
深澤:
そういう企画って、成功するかどうかって実際のところやってみないと判らないんです。
でもそれを判らないからやらないんじゃなくて、僕らはまずやってみようと。
だから、いつ失敗して会社がなくなっちゃうか判らないですね。(笑)
2人しかいないし、いまはどんどん新しいことをやってますが、何年か後もそれが通用するかわかりませんし。
水藤:
成功するかどうかわからないから、企画についてはとにかくよく考えます。
よく考える作業を大事にしてますね。
深澤:
よく考えますね。
新野:
大事ですね。取り巻く環境の変化や、どんどん考えなきゃいけないことが増えてますし。
(つづく)