Webデザイン業界の三位一体モデル

第3回NEC宣伝部 吉見大輔(後編) 広告主の考えている課題とは

3回目は、広告主の集まる日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会のメンバーとしても活動されている、NECの吉見大輔さんにお話を伺った。今回はその後編です。

広告主の考えている課題とは

新野:

先日のWeb広告研究会で興味深い発表をされていましたね。

2007年9月11日
Web広告研究会のワーキンググループ(WG)リーダーによるトークセッション
企業コミュニケーションにおけるインターネットの役割
吉見さんはパネリストとして参加。
吉見大輔さん
吉見大輔さん

吉見:

簡単に発表した内容をお話しますね。

日本アドバタイザーズ協会「2007年重点広告戦略の方向」アンケート調査を見ると、広告主の傾向がわかります。

まず、広告キャンペーン目的の調査でトップに上がったのは

『商品(サービス)ブランド育成(商品やサービスのイメージ向上⁠⁠』

が最大の関心事となっています。トップは商品認知でも、商品理解でもないんですね。

これは、2007年の主要課題の調査項目でもトップにあがっています。

さらに『インターネットなど、新しいコミュニケーション手段への取組強化』も主要課題の上位に上げられています。

つまり、これだけ情報過多の世の中になっていると、単に広告を露出するだけではだめで、インターネットなど新しい手段を使ってブランド育成をしていきたいということだと読み取れます。

また、取引関係でどのような情報やサービスを期待しているか、の設問では

  • 1位)広告制作能力・制作技術の向上
  • 2位)統合型コミュニケーション(IMC)の企画・実施
  • 3位)広告実施後の成果に関する報告

があげられています。

ブランド構築のために、インターネットを含めた新しい技術や高い表現力でブランドを伝えてほしい。それはネットだけとかTVCMだけではなく、いろいろなメディアを統合して考えてほしい。さらにその結果を客観的に報告してほしい、ということでしょう。

新野:

なるほど、ちょっと意外に思ったのは、商品認知や、商品理解の項目を差し置いてダントツでブランド育成が上げられているんですね。

吉見:

商品のスペックとかを伝えるだけではなくて、そのブランドが持つ世界観というようなものを体験してもらうことで、他社と差異化していくことが、消費者に選んでもらえることにつながると考えています。

新野:

取引関係に対して『広告制作能力・制作技術の向上』がダントツで期待されていますが。

吉見:

情報があふれているこの状況では、単に露出量が多ければ買ってもらえるとは考えていません。人間の脳のキャパは限られていますからね。なので、その限られたなかでより印象に残る表現が必要といえるでしょうし、クリエイティブ表現のことだけでなくWebはWeb、TVCMはTVCMとバラバラに作り上げるのではなく、全体を考えたクリエイティブを提供できる制作能力が期待されているということもあるでしょうね。

新野:

なるほど。埋もれずに印象に残る制作物が求められているなかで、TVCMと比べて時間の制限もなく、リッチな表現での体験を提供できるWebはその中でも期待されていくでしょうね。

吉見:

まだまだWebもその正解の方程式みたいなものはなくて、さまざまなやり方で商品ブランドサイトの手法が試みられている状況です。

サイトの目標にしても、売り上げ貢献か、ブランディングかで大きく分かれますし、そのための役割も、話題喚起だったり、商品理解だったり、見込み顧客獲得だったり、イメージ形成だったりと様々です。

また扱う商品によっても新商品なのか、定番商品なのか、商品特性も一般消費財なのか、耐久消費財なのか、サービスなのか、こういった様々な要素の組み合わせによってプロモーションの手法、サイトの表現手法を決めていくことが必要ですね。

新野
新野

新野:

Webということですと、この先、制作のクオリティが業界全体で底上げされて、いいものが作れて当然という時代に到達したら、その次に期待されている統合コミュニケーションの企画力や、成果報告がもっと求められると考えています。僕らは今まさにそこをがんばろうとしています。成果報告については、まだスタンダードなものが確立されていないのでこれからの部分が大きいですが。

新野:

広告主の立場から、広告代理店に期待することってどうお考えですか?

Webの場合広告主でサーバを用意して、制作会社に直接発注するような例もありますよね。

広告代理店の中にいる立場としては、単に制作会社との間に立って取り持ったり、またはメディアバイイングの部分だけでかかわったりするのでは、あまり意味がないと感じています。

今日もずっと話のテーマに出ていたように、Web制作はWeb制作、メディアはメディア、TVCMはTVCMとバラバラにやっても成果は期待できないですから、それらに対して全てかかわることができるポジションということで広告代理店の強みが活かせると考えています。

吉見:

まさにそのとおりだと思います。

メディアの枠を購入するだけだったら、それこそGoogleがやってくれるかもしれません。

制作に関してもおっしゃる様なケースがありますね。なのでメディア部分だけ制作部分であれば広告代理店は必要ないかもしれません。

でも、プロモーションの部分部分が最適であったとしても、キャンペーン全体としては統合されていなければいけなくて、それを広告主と一緒になってパートナーとして制作もメディアも、その後の効果測定も一気通貫してコーディネートするような存在になってもらえたらいいですね。

新野:

パートナーとしてコーディネートする。

まさにそれでしょうね!

今日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

吉見大輔さん(奥⁠⁠、新野(手前)
吉見大輔さん(奥)、新野(手前)

インタビューを終えて

話題は終始、目的を見失わず統合的に行うことの重要性について語られたインタビューでした。実際には、広告主も、広告代理店も、制作会社もそこを理解しているはずなのに、なかなかうまく行かない状況が絶えないのが現実ではないだろうか。

それぞれの立場と役割を理解して、当初の目的を見失わずに船頭の役割を果たせる人物が業界から強く求められていると感じた。

そして、その目的が達成されたかどうかを客観的に示すことが、多くの関係者を納得させるためには必須となる。ただそのための方程式はまだ模索中であり、統合されたキャンペーンを評価することの難しさを感じつつ、さらに私のそこへの興味を募らせたインタビューだった。

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