いま、見ておきたいウェブサイト

第94回Kindleストア、Red Bull Stratos、本の書き出し

朝晩だけでなく、日中でも本格的に温かい飲み物の美味しさが増してきた今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

スタートした、"本命"の電子書籍ストア

Amazon.co.jp: Kindleストア

2012年10月25日にオープンしたAmazon.co.jpの電子書籍ストア、⁠Amazon.co.jp: Kindleストア』です。

図1 日本でも始まった「Kindle」向けの電子書籍ストア「Kindleストア」
図1 日本でも始まった「Kindle」向けの電子書籍ストア「Kindleストア」

「Kindleストア」は、Amazonの販売する電子書籍端末「Kindle」向けの電子書籍ストアです。5万冊以上の日本語書籍をそろえ、無料の「Kindle」アプリを利用すれば、iPhone、iPad、Androidなどの端末でもサービスが利用できます。

図2 新品や中古、電子書籍などの価格が、一度に比較できる
図2 新品や中古、電子書籍などの価格が、一度に比較できる

幅広いジャンルの商品を取り扱っているAmazon.co.jpでは、実際の書籍も販売しています。このため、紙の書籍の新品価格だけでなく、自社サービス「Amazonマーケットプレイス」での中古価格、⁠Kindleストア」の電子書籍版の価格を同時に比較しながら、書籍が購入できるようになっています。

自社サービスも連携させる、Amazonの強み

こうした仕組みは、すでに紙の本と電子書籍の両方を扱っている電子書籍ストア(例:「honto」⁠楽天ブックス」⁠紀伊國屋書店BookWeb」など)で行われているため、目新しい感じはありません。ただし、日本における電子書籍サービスでは、Amazonは後発のサービスとなるため、大規模なセールを開始したり、Kindleストアで本を出版する「Kindle Direct Publishing」をスタートさせたりと、⁠Kindleストア」の開始に合わせ、さまざまな手を打っています。

図3 書籍の販売ページに設置された「Kindle化リクエスト」ボタン
図3 書籍の販売ページに設置された「Kindle化リクエスト」ボタン

特に有効だと感じたのは、まだ電子化されていない書籍の販売ページに設置された「Kindle化リクエスト」ボタンです。このボタンにあるリンクをクリックすると、ユーザーが書籍の電子書籍化を希望していることを、Amazonを通じて発行者(出版社)に知らせるという仕組みです(⁠⁠honto」は、すでに導入済み⁠⁠。

現段階では、他の電子書籍サービスを圧倒しているとは言えない「Kindleストア」の日本語書籍の品ぞろえですが、こうしたデータが集まることで、ユーザーからの要望・意見を伝えるだけでなく、発行者にKindleストアでの書籍販売を促す効果も期待できるという、非常に素晴らしいアイデアだと思います。

多くの人が期待を抱いている「Kindleストア」ですが、電子書籍端末の販売や自社サービスとの連携など、単なる電子書籍ストアとして勝負しないという、強みとしたたかさが感じられます。これから日本の電子書籍サービスや実際の書店、そして、出版社や作者にどんな影響を与えるのか。自身の読書環境の変化を含め、その展開を楽しみにしていきたいと思います。

音速を超える、フリーフォール

Home | Red Bull Stratos

2012年10月14日にアメリカ・ニューメキシコ州ロズウェルで行われた、高高度での安全性の発展に向けた情報収集を目的としたミッション、⁠Red Bull Stratos(レッドブル・ストラトス⁠⁠」のウェブサイトです。

図4 成層圏からのフリーフォールを実現するプロジェクト『Red Bull Stratos』
図4 成層圏からのフリーフォールを実現するプロジェクト『Red Bull Stratos』

「Red Bull Stratos」は、レッドブル・アスリートのFelix Baumgartnerが気球に乗り込み、高度12万フィート(約36,500m)の成層圏から、音速を超えるスピードでフリーフォール(自由落下)を行い、4つの世界記録(スカイダイビングの最高高度、フリーフォールの落下時間、フリーフォールの落下速度、有人気球による高度)を樹立しようというプロジェクトです。

図5 記録達成の歴史的瞬間はリアルタイムで中継された
図5 記録達成の歴史的瞬間はリアルタイムで中継された

インターネットだからこそ実現可能なプロジェクト

2012年10月18日には、もう一つの興味深いプロジェクト「THE SPACE HANGOUT LIVE」が行われました。これはGoogle+のハングアウト機能と衛星回線を使って、ISS(国際宇宙ステーション)と一般家庭のパソコンをつないで、星出彰彦宇宙飛行士と公募で選ばれた5名が、リアルタイムで会話を行うというイベントです。

『THE SPACE HANGOUT LIVE』の様子

どちらも"宇宙"をテーマにした夢のある企画ですが、時間の枠がきっちりと決まっているマスメディアでは、実現が難しいでしょう。実際に「Red Bull Stratos」は天候不良を理由に直前で一度延期していますし、イベント開始のタイミングを考えると、柔軟に対応できるインターネットでの中継が合っているのではないでしょうか。

近年、インターネットを利用した中継を伴うプロジェクトの内容は、テレビ番組と比較しても勝るとも劣らないものが増えてきています。マスメディアでは実現が難しい画期的なプロジェクトが、インターネット上で次々と実現していくことを期待しつつ、こうした事例を今後も楽しみにしていきたいと思います。

書き出しが広げる、読書の世界

本の書き出し

さまざまな本の書きだしを通じて、新しい本との出会いを提供するウェブサービス、⁠本の書き出し』です。

図6 さまざまな本の書き出し部分が並ぶ、⁠本の書き出し』
図6 さまざまな本の書き出し部分が並ぶ、『本の書き出し』
credits:中川 峰志邉 裕明

「本の書き出しは、筆者が全力で考えた命の断片です」ということで、ウェブサイトの画面全体に、本の書き出しが縦書きで表示されています。書き出し部分をクリックすると、その本の情報が表示されます。

図7 書き出し部分をクリックすると、その本の情報が表示される
図7 書き出し部分をクリックすると、その本の情報が表示される

本の紹介画面では、そのままAmazon.co.jp経由で本を購入したり、Twitterで書き出しについてツイートしたりできます。Facebookアプリを利用した書き出しの投稿や、電子書籍化されている本の書き出しを強調させる機能も用意されています。

場所を変え、生き続けるアイデア

『本の書き出し』は、紀伊國屋書店の新宿本店で開催された「ほんのまくら」フェア~書き出しで選ぶ100冊~をウェブ上で再現したものです。

中身が読めないようにした本のカバーに"書きだしのみ"を掲載することで、購入者が書き出しから内容を想像したり、直感で本を選んだりするというこのフェアは、さまざまなメディアで取り上げられ、大きな話題となりました。

図8 ⁠本の書き出し』の元となった、紀伊國屋書店新宿本店の「ほんのまくら」フェア
図8 『本の書き出し』の元となった、紀伊國屋書店新宿本店の「ほんのまくら」フェア

「表紙」⁠作品名」⁠ジャンル」ではなく、"書き出し"という新たな視点から、購入者の読書欲を引き出したイベントでしたが、残念なことに、開催期間(2012年7月26日から9月16日まで)を過ぎている現在では、こうした素晴らしい展示を見ることはできません。

今回、このイベントはウェブサイト上へと場所を替え、アイデアはそのままに存在しています。現実のイベントが場所や時間の制限を受けるのは仕方ありませんが、素晴らしいアイデアが失われるのは非常に残念なことです。そう考えると、制限の少ないウェブ上でイベントを継続的に開催するという事例が、アイデアを生かし続ける方法として、これから増えていくのではないでしょうか。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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