いま、見ておきたいウェブサイト

第96回渡辺浩弐2013年のゲーム・キッズ』第一回 謎と旅する女、The Infinite Jukebox、JAYPEG

最低気温が日ごとに下がり、⁠ネックウォーマー」⁠リストウォーマー」⁠レッグウォーマー」「ウォーマー3兄弟」装備が必須となってきた今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

「私、どこにいるかわかる?」

渡辺浩弐『2013年のゲーム・キッズ』第一回 謎と旅する女 Illustration/竹 | 最前線

2012年11月9日、星海社のインターネット小説サイト「最前線」にて発表された、渡辺浩弐さんの新作『2013年のゲーム・キッズ』Web限定エディションの第一回、⁠謎と旅する女」です。

図1 渡辺浩弐さんによる『2013年のゲーム・キッズ』の第一回「謎と旅する女」
図1 渡辺浩弐さんによる『2013年のゲーム・キッズ』の第一回「謎と旅する女」

旅行の大好きな女性が、記録用にと書き始めたブログで、過去の写真を使いながら自分のいる場所に関するなぞなぞを出題していくのですが…さて、その結末とは。ぜひ自分の目で確かめてください。

計算された、驚きと面白さ

古くはブラクラ(ブラウザクラッシャー)のような、⁠ウェブサイトを見ているユーザーを驚かせる」という手法は、よく見かける仕掛けの一つです。しかし、その中身は「驚かせてやろう」⁠困らせてやろう」といったネタやアイデアを優先して実装したもので、コンテンツ自体の面白さを伴うものは多くありませんでした。

筆者の場合、就寝前に見ていたTwitterのタイムラインにリンクが流れ、たまたまクリックしたことから「謎と旅する女」を体験することになりました。下へ下へと画面をスクロールさせながら、⁠きっと、何か仕掛けがある」とうすうす感じながらも、最後まで読み進めていく行為を止められませんでした。

図2 渡辺浩弐さんのツイートで、100万ページビュー達成が報告された

「わかっていても、先が見たい」という欲望を押さえきれず、自ら用意された罠にはまってしまうという感覚は、多くの人たちの心を捉えたようで、公開日翌日の渡辺浩弐さんのツイートでは、公開から100万PV達成を達成したことが報告されました。さらに、公開後から一週間後のニコニコ生放送『星海社アワーfeat.2013年のゲーム・キッズ』では、⁠250万PVを突破した」ことが語られており、ページビューという観点からも、完成度の高さと内容の面白さが証明された形となりました。

展開されるストーリーだけでなく、それをウェブサイト上で表現する場合、どうしたらもっと面白くできるかを緻密に計算して実装した仕掛けによって、記憶に残る驚きを提供することに成功したこのウェブサイト。考え抜かれたアイデアの実装が生み出したコンテンツは、これからも決して変わらない価値を持ち続けるでしょう。時代や技術といった変化に関係なく、永続的に計算された面白さを持ったコンテンツが、これからも登場してくることを期待したいと思います。

永遠に終わらない、ジュークボックス

The Infinite Jukebox

(最新版の「Google Chrome」⁠Safari」のみに対応)

ウェブサイトにアップロードした曲を、自動的に変化させながら再生するウェブサービス、⁠The Infinite Jukebox』です。

図3 一つの曲を、変化させながら再生し続ける『The Infinite Jukebox』
図3 一つの曲を、変化させながら再生し続ける『The Infinite Jukebox』
credit:Paul Lamere

ウェブサイトにMP3ファイルの曲をアップロードすると、分析終了後に画面中央に表示される円に沿って、曲が配置されます。円の中には、曲中の「似ている音のある部分」が曲線で結ばれて表示されます。この「似ている音のある部分」をランダムに入れ換えながら再生することで、次々と新しいフレーズを生み出しながら、一つの曲を再生し続けるという仕組みです。

図4 他のユーザーがアップロードしたMP3ファイルでも楽しめる
図4 他のユーザーがアップロードしたMP3ファイルでも楽しめる

アップロードするMP3ファイルがない場合も、すでに他のユーザーがアップロードしたファイルを利用してサービスが楽しめます。長時間の作業を行う場合、曲の連続再生ができるサービスが利用されますが、そうした中でも、お気に入りの1曲だけを長時間のBGMへと変化させられる『The Infinite Jukebox』は、とても面白いサービスです。

「Machine Listening」で、音楽は変わるか

『The Infinite Jukebox』とは異なりますが、最近話題となったforever.fmも曲を連続再生してくれるサービスです。こちらは"Your infinite DJ.(あなたの無限のDJ)"というメッセージがあるように、音楽共有サービスのSoundCloudから人気の高い曲を自動的に選択して、曲をつなぎ合わせながら配信してくれます。

図5 ⁠SoundCloud」から選んだ曲を、つなぎ合わせて配信する『forever.fm』
図5 「SoundCloud」から選んだ曲を、つなぎ合わせて配信する『forever.fm』
credit:Peter Sobot

どちらのサービスも曲(曲の部分)「つなげていく」ところが重要なのですが、機械的に行われているような"ぎこちなさ"はなく、実際に人間がこの部分を行っているように感じられます。このような"人間らしさ"を感じさせる再生機能を持つサービスでは、現在、アメリカのThe Echo Nestという会社が重要な役割を果たしています。

図6 ⁠Machine Listening」に基づいたAPIを提供している「The Echo Nest」
図6 「Machine Listening」に基づいたAPIを提供している「The Echo Nest」

2005年に設立された「The Echo Nest」は、⁠Machine Listening(コンピューターのプログラムを使って、音声信号の意味や内容を人間と同じように解釈できる⁠⁠」という考え方に基づいたAPIを開発・提供しています。⁠The Infinite Jukebox』では「MP3ファイルの解析・分解・相互比較と、曲中に似た音が出てくる部分を探す」ため、⁠forever.fm』では「リズムや音階の似た部分を発見してつなげる」ために、このAPIが使用されています。

「The Echo Nest」では、こうしたAPIすべてを「非商用プロジェクトには無料で開放(商用の場合は使用料が必要⁠⁠」しているため、今後も"人間らしさ"が感じられる機能を持った音楽サービスがさらに登場してきそうです。⁠Machine Listening」が、人間の感覚にどのくらい近づけるのかという興味とともに、 新たな音楽の楽しみ方が生み出せるのか、注目していきたいと思います。

作品が紡ぎ出す、新しいつながり

JAYPEG

デザイナー自身の作品をまとめたポートフォリオを通じて、デザイナー同士のコミュニケーションを生みだすウェブサービス、⁠JAYPEG(ジェイペグ⁠⁠』です。

図7 ⁠JAYPEG』は、ポートフォリオを介して、コミュニケーションを生みだす
図7 『JAYPEG』は、ポートフォリオを介して、コミュニケーションを生みだす
credit:FICC inc.

登録すると、ユーザー専用のページが作成されます。このページに自身の作品を投稿していくだけで、簡単にポートフォリオサイトが構築できます。各ユーザーがポートフォリオに投稿した作品は「Stack」で閲覧できます。気に入った作品をストックする機能もあるため、アイデア次第でいろいろな利用が可能です。

図8 ⁠Stack」には、ユーザーから投稿された作品が並ぶ
図8 「Stack」には、ユーザーから投稿された作品が並ぶ

また、お気に入りのデザイナーをフォローする機能だけでなく、コメントや「Likesボタン」で作品を評価する機能によって、デザイナーとのコミュニケーションも可能です。現在、サービスリリースを記念した「UI」⁠Graphic」⁠Icon」をテーマとしたコンテスト、⁠JAYPEG CREATIVE CONTEST」も開催されています。

"日本生まれ"のウェブサービスが生み出すもの

デザイナーによるコミュニケーションが特徴の『JAYPEG』ですが、海外には以前からこのようなウェブサービスが存在しています。特に有名なのは、デザイナーのコミュニティサイトDribbbleとオンラインポートフォリオサービスのBehanceでしょう。

図9 招待制によって、投稿される作品の質を維持している『Dribbble』
図9 招待制によって、投稿される作品の質を維持している『Dribbble』

『Dribbble』はデザイナーが作品を投稿するSNSで、⁠Player(プレイヤー⁠⁠」と呼ばれるユーザーのみが、自身の作品を投稿できる仕組みです。オリジナルファイルのアップロードやアクセス解析が可能となるプロアカウント(有料)も用意されています。

図10 ⁠Behance』には、世界中から大量の作品が集まっている
図10 『Behance』には、世界中から大量の作品が集まっている

もう一つの『Behance』は、デザイナーによる作品をまとめたポートフォリオが閲覧できるサービスです。ウェブサイト内の検索を駆使すれば、デザインの世界旅行ができるほど、世界中から集まった"玉石混交"の作品が大量に投稿されているのが特徴です。

ただし、どちらも海外のデザイナーによる作品を閲覧・評価することが主な目的になってしまうことや、設定やユーザー同志のやり取りが基本的に英語のため、敷居が高いと感じるユーザーも少なくないでしょう。日本生まれの『JAYPEG』には、こうした"海外の作品が中心""英語によるコミュニケーション"というハードルを飛び越えるメリットがあります。

図11 投稿された作品を通じてのやり取りも、日本語で気軽に行える
図11 投稿された作品を通じてのやり取りも、日本語で気軽に行える

また、こうしたサービスには"投稿作品の質の維持"という問題が付きまといます。このため、⁠Dribbble』は招待制(サービスを利用しているデザイナーからの招待状がなければ、作品の投稿ができない)を採用した厳しい規則になっています。この点でも、⁠JAYPEG』はユーザーの作品投稿数を「1か月10点まで」としており、単純に作品の"量"を求めているサービスではないことを宣言するなど、程良いバランスの制限が設けられています。

現時点では、作品の閲覧時に不便な点もありますが、こうした細部の使い勝手が向上すれば、筆者のような作品を見る側にとっても楽しめる場ができるだけでなく、日本人の特徴あるデザインを一度にまとめて閲覧できるウェブサービスの代表となることでしょう。APIの公開や課金によるサービス拡大など、これからの展開を密かに想像しつつ、公開後も日ごとに改良されているこのサービスが、仕事やジャンルを超えたデザイナーのつながりを拡大していくことを期待しています。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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