ようやく花粉症のムズムズからも開放され、大型連休の近づきに胸を躍らせている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
“無限”の世界にたどり着いた人工知能
Googleが買収したイギリスの人工知能企業「Google DeepMind」が開発したコンピュータ囲碁プログラム、「AlphaGo」を紹介したウェブサイト『AlphaGo | Google DeepMind』です。
Googleのクラウドサービス「Google Cloud Platform」を利用して、人間の脳の神経細胞(ニューロン)の仕組みを元にしたコンピュータモデル「ニューラルネットワーク」を多層化した「ディープラーニング(深層学習)」を用いている「AlphaGo」は、2015年10月に、人間のプロ囲碁棋士をハンデなしで破った世界初のコンピュータ囲碁プログラムとなりました。
さらに、2016年3月9日から15日まで、韓国・ソウルで“現在世界最強”と呼ばれているプロ囲碁棋士のイ・セドル九段との五番勝負を行なうことを発表しました。この対戦の様子は、YouTubeなどで生中継されましたが、最終的に「AlphaGo」が4勝1敗で勝ち越し、大きな話題となりました。
人工知能との“協業”から生まれるもの
今回の対戦では、さまざまな発見や驚きがありましたが、その中でも、人工知能の「AlphaGo」が示した、囲碁の序盤の展開は非常に興味深いものではなかったでしょうか。
対戦の序盤では、実況していた解説者が、「AlphaGo」の打った手の意味に困惑する場面が何度も現れました。「これはあまり良い手でありません」と解説者に評価された「AlphaGo」の手は、対戦の中盤以降で非常に効果的で意味を持つ手となり、対戦が終盤へと進むにつれ、解説者もその手の意味を理解して驚きを隠せない様子でした。
2,500年以上の歴史がある囲碁において、今まで人間が無数の対戦から積み上げてきた知識は囲碁の世界の一部に過ぎず、改めて、“無限の広がり”を持つ囲碁の奥深さを感じる歴史的対戦となりました。
五番勝負は人間とコンピュータの対戦であることから、将来こうした人工知能が人間と敵対関係になるというイメージがありますが、実際に対戦したイ・セドル九段のコメントからは、人間とコンピュータの協業によって、囲碁のレベルを飛躍的に向上させる可能性を感じさせます。
「過去、自分が本当に囲碁を楽しんでいるのかどうかを疑問に思ったこともあったのですが、今回のAlphaGoとの対局は5戦ともすべて楽しむことができました。AlphaGoとの対局で、わたしは古い考え方に少し疑問をもったような気がします。またこれから学ぶことが増えましたね」
「AlphaGo」との五番勝負を終えた直後のイ・セドル九段のコメント
「「またこれから学ぶことが増えました」AlphaGoとイ・セドルが、囲碁にもたらしたもの、AIにもたらしたもの」より引用
今後は、今までの人間の能力だけでは到達できなかった問題の解決や、未知の発見のため、さまざまな人工知能が利用されていくことでしょう。“人間と人工知能との協業”によって、驚くような事例が続々と登場するだけでなく、これからのウェブサイトにも大きな影響を与えることを期待しています。
公式という歴史の重み
スイス・ローザンヌにある、EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)によるデジタルアーカイブプロジェクトから生まれたウェブサイト、『Montreux Jazz』です。
毎年7月にスイス・モントルー周辺で開催されるジャズ・フェスティバル「The Montreux Jazz Festival(モントルー・ジャズ・フェスティバル)」の貴重な演奏データ(約5000時間の音声と映像、約80,000枚の写真)をデジタルアーカイブ化するというプロジェクトです。
ウェブサイトでは、検索窓だけではなく、直接キーボードから文字を入力することで、アーティストの映像や画像、各種データの検索ができます。コンテンツを簡単に検索できるようにするタグ付けの作業なども追加しながら、今後もデジタルアーカイブ化の作業が行われ(音声と映像は2016年まで、写真は2017年まで)、完成したデジタル化データは『Montreux Jazz』のアーカイブへと追加されます。
公式サイトのメリットとその先にあるもの
検索すれば、YouTubeなどの動画サイトで、過去の「The Montreux Jazz Festival」の演奏を数多く視聴できます。ただし、これらの動画はDVDやTV放映の録画など、様々な形で勝手にアップロードされてしているものです。当然のことながら、著作権などの権利に問題のある動画です。
『Montreux Jazz』は、公式ならではの詳細な情報や、未公開の貴重な映像が揃うという大きな魅力を持っています。もちろん、他の動画サイトとは異なり、映像自体の著作権問題も解決できます。現時点では、ウェブサイト上での動画再生や操作の反応が重く、まだまだ快適な視聴とはいえない状態です。ただし、状況が改善されれば、ここでしか見られない貴重なアーカイブの提供場所となることでしょう。
さまざまなデバイスの高解像度化も進んでおり、「Montreux Jazz」のように高品質のデータを配信する公式のデジタルアーカイブが広がりを見せるかどうか、今後も注目していきたいと思います。
モバイル広告の新たな流れ
2016年2月26日に正式運用が始まった、Facebookの新しいスマートデバイス向け広告フォーマット、「Facebook Canvas」のウェブサイトです。
Facebookのニュースフィードに流れるこの広告は、ユーザーがタップすることで画面全体を使ったダイナミックな広告へと変化します。「Facebook Canvas」はニュースフィードと同じ技術を使っているため、画像などの表示スピードが早く、ユーザーにストレスを与えない仕組みになっています。
ユーザーは通常のフィードなのか、「Facebook Canvas」による広告なのかを、上向きの矢印で判別できます。また、広告が表示中でも通常のニュースフィードにすぐ戻れるようになっており、ユーザー自身の意思で広告の視聴が選択できます。
「Facebook Canvas」を利用するクライアント側は、無料のツールを使って広告を制作できます。画像や動画の表示はもちろん、アニメーションやカルーセルといった機能も利用できます。コーディングのようなスキルが必要ないため、ツール上に画像や動画を配置すれば、すぐに広告の表示を開始できるのも特長のひとつです。
2015年の「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」で発表された「Facebook Canvas」ですが、正式運用が始まる前に、Wendy's(ウェンディーズ) 、Gatorade(ゲータレード)、Macy's(メイシーズ)といった企業やブランドによるテストが行われており、ユーザーの滞在時間が長くなるなど、その結果は広告主には好評のようです。
モバイル広告の“リッチ化”は進むか
ここ数年、Facebookの広告売上高は順調に伸びています。2015年の第4四半期(10~12月)には、広告売上高全体に占めるモバイル広告の割合が約8割(45億USドル)を占めるなど、モバイル広告の重要度が増しています。こうした現状と、スマートデバイスの普及と通信速度の高速化が進んでいること、モバイル広告におけるより高い収益とそれを実現するための高い表現力が求められていることから、今回「Facebook Canvas」が発表されたと考えられます。
2015年10月には、日本でも、株式会社電通とアクセルマークの2社が共同開発した、新しいスマートフォン広告の配信サービス「BRAND SCREEN」が発表されています。こちらも、スマートデバイスにおける広告の表現力を向上させることを目的に開発されたサービスです。
こうしたモバイル広告の表現力を向上させる流れの中で、心配なのが“ユーザーへの配慮”です。現時点でも、見たいコンテンツの上にバナーや動画を被せたり、コンテンツの提供前に別ページへ飛ばされたりといった、ユーザーにとって非常にストレスの高い広告が存在しています。
最近では、Googleが「インタースティシャル広告(アプリの上にオーバーレイで表示されるフルスクリーン広告)は逆効果」と広告を停止するなど、モバイル広告のあり方自体も、まだまだ試行錯誤が続いています。広告の表示拒否やスキップといった選択肢があることはもちろんですが、最も大事なのは「ユーザーがその時求めている行為を決して邪魔しない」ということに尽きるでしょう。
PCのブラウザにおける広告では、表現力が高まり、ユーザーへの訴求力を向上させた反面、無駄に動作の重いものや使いづらいインターフェースが実装されるなどの弊害もありました。始まりは非常にシンプルだったモバイル広告も、同じ道を進んで行くのか。それともユーザー、クライアント双方にとってより良い方法が生まれるのか。新しいクリエイティブにも期待しながら、見守っていきたいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。