いま、見ておきたいウェブサイト

第154回2018年特別編 2017年の特徴、2018年の展望

2018年が始まってから、早くも3ヶ月。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。Lançamento - Website, What a Wonderful World!を運営しているLançamento(ランサメント)です。

『いま、見ておきたいウェブサイト』では、2017年も国内外のウェブサイトやウェブサービス、アプリなどを紹介しながら解説してきました。2018年の初回は「特別編」と題して遅ればせながら、2017年に登場したウェブサイトやウェブサービスの周辺環境などを振り返りながら、2018年への展望を語っていきたいと思います。

特徴その1 Amazonの進出とその影響

四半期ごとに公表される決算を見てみると、Amazonという会社は営業利益率も低く、売上高の割にあまり儲かっていない企業のように思われます。しかし、実際には得られた利益のほとんどを新しい技術やサービス、企業の買収へと先行投資しながら、自らの活動する領域を拡大し続けている特異な企業です。

2017年は、そのAmazonが新たな分野へと事業を拡大し、影響力をさらに拡大していった年でした。

図1 Whole Foods Marketは、全米に約400店舗を展開するオーガニック系の高級スーパーチェーン。Amazonは、このスーパーを137億ドル(約1兆5000億円)で買収した
図1 Whole Foods Marketは、全米に約400店舗を展開するオーガニック系の高級スーパーチェーン。Amazonは、このスーパーを137億ドル(約1兆5000億円)で買収した

2017年6月、Amazonは高級スーパーマーケットのWhole Foods Marketを買収しました。実店舗を持つWhole Foods MarketをAmazonが買収することには、何かメリットがあるのでしょうか。

あるデータによれば、⁠全米にあるWhole Foods Marketの店舗の周囲約16km圏内には、Amazon Prime会員の約9割が住んでいる」ということで、現在Amazonが行っている「AmazonFresh(Amazon Prime会員向けの生鮮食料品を2時間以内に自宅に宅配するサービス⁠⁠AmazonFresh Pickup」をさらに強化できます。またWhole Foods Marketの実店舗から得られる販売データを利用して、逆にeコマースサイトで新たな施策を実行することも可能でしょう。

オンラインで注文した生鮮食料品を、わずか15分後には店舗に立ち寄って受け取れるようにするAmazonの「AmazonFresh Pickup」を説明した動画。 Whole Foods Market買収後は、こうした形で利用される店舗も増え、サービスがさらに拡大するだろう

こうした実店舗から獲得できるのは、eコマースからは得られない貴重なデータです。インターネット上から得られる情報にも価値があるのですが、それ以上に⁠自分たちしか手に入れられない独自データを新たな方法で獲得し、それを活かしながら事業を発展させていく⁠ことが、これからの企業のビジネスにおいて大きな優位性を発揮する時代になっています。

Amazonの進出する業界はさらに広がりを見せそうです。噂が上がっているだけでも医薬品販売、物流、広告事業、保険事業、金融など対象となる領域は拡大する一方です。またAmazonGoのような、今までに誰も実現したことのない新たなサービスにも積極的に挑戦しています。

元はeコマースを中心とした会社であったAmazonも、ここ数年で新たな領域に参入しながら、確実に事業を拡大しています。Amazon自体も事業の拡大とともに大きく変貌する時を迎えているようです。

特徴その2 新技術で進む、アパレル業界の効率化

シーズンごとの商品の入れ替わりや移ろいやすいユーザーの嗜好の変化、流行といった予測不能な要素と在庫管理の難しさなど、安定的な企業運営を行うのが非常に難しい業界のひとつがアパレル業界です。

こうした不安定な要素が多いアパレル業界では、ここ数年インターネット販売やショッピングセンターでの値引きといった低価格競争によって、さらなる利益の低下に陥り多くのブランドが経営状況を悪化させています。

企業側もこうした状況を改善させようと様々な施策を行っています。まず、商品を販売する店舗や百貨店、ショッピングモールなどの販売網の拡大です。実店舗だけでなくWalmartやAmazonなど、eコマースへの商品供給にも積極的に進出しています。2017年には今まで自らの運営するeコマースサイトにしか商品を提供しなかったアパレルメーカー大手のNikeが、Amazonとの販売契約を結んだことが話題となりました。

こうした努力が続く中、2017年には、アパレル業界でも新技術の採用による効率化が進められてきました。

新技術の採用という点では、3Dプリンターの利用が挙げられます。3Dプリンターは、これから多くの業界で積極的に使われていくことが予測されている技術のひとつです。特に製造業では、商品開発から実際の商品提供まで、製造工程の多くで大きな恩恵を受ける技術といわれています。

過去にもアパレル業界で3Dプリンターを使った事例はありましたが、プロモーションの一部といった、あくまで実験的な使われ方が多かったと感じます。そうした事例とは異なり、2017年には3Dプリンターを使って実際に販売できる製品を制作できるレベルにまで技術を高めています。

adidasの「FUTURECRAFT 4D」を解説した映像。Carbon社の3Dプリンターを利用して、約5000足の3Dプリントシューズを量産することに成功。2018年度、adidasはこうした3Dプリントシューズを数十万足も量産する予定

効率化という点では、季節ごとに商品を揃えなければならないアパレル業界にとって、最も問題となるのが在庫管理です。3Dプリンターを使って製品の少量多品種化が低コストで実現できるだけでなく、ユーザーの要望に対応した商品を素早く提供できる可能性が高まります。技術を高めることで、顧客が欲しがる分だけを確実に製造することができるため、製作コストの削減と利益率の向上も見込めます。

本連載でも紹介しましたが、3Dプリンターによる製品はすでに販売されており、今後も多くの製品が登場することでしょう。新技術の導入によって、今まで薄利多売で凌ぎ合い、利益率も低いと考えられてきたアパレル業界が少しずつ変わっていきそうです。

特徴その3 身近なAIは、生活をどう変えるのか

2017年にはGoogle HomeAmazon Echoといった、スマートスピーカーと呼ばれる製品が国内でも販売開始されました。どの商品も音声入力を使って、情報の検索やニュースの読み上げ、音楽の再生や家電の操作など、インターネットを通じた多様なサービスを操作する仕組みです。

スマートスピーカーに搭載されている基本的な技術は、ユーザーの音声を認識して、コンピューターが実行可能な命令に一致させる技術です。この技術をAI(人工知能)による機械学習によって強化していくことで、今後スマートスピーカー自身が、ユーザーにとってより身近な存在となりえる可能性を秘めています。

一人1台を所持するデバイスといえるほど普及したスマートフォンであっても、それを利用する誰もが自由自在に扱えるわけではありません。そうした不満を持つユーザーにとって、最も自然に扱える入力方法が音声でしょう。音声入力で様々なサービスが利用できるスマートスピーカーが普及していけば、これまで以上に多くのユーザーが、自分の思い通りにインターネットの恩恵を受けられるでしょう。

AI(人工知能)については、人間の作業を効率化するだけでなく「人間の働く場所を奪い、将来的に大きな社会不安を与えるのではないか」といった意見もあります。しかしながら近年登場したサービスや製品は、人間の作業や能力をサポートするという形をとっています。

2017年に開催されたイベントAdobe MAX 2017では、⁠Adobe Sensei」と呼ばれる人工知能プラットフォームと統合されたAdobeの代表的なアプリケーションのプロトタイプが発表されました。中でも、主力製品であるAdobe PhotoshopのAI統合による作業の変化は、これからの人間が行うデザインの未来を感じさせるものです。

「Adobe MAX 2017」で公開された、⁠Adobe Sensei」と統合された「Adobe Photoshop」のデモ映像。デザインワークにおける面倒な作業はAIが行い、人間はクリエイティブな作業に専念するという、ワークフローの大きな変化を感じさせる

人工知能が人間の行っているデザインの意味を理解して、自動的に作業を行う様子を目の当たりにすると、将来AIは、人間をサポートするアシスタントとして私たちの身近な場面やサービスに登場してくる事が考えられます。AIにできることは任せて、より本質的な部分に集中するというかたちで人間の能力はさらに拡張されていくのでしょう。

特徴その4 UIデザインツール群雄割拠の時代とその背景

Adobe XD 正式版のリリース、デザインツール「InVision Studio」の発表、⁠Sketch」のライブラリー機能追加など、2017年もUIデザインを制作するツールが次々と登場し、新たな機能を提供してきました。

AdobeのUIデザインツール「Adobe XD」を解説した動画。2017年10月に正式版となった

UIデザインツールが次々と登場する理由には、今までのデザイン制作におけるスタンダードなツールである「Adobe Photoshop」が、現在の制作環境において非常に使いづらくなってきているという状況があります。

現在のアプリやウェブサイトの制作現場では、細部の作り込みよりも⁠素早くワイヤーフレームから動くプロトタイプを提供すること⁠が求められます。問題点を洗い出して修正する作業を繰り返しながら、問題の少ないUIデザインを短期間で完成させることに重点を置く制作現場では、誰もがすぐに扱えて、プロトタイプの制作により特化したツールが求められています。

図2 UIデザイン・プロトタイピングツールFramerのウェブサイト。UIデザインツールのウェブサイトには「prototype」⁠fast」といった単語が並び、デザインワークフローの変化を感じる
図2 UIデザイン・プロトタイピングツール「<a hre

「Adobe Photoshop」⁠ビジュアル表現で不可能なものはない⁠という、非常に守備範囲の広いアプリケーションです。その反面、広大な機能を上手に利用するには多くの学習時間が必要です。また、繰り返し修正作業が頻繁に発生するプロトタイプの制作では、機能的に使いづらい部分もあります。

UIデザインツールがワイヤーフレームなどの上流工程から利用されれば、制作現場での再利用も含め、最終的に作業のムダが少なくて済むというメリットも生まれています。誰もが使えるデザインツールが現場で求められれば、学習コストの高い「Adobe Photoshop」が登場する機会は、別の場面ということになるでしょう。

2018年の展望について

2017年の特徴でも紹介したAmazonの勢いはまだまだ続くと思われます。新たな業界への参入や特定分野への積極的かつ投資金額を考えると、Amazonから新しいサービスや革新的な技術の発表が続くでしょう。

Amazonの進出に他の企業も手をこまねいている訳ではありません。例えば世界最大の小売業者であるWalmartは、実店舗を持つ強みを活かしながら、実店舗と連動した各種サービスのデジタル化を進めています。Amazonの参入によって姿を変えつつあるライバル企業から逆にAmazonを打ち破るような、新たなサービスが登場するかもしれません。

レジでの会計なしで買い物が完了するWalmartのWalmart Scan & Goを説明した動画。アプリで商品のバーコードをスキャンして、最後は店舗のスタッフに表示されるレシートを見せるだけ

Amazonにとっての不安材料は、大きな影響力を持つことから生まれる規制、特に国家レベルの法規制が行われることです。

G20(Group of Twenty)では、国境を越えてインターネットで売買される商品の利益に、各国が課税できる案の検討が進んでおり、Amazonもこうした流れからロビー活動費を増加させていますが、独占的サービスを提供する有名企業に対する締め付けは強まっています。アメリカ国内でも反トラスト法(競争制限や市場独占をはかる企業合同を制限・禁止するアメリカの法律)への懸念もあり、こうした規制がAmazonの今後の成長へのネックとなりそうです。

図3 Amazon.comが買収した、ホームセキュリティ製品販売のRing。留守でも家の中まで配送するサービス「Amazon Key」の強化のためと考えられている
図3 Amazon.comが買収した、ホームセキュリティ製品販売のRing。留守でも家の中まで配送するサービス「Amazon Key」の強化のためと考えられている

ただし、2018年に入ってからも「Amazon Go」の店舗拡大や、ホームセキュリティー機器を手がけるringの買収など、新たなサービスとサービス強化のための積極的な活動が続いており、Amazonの躍進は当分続くでしょう。

図4 2018年に正式版の登場が発表されているUIデザインツールのInVision Studio
図4 2018年に正式版の登場が発表されているUIデザインツールの「InVision Studio」

「Adobe XD」⁠InVision Studio」⁠Sketch」など、個性的な特徴を持つUIデザインツールについては、今後の主流になるであろう製品が揃ってきました。どの製品も圧倒的なシェアを持っているわけではないため、2018年に入ってからも続けられている機能の追加や他サービスとの連携などによって、他のツールとの差別化を図りながら、日々変化している現場でのシェア拡大を図ることになりそうです。

2018年に ⁠Adobe Photoshop CC」に追加された「被写体を選択」機能。⁠Adobe Sensei」によって、画像内のオブジェクトをワンクリックで選択できる

AI関連に関しては、⁠Adobe Photoshop」がどのような変化をするのかに注目しています。昨年の「Adobe Max」でのプロトタイプ公表では、大きな驚きがありました。Adobeは製品を通じて、世界中のデザイナーからデザインに関する独自データを大量に入手できることを考えれば、プロトタイプ以上の驚きを持つ、AIを利用した機能が続々と追加されていくかもしれません。

ファッション通販サイトのZOZOTOWNが昨年行ったZOZOSUITのように、⁠独自データを獲得して業界のスタンダードをひっくり返す⁠という手法が、アパレル業界以外でも拡大するかにも注目したいと思います。独自データを獲得する手段としての身近な新サービスの登場や、3Dプリンター以外の技術の活用とそれらを利用した製品の販売にも期待したいところです。

その他個人的な注目としては、フィンテック関連、特に仮想通貨でも話題になったブロックチェーンの技術を利用したサービスの登場や既存システムの置き換え、それらによる業界構造の変化にも注目していきたいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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