いま,見ておきたいウェブサイト

第171回 2022年特別編 2021年の特徴,2022年のこれから

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2022年の始まりから3か月が過ぎました。みなさま,いかがお過ごしでしょうか。⁠Lançamento - Website, What a Wonderful World!』を運営しているLançamento(ランサメント)です。

『いま,見ておきたいウェブサイト』では,2021年も国内外のウェブサイトやウェブサービスなどを紹介してきました。2022年の初回は「特別編」と題して,2021年に登場したウェブサイトやウェブサービスの背景などを振り返りながら,2022年のこれからについて,語っていきたいと思います。

特徴その1 NFTによる「クリエイター・エコノミー」の目覚め

2021年3月,アーティストのBeepleが制作したデジタルコラージュ『Everydays: The First 5,000 Days』がオークションハウスChristie'sの競売にかけられ,6,930万USドル(約75億円)で落札されました。

図1 オークションハウスChristie'sの競売で落札された『Everydays: The First 5,000Days⁠⁠。存命しているアーティストの中で第三位となる,6,930万USドル(約75億円)という高額の落札価格となった

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この作品はNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)というデータとともに提供されており,デジタルアートがオークション売買の対象になることを世間に知らしめました。この売買が多くのマスコミでも取り上げられ,⁠NFT」という言葉が一般に知られるきっかけとなった2021年は,まさしくNFT元年と言えるでしょう。

NFTは,ブロックチェーン(取引を記録できるオープンな分散型台帳)の技術を活用して,デジタルデータに唯一無二の資産的価値を付与するとともに,所有権の証明を提供します。コピーや改ざんを防ぐ技術のないデジタルデータに所有権が付与されることで,新たな価値が生まれ,トレードの需要が創出されました。

NFTによるトレードで流通量が多いのは,デジタルアートと所有権のNFTを合わせた「NFTアート」です。⁠NFTアート」自体は,プラットフォームと呼ばれるサービスで誰でも購入できます。ブロックチェーン分析会社Chainalysisの『2021年NFT市場レポート』プレビューによれば,2021年のNFTの取引総額は409億ドル(約4兆7100億円)となっており,2022年以降も拡大していく見込みです。

図2 世界最大のNFT取扱量を誇るオンラインマーケットプレイスのひとつ,OpenSea

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NFTに注目が集まった理由は,売買金額だけの話ではありません。現物の美術品を扱うオークションハウスで,実際に高額の売買が成立したことも大きいでしょう。Christie'sだけでなく,同じくオークションハウスのSotheby'sでもNFTアートの売買は成立していることや,有名アーティスト自身が正式なNFTアートを提供することで信頼性を増しています。

NFTの広がりで恩恵を受けたのがクリエイターです。自由に改変や複製が容易で明確な所有権も存在しないデジタル作品をオークションに出すのは無理な話で,デジタル作品から直接報酬を得ることは夢物語だったでしょう。⁠クリエイターズ・エコノミー」と呼ばれる,クリエイターが収入を得られる経済圏は以前から存在していました。2021年にNFTアートの莫大な取引金額が話題としてメディアに取り上げらることで,参加人数は増加し,経済圏は大きく拡大しました。NFTアート自体の流通量も伸びており,NFTの関連事業にも,Coca-ColaやAdidasといった大企業が参加を進めています。NikeのようにNFTアートを制作する会社を買収するなど,積極的な動きも出てきています。

図3 2021年12月にNikeが買収したRTFKT(アーティファクト)は,NFTを組み合わせたスニーカーなどのコレクターズアイテムを制作している

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NFTの経済圏が拡大して活気づく一方,トラブルも発生しています。⁠有名アーティスト制作」とされる偽物のNFTアートや作者に無断で第三者によってNFT化されたアートが販売される事例は後を絶ちません。ただ,これらは今までの現物アートを購入する際にも注意する点であり,利用者と購入者側にとって,NFTを諦める決定的な問題とは言えません。

クリエイターの収入源を拡大する意味では,NFTはこうした問題以上に大きなメリットを持っています。プラットフォーム経由で世界中の顧客に作品を販売できること,売上が作者のウォレットに即時入金されること,転売時にも作者にロイヤリティが継続的に支払われることなど,クリエイターに大きなメリットのある仕組みと言えるでしょう。

ただし,拡大する経済圏を持続的に支えるには,NFTを購入する顧客や新たな購入層の広がりが必要不可欠です。イギリスの学術雑誌『Nature』に発表された研究論文Mapping the NFT revolution: market trends, trade networks, and visual featuresでは,⁠NFTの取引全体の85%はわずか10%のトレーダーによるもの」という研究結果が公表されており,ごくごく一部の人間が積極的にトレーディングを行っているのが現実です。

NFTアート自体は誰でも確認できます。また,NFTには作品の複製を防止する機能もありません。唯一無二であることを証明するデータも,ブロックチェーン上の記録に過ぎません。それでも,手元において大事にしたいという現物アートが持つ魅力を備えています。

ただし,所持による他者への自慢や自己満足を得る「所有価値⁠⁠,将来における資産の値上がり益を期待する「資産価値」はもちろん,購入した作品の利用法や所有者のみが得られる特典といった「新たな価値」をより広い層に提供できない限り,NFTが他の資産のような長期的価値を維持することは難しいでしょう。

現在,NFTはアートだけでなく,ゲームやスポーツなどでデジタル作品を商品化するために利用され始めています。NFTの周辺では多くの変化が続いており,これからどのような動きがあるかは予測できません。複雑な売買手続きの簡素化だけでなく,マネーロンダリングの温床となる可能性やイーサリアムブロックチェーン利用による大量の電力消費,ガス代(NFTの取引手数料)の高騰といった不安を解消しながら,参加者を増やしつつ,新しい経済圏を拡大していくはずです。

著者プロフィール

Lançamento(ランサメント)

国内外のウェブサイトを日々紹介する Blog『Lançamento』を運営する,自称“フリーランスという名の無職”。目指すは“エクスペリエンスデザイナー”(O'REILLY『Web情報アーキテクチャ』11ページ参照)。2008年の“ジェフの奇跡的な残留”を目の前で見たサッカー好き。