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第173回環境の変化から生まれた「Twitter Notes」は、Twitterの未来を変えられるか

文章を書き続けるなら、読者がたくさん集まっている場所で公開したい。そう思う人たちは、多いのではないでしょうか。2022年6月23日にTwitterが提供を開始した「Twitter Notes」は、そんな要望を叶える、最適の環境になるかもしれません。

Twitterの新機能「Twitter Notes」を使って公開された記事。タイムラインが表示される部分を使って、コンテンツが表示される
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Twitterは「Twitter Notes」を告知するツイートで、⁠より長い文章を書く方法をテストしています」と説明しています。また、実際に記事を書いて投稿するまでを紹介しています。

「Twitter Notes」は、長文の記事をTwitterで共有できる機能です。1つの記事のタイトルは100文字まで、最大文字数は2,500文字までという制限はありますが、画像や動画、GIF、ツイートも埋め込めます。記事を公開すると、ツイートに「Note card」と呼ばれる記事へのリンクが表示され、ユーザーはリンクから記事が読めます。

⁠Twitter Notes」で記事を公開すると、プロフィールの下に「Notes(ノート⁠⁠」タブが表示され、公開した記事がまとめられる
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「Twitter Notes」では、文章を書くために必要な機能(リッチテキストエディター)が提供されており、公開後の内容の編集や修正に対応しています。公開した記事は、プロフィール下の「Notes(ノート⁠⁠」タブにまとめられます。現段階では、日本から公開された「Twitter Notes」の記事を閲覧することはできません。

⁠Twitter Notes」の場合、公開後も内容の修正が可能。修正した場合は記事の右上部(赤枠部分)「編集済み」であることを示すラベルが表示される
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現在、アメリカ、カナダ、イギリス、ガーナの4カ国で、少人数のライターグループによる「TwitterNotes」のテストが始まっています。約2か月間、最初のバージョンを各ライターが使用して、機能に対するフィードバックを行いながら改良が進められます。⁠Twitter Notes」の開発は、Twitterが買収したニュースレター配信サービスRevueの一部である、Twitter Writeチームが行います。

もともと140文字の短文を書く環境として誕生したTwitterですが、ここ数年はツイートの最大文字数の増加やスレッド機能(複数のツイートをつなげる)の追加、ニュースレター配信サービスの買収と、ユーザーが長文を書ける環境を整えるための行動が目立っていました。その集大成が「Twitter Notes」ということになるでしょう。

BlogからSNSの時代へ

「インターネットで長文を書く」と言えば、最初に思い浮かべるのがBlogでしょう。2000年代前半には、日本でも企業や芸能人、一般個人の多種多彩なコンテンツが次々と登場して、社会的な現象にもなりました。

現在、あれほど活況だったBlogサービスの多くは、事業譲渡や規模縮小、サービスの終了が続いています。有名人を除けば、毎日文章を書いていた多くの人達はどこへ行ったのでしょうか。

多くの人達が移動した場所は、2010年頃から普及してきたSNSです。

文字、画像、映像など、発信するコンテンツに最適なSNSが選択できることで、誰もが気軽に情報発信できるようになりました。Blogにあった筆者と読者のコミュニケーションを促す特徴的な機能(RSS、トラックバック、コメント)も、同様の機能(フォロー、リポストやリツイート、返信)がSNSでも提供されており、Blogでの情報発信にこだわる必要はなくなりました。

書き始める場所を決めるもの

SNSによる情報発信が進んだ理由の1つに、インターネットを利用する一般的なデバイスが、PCからスマートフォンへと変わってきたことも挙げられます。

Blogを始める場合、まずは既存のBlogサービスの利用を考えます。ただ、すべてのBlogサービスが⁠スマートフォンで快適に読み書きできる⁠ようには整備されていません。自由度を求めてWordPressのようなCMSを利用する場合、今度はサーバーの契約と設定が必要になり、誰もが気軽にBlogを始められないのが現実です。

Blogを書き始めても、自分のコンテンツが見てもらえるとは限りません。発信した情報へと誰かがたどり着けるよう、検索やそれ以外の方法で見つけてもらう必要があるのですが、Blogだけの機能でそれらを実現するのは非常に難しいです。

こうした理由から、コンテンツを見てもらうには、大勢の人が長時間滞在する⁠場所⁠で公開して、拡散させるのが理にかなっています。一般的なユーザーの可処分時間の利用法を考慮すれば、⁠コンテンツの公開場所はSNSで行う」ということになるでしょう。

コンテンツを制作したら、すぐに公開できて、見られた回数もわかる。内容へのコメントやリツイートで相手の反応もわかる。反応にもすぐに返信できる……こうした点からも、何かと準備が必要なBlogではなく、気軽に始められるSNSの利用者が世界中で増加した理由がわかります。

継続的な報酬が生み出すコンテンツ

筆者もBlogを中心に情報を得ていた頃は、RSSリーダーなどを駆使しながら、数多くのBlogを購読していました。その中でも、いち早くBlogから動画SNSへと移動していったのが、ガジェット系Blogの運営者たちでした。

動画を使った製品紹介で、Blogのように大量の文章や画像を駆使する必要がなくなったことも理由の1つでしょう。しかし、移行した最大の理由は、SNS経由で獲得したファンによる閲覧数の確保で、安定した収入が実現できたことではないでしょうか。

Blogの場合、検索エンジンの仕様変更で検索順位が変動すれば、閲覧数にも大きな影響が出ます。閲覧数に連動した広告は単価も低く、物販で得られる成果報酬型の広告も大量販売が必要で、どちらも収入は安定しません。不安定な収入は、配信者が新たなコンテンツを生み出す可能性を減らします。

コンテンツ制作への意欲を継続させ、新たに始めてみたいと思わせる新規参入者を増やすため、配信者を支える⁠安定した継続的な報酬⁠が必要な時代になっているのです。

報酬を生み出すプラットフォームの特徴

“安定した継続的な報酬⁠を支払う仕組みを備えながら、手軽に文章の公開が可能なライティング・プラットフォームも存在しています。代表的なものとして、⁠Medium」「Note⁠⁠、⁠Substack」が挙げられるでしょう。

Mediumは公開したコンテンツの閲覧数ではなく、⁠会員が読んだ時間に応じて収入が得られる」という独特の報酬形式を持ったライティング・プラットフォームです。配信者経由で新たに有料会員となった読者の会費の半額が継続的に支払われる、⁠Referred memberships」と呼ばれる仕組みもあります。

独特の報酬形式を持つライティング・プラットフォーム「Medium⁠⁠。⁠Publish,grow, and earn, all in one place.(出版、成長、そして稼ぐ。すべてを1つの場所で⁠⁠」というメッセージが印象的
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日本で誕生したNoteも、ユーザー数を増やしているコンテンツ配信プラットフォームです。コンテンツの公開だけでなく、読者からの課金や有料記事の販売で収益が得られます。簡単にコンテンツを作れることにも力を入れており、その手軽さから企業による情報発信の場としても利用され始めています。

日本で誕生したコンテンツ配信プラットフォーム「Note⁠⁠。日本語に対応しており機能がわかりやすい。記事作成用エディターの使いやすさも魅力の1つ
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最後に紹介するSubstackは、サブスクリプション形式のコンテンツ配信プラットフォームです。SNSなどで獲得した有料会員のメールアドレスに、直接コンテンツの配信を行います。読みたい読者に記事を配信するため、開封率が非常に高く、読者の離脱が少ないのが魅力です。

サブスクリプション形式の「Substack⁠⁠。獲得した会員に直接ニュースレターを配信することで、非常に高い開封率を誇る
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どのライティング・プラットフォームも、特典(アーカイブ記事が読める、より内容の濃い有料記事が提供されるなど)への対価を支払う有料会員を獲得することで、配信者が報酬を得られます。

「Twitter Notes」を利用するメリット

実績のあるライティング・プラットフォームがすでに存在しているにもかかわらず、それでも「Twitter Notes」を利用するメリットはあるでしょうか。

「Twitter Notes」には、Twitterで長文が書けるというメリットがあります。Twitterのスレッド機能は、ツイートをつなげることで長文を作ります。そのため、1ツイートの制限である⁠140文字で文章を区切る⁠ことがどうしても必要です。単純に文字数で切るか、それとも文章を丸めて収めるか。長文を書いた後に読みやすさを考えた編集が必要ですが、こうした手間のかかる作業からも開放されます。

Twitterでのスレッド機能で長文を作成する様子。長文とは言うものの、ツイートを連続してつなげるだけなので、ツイートの切れ目となる文章をどう処理するのか考える必要がある
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コンテンツを閲覧後、すぐタイムラインに戻れるのもメリットです。⁠Twitter Notes」で記事を公開すると、ツイートの中に「Note card」が表示されます。コンテンツはTwitter内で表示されるため、外部ページへの遷移がありません。ツイートで外部リンクを共有する方法では、Twitterの外部からタイムラインに戻る際、面倒な手順が発生します。この手間がなくなれば、ユーザーもコンテンツに集中できるでしょう。

最大のメリットは、⁠Twitter Notes」で作成したコンテンツを、Twitterで拡散できることです。140文字に制限されていたツイート以外のコンテンツの提供は、今までと異なるフォロワーの獲得が期待できます。すでにフォロワーを数多く抱えている人にとっても、より多くのフォロワーを獲得できるチャンスが広がります。

その他、事前にテスト版として機能を利用しているライターからは、⁠特定のイベント時のツイートを取り込んで簡単にまとめられる」こと、⁠コンテンツを作成するエディターが使いやすい」ことなどが、メリットとして挙げられています。

⁠Twitter Notes」のエディターの使い勝手は、日本でサービスが開始されていないため判断するのは難しいが、Twitterが買収したニュースレター配信サービス「Revue」が元になっていると考えられる。画面は「Revue」が提供するニュースレターのエディター
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「Twitter Notes」が持つ課題

紹介してきたメリットから、あなたは「Twitter Notes」を使いたくなったでしょうか。筆者としては、⁠Twitter Notes」を使うしかないと思わせるためには、まだ足りない部分があると感じます。

課題の1つは、公開された「Twitter Notes」の見つけやすさです。Twitterでは「話題を検索タブ」のように、多ジャンルの話題をまとめて閲覧できます。公開された「Twitter Notes」でも同様に、ユーザーの求めるコンテンツがすぐ発見できる仕組みが必要不可欠です。

また、Twitter上でのコンテンツを公開するのであれば、プラットフォームへの依存が強まります。将来的にTwitterの方針変更で、公開に影響が出る可能性もあります。仮に大きな変更があったとしても、自分のコンテンツを自由に持ち出せるなど、利用者がコンテンツの制作に安心して打ち込める機能も必要です。

最大の課題は、他のライティング・プラットフォームと同様に、コンテンツの安定収益化ができるかでしょう。広告表示やアフィリエイトといった収益化の方法があるBlogと異なり、現状では、Twitterのみでコンテンツ配信者が直接利益を得るのは、⁠Tips(サードパーティ決済サービスへのリンクをプロフィールに追加できる機能⁠⁠」ぐらいしかありません。

可能性があるとすれば、Twitterの有料サービス「Twitter Blue」での月額課金です。フォロワー数が1万人以上なら「Super Follows(月額料金を支払うとフォローした人に特典が提供される⁠⁠」の併用で、さらに収益は安定するはずです。ただし、コンテンツへの個別課金など、ユーザーの利便性について考慮する部分も多そうです。

多くのライティング・プラットフォームでは、収益の安定化に力を入れています。配信者にとって何らかの利益がなければ、他のプラットフォームが選ばれ、良質なコンテンツも獲得できません。そういった意味でも、コンテンツの安定収益化は「Twitter Notes」の大きな課題となるでしょう。

外部環境に応じて、その姿を変えるTwitter

直近の決算で明らかですが、Twitterの総売上のほとんどが広告費で、それ以外の収益の獲得に現在も苦しんでいます。安定的な収益の柱を育てるため、これまでも多くの施策を実行してきましたが、⁠Twitter Notes」もその1つとして、強力に推し進めてくる可能性もあります。

多くの課題が残るものの、気軽に文章を書いて拡散できる「Twitter Notes」には魅力があります。Twitterとしても、ユーザーが外部リンクでSNSの外に移動せず、Twitterに長時間滞在してくれれば、恩恵(広告表示数の増加など)も得られます。

仮に「Twitter Notes」が広く普及したとしても、検索からの流入を重視するコンテンツは今後も外部に存在するでしょう。ただし、個人が趣味として楽しむようなBlogの設置や利用は、大幅に少なくなるかもしれません。

これまでもTwitterは、利用デバイスやユーザー数の拡大などの周辺環境によって、その役割を大きく変化させてきました。長文が書ける「Twitter Notes」の登場は、わずか⁠140文字のつぶやき⁠から始まったTwitterが、本格的なライティング・プラットフォームへと変貌する過程の始まりなのかもしれません。

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