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【実践編】第2回 実世界指向インターフェース

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実世界指向インターフェースとは

暦本:

昔は,こっちに人間がいて,こっちにマシンがあって,その間のインターフェースというのが一番基本的だったんです図1⁠。VR(Virtual Reality)というのは,人間とコンピュータを取り囲んで,囲んだ中が仮想世界で,リアルは外。仮想世界とリアルとの間に壁ができちゃう図2⁠。そういう世界ですね。

図1

図1

図2

図2

しかし,今我々がやっていることというのは,コンピュータもあるしリアルもある。ユビキタスコンピューティングだったりとか,あるいは人間がコンピュータの力を借りながらリアルワールドとインタラクションするような世界になってきていると思うんです。これがまず1つの概念。

もう1つ,最近思っているのは,インターフェースというのは,結局ヒューマンとコンピュータとリアルワールドの3要素なんですよ。人間がいて,こっちがコンピュータのネットワークの世界で,そっちは現実の世界。こういう描き方でも少なくともインターフェースというのは3つぐらいある図3⁠。

なのでインターフェースというと,これ(図1)だけを考えて良い時代は過ぎて,この場合は少なくとも3つは考えなくちゃいけないし,これがユビキタスコンピューティングだったらエレメントがいっぱいあるし,こんなにキレイに面が分かれていないし……なので,こういう世界というのは,インターフェースとして切れているという発想は難しくて,この全体をシステムとして考える図4⁠。そこが,今と昔のインターフェースの違いです。

もしかしたらリアルとコンピュータというのは,環境をセンシングして,たとえばユビキタスコンピューティングなんだけれども地球環境をどう思うか,みたいなのを含めてインタラクションなのかなと思います。我々は全部こうなっているのをサイボーグ化した地球という意味で⁠サイバネティックアース⁠と呼んでいます。

段々とインターネットのようなネットワーク世界が地球を覆ってきていますよね。でも,まだ情報的に覆っているだけで,リアルワールドとそんなに連携して覆っているわけではない。人間が手で書いた情報がまだメイン。

図3

図3

図4

図4

しかし,今世界中で注目されているのが,リアルワールドの情報――温度やCO2なんか――がセンシングでダイレクトにインターネットの世界に入ってくることで。これがもっと発達すると,リアルワールドのアクティビティとインターネットのアクティビティがどんどん絡み合ってきて,もう引き剥がせないような状態になる。それがサイバネティックアースだと思っていまして図5⁠。

そういう複合体みたいなものの上でコンピューティングってどうなのかな? というのは,コンピュータサイエンスとして結構大きなテーマなんじゃないかと思います。

図5

図5

前田:

PS3の分散ネットワークが医療研究に使用されたり注5もしていますよね。あれ,すごく僕は好きで。単に研究にCell/B.E.を提供するだけではなくて,もっと,こういう行為をしたらCO2がサーバに入るというのがネットワークで可視化されているような。

暦本:

ビルのエアコンディションがセンシングされていると,確実に今よりも電気消費量が減るという研究結果が出ているんです。つまり,一見高層ビル群なんだけど,ものすごくセンシングされている環境だと,実は昔よりも全然電気消費量が少ない。田舎で散らばって車で行き来するような生活よりも,高層ビルに住むほうがむしろ電気効率が良いかもしれない。そういう時代になるかもしれないし,あるいはまさにフォークソノミー的に,自宅の電力消費量をビジュアライズして「うちのほうが少ない」と喜ぶような。それが遊びになったりとかという可能性もありますよね。

そのへんが,実世界との融合と考えたときに,段々こういったサイバネテックアースのような新しい方向に進展してるんじゃないかと思うんです。

前田:

人と環境が肌感覚で,オーガニックにネットワーキングするのを想像するのは楽しいですね。本日はどうもありがとうございました。

注5)
人間のタンパク質の折りたたみ現象の解析アップデートを,PS3(標準的なPCプロセッサよりも10倍速での処理が可能なCell/B.E.を搭載)に適用することで効率化を図り,パーキンソン病/アルツハイマー病/ガンなどの原因究明を行う試み。

The Inspiration from this talk.

画像

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著者プロフィール

前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

暦本純一(れきもとじゅんいち)

東京大学大学院情報学環教授。86'年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。日本電気,アルバータ大学を経て,94'年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。99'年よりソニーコンピュータサイエンス研究所 インタラクションラボラトリー室長。2007年より現職(兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所)。PlaceEngine事業を核とするベンチャー企業 クウジット株式会社の共同創設者でもある。理学博士。ヒューマンコンピュータインタラクション全般,とくに実世界指向インタフェース,拡張現実感,情報視覚化等に興味を持つ。ACM, 情報処理学会,日本ソフトウェア科学会各会員。98'年MMCA マルチメディアグランプリ技術賞,2003年日本文化デザイン賞,2005年 iF Communication Design Award, 2007年 ACM SIGCHI Academy,2008年日経BP技術賞などを受賞。