新春特別企画

[新春特別放談]ニッポンのPostgreSQLコミュニティ生みの親、石井達夫氏が語るPostgreSQLの現在・過去・未来(1)

世界のオープンソースDBの主流はMySQLで、PostgreSQLが流行っているのは日本だけ ─このフレーズを過去に何度聞いたことでしょうか。事実、今でもそううそぶく人々は少なくありません。しかし、ここ1、2年でPostgreSQLは明らかにグローバルレベルでのシェアを高めています。とくにHerokuやAmazon Redshiftといった大規模クラウド環境でのPostgreSQL採用が進んだこともあり、PostgreSQLがもともと備えていたスケールパワーや柔軟性に対してあらためて高い評価がなされる傾向にあります。

2013年は9月にPostgreSQL 9.3がリリースされ、レプリケーション機能やJSONサポートが強化されるなど、多機能化に加え、大規模ユーザ向けの機能改善が積極的に図られました。また、11月にはクラウドのトップベンダであるAmazon Web Services(AWS)がRDS(Relational Database Services)のメニューにPostgreSQLを追加し、大きな話題となっています。大企業の導入事例も確実に増えており、2013年はまさにPostgreSQLにとって躍進の1年だったといえるでしょう。

はたしてPostgreSQLはこの勢いを今後も維持していくことができるのでしょうか。2014年を迎えるにあたり、PostgreSQLの現役コミッターでもあり、黎明期のころから日本のPostgreSQLコミュニティの発展を支えてきたSRA OSS, Inc. 日本支社 支社長 石井達夫氏に、PostgreSQLヒストリを俯瞰していただきました。

石井達夫氏
石井達夫氏

現在のITのトレンドを牽引しているのは間違いなくオープンソース

─⁠─まずは2013年のPostgreSQLを振り返ってみたいのですが、石井さんはどのように評価されているでしょうか。

石井:そうですね。やはりユーザ層の世界的な拡がりを強く実感した1年だったと思います。11月に行われた日本PostgreSQLユーザ会主催の「PostgreSQLカンファレンス2013」も大盛況でしたが、2013年は日本以外の地域でもコミュニティによる活動が非常に活発に行われました。

PostgreSQLの大きなカンファレンスは日本のほか、カナダ、アメリカ、ヨーロッパの各国、中国、ブラジルなどでも開催されるのですが、以前は日本とカナダ以外はお世辞にも盛況とは言いがたかった。それが2013年はどのイベントも参加者の数が大きく増え、キーノートやセッションの質も高くなってきました。

たとえばアイルランドのダブリンで開催されたカンファレンスは私も参加したのですが、240名の参加者を集め、欧州では過去最大に近い規模となりました。確実に裾野が広がっていると感じています。

─⁠─ユーザ層が広がってきた原因はどこにあるとお考えでしょうか。

石井:いちばん大きいのはPostgreSQL 9.1からメニーコア対応になったことでしょう。この機能はバージョンを重ねるごとに進化しており、CPUスケールやバックアップの並列化といったメリットをもたらしています。とくにCPUリソースを効率的に扱えるようになったのは非常に大きい。

もうひとつはやや政治的な話となりますが、MySQLがオラクルの下で開発されるようになって以来、PostgreSQLへの移行を希望するユーザが増えているという事情もあります。MySQLのように、オープンソースの著作権を1社が専有している状況を嫌う向きは少なくありません。対してPostgreSQLは特定の1社のものではなく、開発にも世界中から誰でも参加できます。そうしたPostgreSQLのオープンソースとしての透明度の高さを評価するユーザが世界中で増えているといえるでしょう。

─⁠─ここ最近のPostgreSQLを見ていると、Herokuなどのクラウド基盤、GreenplumやAmazon RedshiftといったDWH(データウェアハウジング)の基盤として採用されるケースが増えています。こうした動きについてはどう思われますか。

石井:クラウドやビッグデータという現在のITのトレンドを牽引しているのは間違いなくオープンソースです。むしろオープンソースを基盤としていなければ拡張性や柔軟性に富んだインフラを組むのは難しい時代になりつつあります。とくに大規模になればなるほどその傾向は強いといえます。

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またクラウドや大規模システムにおいては、ソフトウェアのライセンスが非常に重要になってきます。クラウドのメリットのひとつに、すぐにリソースを調達できるという点が挙げられますが、プロプライエタリ中心のシステムの場合、ライセンスの交渉だけで半年以上かかってしまうという事態にもなりかねません。スピードが重要な今の時代には、オープンソースを選ぶのがむしろ当然となりつつあります。

─⁠─時代がずいぶん変わった感じがします。オープンソースなんてセキュリティが怖くて使い物にならないと言われていたのはそんなに前の話ではなかったような気がするのですが…。

石井:オープンソースでビジネスをやっている人間から見ると、少なくともオープンソースをバックグラウンドにすることへの拒否反応は間違いなく減っています。

拒否反応といえば、AWSやGoogleのおかげでクラウドへの拒否反応もずいぶんと小さくなってきたように感じます。少し前まではデータベースをクラウドに上げて利用するなんてとんでもないという声が多かった。しかしAWSによるAmazon RDSが一般的になるにつれて、2012年くらいからデータベース on クラウドを最初から指向する企業も増えてきました。もっとも残念ながら、日本はそれほどフットワークは軽いユーザは多くくありませんが。

─⁠─AWSは11月に同社の年次カンファレンス「Amazon re:Invent 2013」でAmazon RDS for PostgreSQLを発表しました。ヴァーナー・ボーガスCTOが会場でそのニュースを発表したとき、会場から地鳴りのような歓声が沸き上がったのをはっきり覚えています。

石井:それはうらやましい(笑⁠⁠。私もぜひその場にいたかったですね。PostgreSQLが世界的にそれほど認められた存在となったという事実は、長年PostgreSQLに関わってきた者としては非常に感慨深いです。

SRA OSS Inc.としてもAmazon RDS for PostgreSQLをビジネスとして扱っていくことに関心をもっているので、何らかのかたちでサービスを提供できればと考えています。

(翌日につづく)

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