未来を考えるデベロッパを応援する~「Find your ability! for デベロッパ」レポート

#1「Find_your_ability」第二弾!デベロッパが「知っておくべきことゼンブ」

7月24日、パソナグループ本社においてセミナー「Find your ability ! for デベロッパ~Webサービス/アプリ業界が『気になる!』人が知っておくべきことゼンブ~」が開催されました。本セミナーは、エンジニア、クリエイターへ最新技術や業界動向、キャリアのヒントをシェアし、新しい働き方を模索する「Find your ability」キャンペーンの第二弾となるもので、デベロッパへ向けてWebサービス/アプリ業界動向を展望するとともに、デベロッパとして活躍するために掴んでおくべき知識や現場感覚をシェアするというもの。Appceleratorの増井雄一郎による「Web業界に落とし穴はないか?-デベロッパにとってのWeb業界-」と、ゆめみの中田稔氏による「求められるデベロッパの条件」の2つのセッションが行われました。

求められているのは「技術的な基礎力」

セミナー1本目のセッションは、Appceleratorの増井雄一郎による「Web業界に落とし穴はないか?-デベロッパにとってのWeb業界-」でした。増井氏は現在、米Appcelerator社にプラットフォーム・エヴァンジェリストとして勤務していますが。日本にいながらリモートで働いています。2007年3月までAjax、Ruby on Railsなどの新技術を使ったWebアプリケーションの構築や雑誌・書籍への執筆をフリーランスとして活動していました。その他にもPukiWikiや、ニフティ社「アバウトミー」などのソーシャルアプリケーションの企画・開発などがあります。

Appceleratorの増井雄一郎氏。同社に入社したエピソードは非常にユニークでした
Appceleratorの増井雄一郎氏。同社に入社したエピソードは非常にユニークでした

増井氏が初めてパソコンに触ったのは15歳、高校生のときでした。そのハマり方は尋常でなく、時間があるとパソコンに触り、高校生にして会計事務所の顧客に在庫管理などのシステムを構築していたといいます。大学ではインターネット漬けとなり、FreeBSDサーバ構築のWebページを作ったり、PHPで作成したアプリなども公開していました。当時はHTMLやCGIが書ければ仕事があったのです。しかし個人では回らなくなり、大学6年目に北海道で起業。通信キャリアや大手印刷企業などをクライアントに、携帯電話向けWebサービスの構築などを行いました。

4~5年目で経営者として会社を続けるか、エンジニアになるかで悩んだといいます。そして増井氏はコードを書くことを選び、会社を閉じてフリーになりました。会社員になると毎日通勤しなければならず、得意分野以外の仕事をやらされることもあります。また、貢献度が給与に反映されにくい、仕事に飽きても選択肢がないといった問題もあります。しかし、フリーランスで仕事をするうちに英語の必要性を痛切に感じるようになったといいます。そこで「RailsConf 2006」に参加するため初の渡米を果たしますが、やはり英語を理解するに至りませんでした。

PHPベースのWikiエンジンである「PukiWiki」の開発を、オープンソースチームを作って引き継いでいます
PHPベースのWikiエンジンである「PukiWiki」の開発を、オープンソースチームを作って引き継いでいます

「iPhoneハッカソン」への参加が大きな契機に

妻からも「ずっと英語を使うから、この機会にアメリカに行こう」と後押しもありましたが、個人でビザを取ることは難しく、どこかの会社に入ってアメリカに転勤させてもらうのが近道と考え始めたそうです。その頃に、Windows 95やInternet Explorer 3の元アーキテクトだった中島氏と出会い、二人でアメリカにBig Canvasという会社を設立するに至りました。まったくノープランでの起業でしたが、ちょうどiPhone SDKが公開されたため、さっそく「Big Canvas PhotoShare」というアプリを作成しました。とはいえiPhoneビジネスは難しく、また英語はしっかりと勉強しないと伸びないと思い、一度日本に戻って立て直そうとしたのです。

2010年夏「iPhoneハッカソン」に参加したことで大きな変化が訪れます。このイベントのスポンサーがAppceleratorだったので、⁠Titanium」を愛用していた増井氏は社員に不満をぶつけようとしたのです。しかし来ていたのはマーケティング担当で、話をすると「直接言え」とCEOのメールアドレスを教えてくれたそうです。メールをしてみると「文句を言うなら自分で直せ」と、会社を閉めた直後にオファーが来たのです。CEOも日本に4年くらいいたとのことで、面接の際には「英語力よりも技術力」と言われたそうです。

増井氏の大きな転機となった「iPhoneハッカソン⁠⁠。スポンサーがAppceleratorだったのです
増井氏の大きな転機となった「iPhoneハッカソン」。スポンサーがAppceleratorだったのです

Web業界で重宝されるのは「手を動かせる人、ものを作れる人」

続いて増井氏は、⁠デベロッパからみるWeb業界」として「どうやら拡大しているようだが、5年のサイクルで技術が移り変わっていく。新しい技術が登場するたびに経歴がリセットされてしまう反面、参入障壁が低い」と分析します。ただし、いつまで続くかは不透明で、市場がなくなってしまうことさえあります。そんなWeb業界で重宝されるのは、⁠手を動かせる人、ものを作れる人」であるとしました。さらにWeb業界には「受託」「自社サービス」の2つの柱があり、仕事の流れも求められることも異なると指摘しました。

さらにFAQとして、⁠いま食える技術はなに?」⁠これから流行る技術はなに?」⁠40代でも食えるの?」という問いに「わかったら苦労しない」としながらも、答えていきました。求められるのは今流行っている技術そのものではなく、今の技術を正しく理解して新しい技術にキャッチアップできる「基礎力」が重要であるとしました。また、事象を数値化して把握することも大事であるといいます。数値化とは、たとえば「プロト作成から製品レベルまでは10~20倍の時間がかかる」⁠言語を覚えるのは100時間以上」などと、肌感覚として時間を予測、把握するということです。

さらに、流行がわからなければ自分で流行を作る、自分で流行らせることもできる。技術を作り、ブログを書いて人に教えるわけです。⁠実績がないと仕事がない」⁠仕事がないと実績が作れない」というループから抜け出すには、仕事以外で実績を作る方法もあるとし、Web系は仕事以外でサービスやアプリを作り、同様にブログで広めていくべきとしました。最後に増井氏は、⁠Web業界は移り変わりが激しく、そのスパンも短いです。そこで、ひとつの会社に長くいるより、渡り歩くという視点も有効です。目先を変えていくと、業務としてもおもしろいと思います」とセッションを締めくくりました。

最後に「今後のトレンド」を紹介。二極化で「低い方」にならないために基礎力が必要であるとしました
最後に「今後のトレンド」を紹介。二極化で「低い方」にならないために基礎力が必要であるとしました

これからのデベロッパに求められる条件とは?

2本目のセッションは、ゆめみの中田稔氏による「求められるデベロッパの条件」でした。中田氏は、京都大学大学院の情報研究科在学中の2000年に、研究室の仲間2人と共に株式会社ゆめみを設立し、CTOに就任しました。大手企業を多数顧客に持ち、モバイル分野の最先端施策をコンサルティングから開発、運用まで一気通貫で支援。提案段階からエンジニアが担当することにこだわりを持っており、エンジニアが社員の7割を占めることも特長です。

中田氏は、京都大学大学院の情報研究科在学中の2000年に、仲間2人と株式会社ゆめみを設立し、CTOに就任しました
中田氏は、京都大学大学院の情報研究科在学中の2000年に、仲間2人と株式会社ゆめみを設立し、CTOに就任しました

中田氏はまず、ゆめみが取り組んでいる「3つのこと」を紹介しました。

SxS:ソーシャルとスマートフォン
今までは企業が情報を発信していましたが、すでに逆転しており、現在では個人が情報を発信しています。スマートフォンは、Web以外の機能と持ち運びが容易なことが、大きな力になります。
O2O:オンラインtoオフライン
オンとオフをつなげるという意味ですが、双方向であることが重要です。サイクルを回していくことで、よりよいサービスが可能になります。
G10N:ゲーミフィケーション
ゲームの力を別の分野に生かそうという取り組みで、添加剤のような位置付けになります。ゲームにはいろいろな要素があるので、それを別の領域に適用するというものです。
ゆめみが取り組んでいるのは、⁠SxS」⁠O2O」⁠G10N」の3つであるといいます
ゆめみが取り組んでいるのは、「SxS」「O2O」「G10N」の3つであるといいます

サービスに求められるものは「価値」技術指向から課題解決指向へ

そして中田氏は、⁠皆さんは、どんな想いを持って開発に携わっていますか?」と問いかけ、重要なことは「人が求めるサービスを考えて作ること」⁠人が使うサービスという観点ではB2C、B2Bは関係ない」であるとしました。

さらに「サービスに求められるものは?」⁠凄い技術を使っていればいいモノだろうか?」と問いかけます。

ユーザの視点でサービスをみると、ユーザは誰も技術なんて見ていないし、欲しがってもいない。ユーザがサービスに求めるのは、そのサービスから受ける価値であるとしました。一方エンジニアの視点では、作った後に自分で使って喜ぶ、満足する。あるいは使ってもらって喜んでもらう。感謝されるなど「作ったものを通して価値を提供したい」と考えます。では、価値とは何でしょう? と中田氏はさらに問いかけます。

人が感じる価値はそれぞれ異なり、実にたくさんあります。そこで、⁠サービス=価値の提供」として、本質的な価値を考えることが重要です。価値には、これまでにない新しい価値を提供する「ゼロからプラスにする⁠⁠、そして困っている課題を解決する「マイナスからゼロあるいはプラスにする」の2種類があります。つまり、課題を解決することで価値を提供するわけです。

時代の流れでも、技術指向から課題解決指向へ移行しています。⁠作れば売れる」時代から、⁠ものが飽和している」時代へと変わった現在、⁠ないと困る」ものは非常に少なくなっています。今後持つべき意識は、⁠技術ベースのイノベーションではなく、課題解決ベースでのイノベーション」が重要としました。売れるには理由があります。エンジニアがそういう部分を考える時代なのです。

人が感じる価値は人それぞれで、実にたくさんあります。本質的な価値を考えることが重要です
人が感じる価値は人それぞれで、実にたくさんあります。本質的な価値を考えることが重要です

エンジニアが持つべき心構えとは?

UX(User Experience:ユーザ体験)とUIについても説明を行いました。UXとは「利用者が受ける価値」のことで、たとえばAmazonではWebサービスと物流を合わせて提供していますが、一番の価値は注文したその日や翌日に商品が届くということです。つまり、利用者が感じる価値はネットサービス内とは限らないわけです。また、UIはいくつかのUX要素(価値)を提供するためのひとつの手段であり、SI系の要求分析段階での非機能要求に含まれているケースも多くあります。

大事なことは、⁠マニュアルを見なくても使える」あるいは「少し教われば使える」ということであり、重要なことは見た目じゃない部分なのです。これまで重要視されていなかったことですが、使えば使うほど価値基準が変わるため、UXを考慮したUIは大事であるといいます。ただし、⁠本質的な価値」を提供している前提であると強調しました。自分が今まで使い続けているサービスとその理由、また、以前は使っていたけど今は使っていないサービスとその理由を考えてみることがヒントであるとしました。

続いて中田氏は、⁠エンジニアが持つべき心構えとは?」として、エンジニアが扱っている技術って何なのだろうと問いかけます。技術とは、課題を解決するための手段、道具に過ぎません。作るものによって道具を使い分けることは当然ですし、より便利な道具があれば、それを使います。また、適切な道具がなければ自分で作ったり、既存の道具をチューニングして使います。まさに「技術」と同様のことなのです。

さらに、現在は「技術を創る」時代から「技術で造る」時代へと変わったと中田氏は言います。⁠創る」には初めて作り出す、生み出すといった意味があり、⁠造る」には材料を組み合わせて作り上げるといった意味があります。新しい技術は壁に当たって初めて生まれてくるもので、問題に直面せずには生まれてきません。課題解決指向で行くべきとしました、どんな課題を解決するのか、どんな価値を提供するのかが、非常に大事なのです。最後に中田氏は、これからはエンジニアがサービスやビジネスを考え、実践する時代であるとして、⁠技術を持とう」ではなく「技術力を持とう」と呼びかけました。技術力とは、アイデアと技術(道具)を用いて価値を生み出す人の能力であるとして、セッションを締めくくりました。

どんな課題を解決するのか、どんな価値を提供するのかが、非常に大事であるとしました
どんな課題を解決するのか、どんな価値を提供するのかが、非常に大事であるとしました

【9月13日開催】

Find your Ability ! forデベロッパ #3
リーンスタートアップ思考でWeb開発を激進させる方法

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