ゲームデザインのミナモト

第4回対戦格闘ゲーム―キャラクターと一体になる爽快感の表現

人間同士が戦うゲーム

はるか昔から、人々は競技を楽しんできました。中でも、人間同士が自身の肉体を武器にして直接戦う格闘技は、非常に古い歴史があります。

一方、ビデオゲームにおいて「対戦格闘」というジャンルは、その初期にはマイナーな存在であり、いろいろなアイデアを試行錯誤してきた結果が現在に活かされています。今回は、対戦格闘ゲームの歴史を振り返りながら、おもしろさのミナモトについて考えてみたいと思います。

古くからあった対戦格闘ゲーム

表示能力に限界がある初期のビデオゲームの中で、1976年に発売された「ヘビーウェイトチャンプ」注1は、人間の形を表示させた画期的なものでした。しかし、ゲーム自体にあまり爽快感がなく、闇雲に殴るだけの単調な内容になってしまい、大ヒットとはなりませんでした。

そのあとも、⁠Boxing」注2や、⁠Swash buckler」注3など、人型のキャラクター同士が戦うゲームが作られていきました。

対戦スタイルの確立

そんな中、アーケードにおいて1984年に多くの格闘ゲームが登場し、人気が高まっていきます。テクノスジャパンによって開発された「空手道」注4は、当初はCPUと戦う1人用ゲームとして登場しましたが、1対1で戦い、勝利すると次の相手へと進行する流れを確立したゲームと言えるでしょう。1984年には、ほかにも、⁠パンチアウト!!」注5⁠、⁠アーバンチャンピオン」注6が登場しています。

この年に格闘ゲームが多く出たのは、ハードの技術向上により格闘の表現がしやすくなったことが一つの理由ですが、当時はカンフー映画やプロレスの人気が高まっていて、海外でも空手をテーマにした映画「ベストキッド」がヒットしたという背景もあったと思います。

さらに1985年には、⁠イーアルカンフー」注7が登場します。このゲームはCPUと戦う1人用ゲームですが、多彩な技を持ったキャラクター、体力を示すゲージ、ジャンプからの攻撃、上下段に分かれたパンチとキックによる攻撃など、そのあとに登場する対戦格闘ゲームの標準的な要素を持っており、これによりスタイルが確立されたと言えるでしょう。

ストIIの衝撃

現在まで続く対戦格闘ゲームというジャンルの代名詞とも言える存在が、1991年に登場した「ストII」こと「ストリートファイターII」注8です。個性溢れるキャラクターやコマンド入力による必殺技など、ストIIの特徴的な要素はいくつかありますが、その多くは前作の「ストリートファイター」注9から引き継がれたものです。初代ストリートファイターは大型の筐体で遊ぶアトラクション的な要素の強いゲームで、強い攻撃を出すためには強くボタンを叩くという豪快なシステムでした。アメリカではヒットして、より多くの人が遊びやすいように、3段階の強さを持ったパンチとキックのボタンを用意したものが続編となるストIIだったのです。

ストIIの魅力はまさに「遊びやすい」ことで、それまでに作られてきた格闘ゲームの要素をうまく折り込みながら、対戦の駆け引きとバランスをうまく調整したことが人気につながったのだと思います。

勝敗のバランス

格闘ゲームのキモとも言える要素が、パンチやキックといった攻撃の気持ち良さです。自分が放った攻撃が相手にヒットして、ダメージを与えた結果有利になることこそがプレイヤーに贈られるご褒美となります。しかし、必ず攻撃がヒットしていてはゲームが成立しません。避けられたりガードされたりといった障壁を乗り越える戦略こそが、喜びを増幅させるのです。

ストリートファイターは、プレイヤー同士でも対戦できる形にすることで、駆け引きをわかりやすく提示したゲームと言えるでしょう。

格闘ゲームはある意味、レスポンスが直接的でシンプルなゲームです。攻撃ボタンを押した結果がすぐに反映されるため、全体のルールがわかりやすく、最初のうちはある程度ボタンを押していれば敵に勝ってしまうことも少なくありません。こういった初めて遊ぶ人でも楽しめる敷居の低さも、新しいユーザ層に広がった要因の一つではないでしょうか。

システムの進化

対戦ではありませんが、格闘に関する要素は、⁠熱血硬派くにおくん」注10にさかのぼります。このときすでに、連続した攻撃、投げ技、気絶などの要素が入っていました。対戦格闘ゲームは、それまでに進化してきた格闘アクションの要素をうまく取り入れつつ、よりシンプルな形にまとめた集大成とも言えるでしょう。

ストII以後に進化してきたものは、大きなサイズでダイナミックなアクションを演じるキャラクターとその必殺技です。キャラクターを緻密に描き、強力な技を繰り出すことで、よりプレイヤーにとって魅力ある世界を作り出しています。そのあとは、ポリゴンを使用した「バーチャファイター」注11⁠、⁠鉄拳」注12といった3D表現による対戦格闘ゲームが登場し、表現の幅は急速に広がっていきました。3D格闘ゲームの先駆者であるバーチャファイターシリーズは、ダイナミックな視点とシンプルな操作系により、それまでにない新しい対戦格闘ゲームの世界を開拓したと言えるでしょう。

現在では標準的なシステムになっているレバーとボタンによるコマンド入力は、ストリートファイターでは隠しコマンド的な要素として導入され、ストII以降に広く採用されるようになりました。コマンドの複雑さによって技を出す難易度を変えられたり、入力中に隙ができるなど格闘ゲームにマッチした発明だと思います。

ストIIのヒットにより、対戦のシステムもさまざまなものが考案されました。1対1の格闘という中で、どうすれば爽快で飽きさせない展開になるかを、多くのメーカーが試行錯誤していたのです。特にSNK(現・SNKプレイモア)は早い段階から対戦格闘ゲームを製作し、ブームを牽引していきました。中でも「ザ・キング・オブ・ファイターズ」注13は、3対3のチーム制バトルや大量のキャラクターが登場するなどインパクトのある内容でした。

一方でストIIは、1994年の「スーパーストリートファイターII X」注14でさらに強力な必殺技を出すスーパーコンボを導入。⁠ストリートファイターIII」注15ではタイミング良くレバー入力することにより敵の攻撃をさばくことのできるブロッキングという概念が導入されています。

対戦格闘を作る

ストIIの流れを汲む最新の「SUPER STREET FIGHTER IV ARCADE EDITION」注16図1では、相手の攻撃を一度だけ防ぐことができ、かつ反撃を行えるセービングアタックを導入し、さらに奥深い駆け引きが生まれました。

図1 SUPER STREET FIGHTER IV ARCADE EDITION
図1 SUPER STREET FIGHTER IV ARCADE EDITION
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一方、現在の対戦格闘ゲームは成熟したジャンルになっており、大量のキャラクターの登場、複雑化したシステムなどマニア向けに先鋭化する傾向があります。その結果独自性を出しにくくなり、逆にマニアの支持を得られないという悪循環に陥っていました。そんな中で、⁠MELTYBLOOD」注17のように、あえてマニアに受け入れられる要素を突き詰め人気を獲得する例も出ています。

先に言ったように、格闘ゲームの持つ魅力は誰でも楽しめて爽快感があるという点だと思います。新しいおもしろさを持った独自のシステムに挑戦してみてはいかがでしょうか? それではまた次回まで。

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