ゲームデザインのミナモト

最終回 シューティングゲーム―本能的な楽しさと様式美の追及

古くからある定番のジャンル

ゲーム誕生初期から現在まで、非常に多くの作品が作られてきた定番ジャンル、それがシューティングゲームです。弾を発射するという行為や、対象を狙い破壊するというわかりやすさが根源的な楽しみを提供していると言えます。今回は、その中でも深い歴史を持つ2Dのシューティングを取り上げます。

初期のアーケードゲームで見られたシューティングは、戦いや戦争をテーマにしたものが多く、お金を入れると一定時間だけ遊べて、その間に得られるスコアを競うという時間制のものがほとんどでした。これは、まだソフトウェアではなく電子回路によりゲームが作られていたため、複雑な処理ができなかったことに起因します。敵を動かすことも難しいため、⁠Tank」注1や、⁠ウエスタンガン」注2といったタイトルに代表される2人で対戦するスタイルが一般的でした。

2D表現の時代

シューティングゲームがメインのジャンルに踊り出るのは、ソフトウェアによりゲームが作られるようになる1970年代後半からです。その代表的なタイトルが、当時国内で大ブームを巻き起こした「スペースインベーダー」注3写真1、2です。ゲームセンターの爆発的な増加をもたらし、ビデオゲーム産業の基礎を築いたと言っても過言ではありません。しかし、その内容があまりに異質だったため、発売当初はヒットを誰も予想していませんでした。

写真1 ⁠スペースインベーダー」のゲーム画面。それまでのゲームにはない、戦略や奥深さを持つアイデアが詰まっていた
写真1 「スペースインベーダー」のゲーム画面。それまでのゲームにはない、戦略や奥深さを持つアイデアが詰まっていた
©TAITO CORPORATION 1978 ALL RIGHTS RESERVED.
写真2 1978年ごろの当時の模様。⁠インベーダーハウス」と呼ばれるスペースインベーダーのみを置くゲームセンターが各地にでき、社会現象にまでなった
写真2 1978年ごろの当時の模様。「インベーダーハウス」と呼ばれるスペースインベーダーのみを置くゲームセンターが各地にでき、社会現象にまでなった
©TAITO CORPORATION 1978 ALL RIGHTS RESERVED.

それまでは、敵の動きに合わせてタイミング良く弾を撃ったり、避けることが中心だったのに対して、スペースインベーダーは能動的に自機を移動させて敵を狙い撃つことができる自由度の高いものだったのです。これを契機に、画面下を自機が左右に移動して、画面上の敵にミサイルを発射するというシューティングのスタイルが一般的になりました。

日本で生まれたスペースインベーダーは世界中に輸出され、大ヒットとなりました。その後登場した「ギャラクシアン」注4は、敵の飛行パターンなど細かい動きにもこだわった画期的なビジュアルを誇っており、その電子回路技術は、ビデオゲーム基板の標準として後の作品に大きな影響を与えました。

こうしたヒットにより、日本製シューティングの様式が世界中を席巻することになります。

王道を行く縦スクロール

1980年代のアーケードで、日本が世界で優位に立った理由の1つは、ハードウェアにあります。スプライトと呼ばれる技術により平面の画像を高速に美しく描画できたのです。当時、アーケードはPCと比較しても格段にきれいな映像表現ができていました。こうしたビジュアル面も含めた一つの到達点が、1983年の「ゼビウス」です。ゆっくりとスクロールしながら進む背景の上で地上と空中の敵を撃破するという内容は、縦スクロールシューティングの基礎を確立しました。

背景がスクロールするゲーム自体は、⁠Avenger」注5「Bomber」注6など1970年代から存在していました。しかし、それらが同じ背景の繰り返しだったのに対して、ゼビウスはその世界観とともに、ステージが進むと現れる謎に包まれた新たな背景がプレイヤーの好奇心を刺激しました。また、プレイヤーの動きに応じて回避を行うといったリアルな敵の動きも、当時としては珍しいものでした。

このような縦スクロールのシューティングは、その後多くのメーカーが追従しました。特に本能的な楽しさを追求していた「タイガーヘリ」⁠究極タイガー」注7といったタイトルや、誰にでも楽しめるバランスで、後に家庭用ゲーム機にも登場した「スターフォース」注8などのヒット作が次々に生まれました。1980年代は、多くの人がシューティングに熱狂した時代であり、その中で急速に進化したジャンルと言えるでしょう。

横方向など縦以外にスクロールするゲームも作られ、後にヒット作も生まれましたが、全体として主流にはなりませんでした。これは、人の視線移動の特性で縦のほうが状況把握がしやすいためとも言われており、今でも縦方向を好むプレイヤーは多くいます。

全方向への攻撃

日本がキャラクター表現(いわゆるドット絵)など、2Dシューティングの様式美を追求していたのに対して、海外、特にアメリカでは異なるアプローチで進化しました。より迫力のある3D視点や、自由度の高い攻撃や移動などを模索したのです。世界初のアーケードゲームである「コンピュータースペース」注9といったゲームも、自機が回転しどの方向にも自由に進むことができ、攻撃も全方向に行えるというスタイルを取っていました。自由度が高い代わりに難易度も高く、内容も大味になりがちな海外のゲームに対して、限られた操作の中で最大限のおもしろさとビジュアルを極めようとする日本製ゲームの対比がおもしろいところです。

 アメリカではそのあとも全方向の攻撃が主流となっていて、「ロボトロン2084」[10]というゲームによって考案された、左スティックでプレイヤーの移動、右スティックを倒した方向に攻撃という直感的な操作が1つのスタンダードになっています。近年でも、「Geometry Wars」[11]をはじめとして同様の操作方法を持つ全方向シューティングは少なくありません。

パワーアップの快感

シューティングの歴史は、いかにプレイヤーに快感を与えるかという命題に取り組んだ道のりでもあります。初期には、プレイヤーが発射できる弾は単発、つまり画面内に1発のみでした。敵を狙ってうまく当てることがゲーム性だったのです。やがて、当てることよりも破壊すること、全滅させることに主眼が置かれるようになり、連射可能な弾や、一度に複数を破壊できる武器などに取って代わりました。

この流れをいち早く取り入れたのが「ムーンクレスタ」注12でした。このゲームは、最初は単発の自機でスタートしますが、ストックされている自機と合体して連射できる機体へとパワーアップします。それまでしっかり狙わなければ倒せなかった敵を簡単に倒せることが大きな快感につながる画期的な要素でした。また、敵は弾を撃たず体当たりをしてくるだけなので、倒すことに集中できる点もユニークでした。

そのあともいろいろなアイデアとともにパワーアップ要素が導入されていきます。今や横スクロールシューティングの定番となっている「グラディウス」注13は、プレイヤーの分身であるオプションやレーザーなどの新しい要素を取り入れたゲームです。さらに特徴的な要素として、パワーアップカプセルを取った数に応じてパワーアップする内容が変化し、ボタンで決定するという選択式のパワーアップを考案しました。

また、ボタンを押し続けることで強い弾が発射できる「溜め撃ち」という要素や、自機から分離できるフォースから弾が発射されるというユニークな特徴を持った「R-TYPE」注14も非凡なアイデアを持つゲームでした。

弾幕という進化

スペースインベーダーから30年以上が経った現在、2Dシューティングゲームは先鋭化したジャンルとして進化を続けています。

1997年に登場した「怒首領蜂(どどんぱち⁠注15から顕著になる「弾幕シューティング」と呼ばれる方向性は、様式美を突き詰めた1つの答えになっています。敵が大量に弾を発射してくるのですが、速度が遅く、自機の当たり判定が非常に小さいこともあり避けることができるのが弾幕シューティングの持つ特徴です。敵を全滅させる快感の追求が進んだ結果、進化が行き詰まり、逆に「避ける」ことに主眼が移ってきたのは興味深いことです。

シューティングには熱狂的なファンが現在も多く存在し、アマチュアベースでクオリティの高い作品が作られることもあります。同人作品として人気の「東方Project」注16も、こうした流れを継いで進化する1つの形であると考えられます。長い歴史を持つシューティングというジャンルは、まだ多くの熱い視線が注がれています。

1年に渡って続けてきた「ゲームデザインのミナモト」は今回で最後となりました。人々の心に残るゲーム、時代を動かしたゲームは今でも通用するアイデアを多く持っています。これからも、そうした作品を、さまざまな形で広く紹介していければと思っています。本連載を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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