情報推薦システムの基本

第1回推薦システムが求められる背景

はじめに

今回から全11回の予定で、情報推薦システムの入門という題目で連載させていただくことになりました。連載は株式会社Gunosyの福島、関、吉田が連載ごとに担当します。よろしくお願いします。

近年、ビッグデータやデータサイエンティストといった言葉が巷を賑わせています。筆者自身は、これらの言葉はバズワードであり、盛り上がり過ぎていると冷静に見ています。一方で、Gunosyというサービスを提供する側としては、以下の2点について非常に重要な課題であると思っています。

  • データの分析結果を中心にした意思決定をどうやって組織に組み込んでいくか
  • 大量で非構造なデータの解析結果をどうやってユーザの満足度の向上に反映させるか

そしてデータ解析の有力な応用先といった文脈で、情報推薦システムへの注目が大きくなっていると筆者は感じています(それが少々過大にも思えるほど⁠⁠。

本連載では、情報推薦システムとはどういったフレームで作られているのか、また、どういう前提のもと何をしているのかといった部分をなるべくわかりやすく紹介します。今回寄稿することで、情報推薦システムをみなさんが過大でも過小でもない、ありのままの姿で評価できるようになれば良いと思っています。その上で、推薦システムに興味がある、作ってみたいけどそもそも何から手を付けていいかわからない、というエンジニアの方への足がかりになれば幸いです。

対象とする読者は、上記の通り「推薦システムに興味があるが何から手を付けていいかわからないエンジニア」の方です。そのためなるべく数式は使わず、文書や図による直感的な説明やコードを用いて説明することで頭に入ってきやすい連載を心がけるつもりです。

まず、第一回目の連載では、どういった背景で推薦システムが重要になっているかについて述べていきたいと思います。

推薦システムが注目を浴びている要因の1つは、すでに多くの場所で語られているとおり、Webコンテンツの量が加速度的に増加していることが挙げられます。その中でも、筆者は増え方の性質が大きく変化したことに注目しています。

コンテンツの拡がり方の変化

まず今までのWebの歴史を紐解いていきます。Web1.0とされる時代には、既存の企業が自社のホームページを持つようになりました。その後のWeb2.0ではCGM(Consumer Generated Media)といわれるユーザ参加型のWebサイトが増えました。Web1.0から2.0への変化においてコンテンツの増え方は限定的でしたし、またその性質も、コンテンツを作るのが企業なのかユーザなのかの違いが主であり、コンテンツの増加速度が増えたという変化にすぎませんでした。

現在はソーシャルの時代です。ソーシャルの時代では、コンテンツが再利用されることが1つの特徴です。バズるという言葉がその象徴です。

ソーシャルの時代が来る前は、コンテンツが拡がるには、ポータルサイトに掲載されるか、検索エンジンで上位に表示されるかという一部の方法で決まっていたと思います。この方法がソーシャル時代を迎え、ユーザ自らがコンテンツの媒介者として機能するようになり、コンテンツの拡がる方法は大きく変化しました。Web1.0から2.0への変化がコンテンツの生産者が企業からユーザに移った変化とするならば、ソーシャルの時代ではコンテンツを媒介して拡散するパワーが企業からユーザに移った変化と言えるのではないでしょうか。

コンテンツの消費のされ方の変化

ユーザがコンテンツを媒介する行為は、コンテンツを生成することよりもハードルが低いため、多くの人が参加しているように思えます。そのため私達が触れる情報量は今までにもまして加速度的に増加しています。コンテンツを媒介するパワーがユーザに移ったことにより、コンテンツの消費のされかたは、サイト単位(ユーザ参加型サイト)からページ単位になりました。のため、1つのサイトにユーザを粘着させ続ける(滞在時間を長くしたり、サイト内の他のコンテンツを閲覧したり)のが難しくなっていると言えます。

それでも、なんとかしてWebサイトにユーザを粘着させたいという企業は多いと思います。その解決策の1つが、推薦システムを利用して「ユーザにカスタマイズしたコンテンツを提供」することなのです。コンテンツ過多の時代に、少しでも自社のWebコンテンツに触れてほしいという企業の期待が、推薦システムが注目される背景にあると思います。

図1 Webの変化
画像

スマートフォンの普及

加えて筆者はもうひとつ大きな背景があると思います。それはスマートフォンの普及です。 スマートフォンは画面の小さなPCです。今までのWebサービスはPCの一覧性の高さやブラウジングのしやすさを利用し、画面の中にコンテンツを詰め込むといったアプローチが主流だったように思います。しかし、スマートフォンはお世辞にも一覧性が高いとはいえず、ブラウジングはPCほど快適にできません。ですので、スマートフォン向けのコンテンツは、ユーザが最初に目に触れる部分の重要性がかつてないほど高いと言えます。Gunosyでいうならば最初の3記事にどれだけユーザの興味をひくような記事を出せるかが勝負になってくるわけです。

このようにデバイスがPCからスマートフォンへ移行したことで、コンテンツの配置のしかた、圧縮のしかたが非常に重要になってきており、その解決策の1つとして推薦システム技術は大きな注目をあびるのではないか、と筆者は考えています。

ここまで情報推薦システムが注目される背景について述べてきました。

第2回はそもそも推薦とは何か、また推薦システムとはそもそもどういった目的で何をするものなのか、を解説していきます。

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