LinuxCon Japan 2014 Preview

#3最終回はNeela Jacques氏にOpenDaylightについて伺いました

アジア地域における最大の Linuxカンファレンス「LinuxCon Japan⁠⁠。5月20日からいよいよ開催となります。過去2回にわたり本イベントのキーパーソンにインタビューをしてきましたが、最終回となる今回はOpenDaylight エグゼクティブディレクター Neela Jacques氏にお話を伺いました。

Q1:OpenDaylight Projectを立ち上げた理由をお聞かせください。
OpenDaylight
エグゼクティブディレクター
Neela Jacques氏
OpenDaylight エグゼクティブディレクター Neela Jacques氏

ネットワークの抽象化は、ソフトウェアデファインド データセンターを実現するための最終段階に当たるものです。ただし、業界はソフトウェアデファインドネットワーク(SDN)が必要であることには同意してますが、その実現方法については合意していません。市場にはさまざまなプロプライエタリコントローラーが出回り、さらに複雑になっています。業界がSDNを成功に導くためには、オープンソースによる共通のSDNプラットフォームを共同開発することが必要です。そこで、OpenDaylight Projectを立ち上げたのです。技術革新を加速し、SDNを実現するために、競合企業にとって中立な場所を作るのが目的でした。技術的な議論やコードでネットワーク概念を覆そうと、ライバル関係を抜きにして協力し合えるような大きなプロジェクトはほかにないでしょう。これは素晴らしいことです。

Q2:すでに多くの企業がSDNに取り組み、OpenFlowコントローラーをはじめとするさまざまな製品も紹介されていますが、OpenDaylightの提案する価値はそれらとどのように異なるのですか?

私から見て、OpenDaylightがほかのSDNオプションと明らかに異なっている点は2つあります。第1点は、Service Abstraction Layer(SAL:サービス抽象化レイヤ)の存在です。ほとんどの人は1種類の実装や技術を選択して特定の問題を解決しています。OpenDaylightは、エンドユーザーのさまざまな課題に適応するために作られています。OpenDaylightのコントローラーの心臓部分にはSALがありますが、このSALの存在により、現存するさまざまなサウスバウンドプロトコルにも、それ以外のプロトコルにも対応することができます。その概念を実証した良い例(PoC:proof-of-concept)がCableLabsです。OpenDaylightが生まれる以前、CableLabsは業界全体の問題を解決しようとしていましたが、そのためにはケーブルモデムの世界をまるごと変える以外にないと考えていました。OpenDaylightの出現によってCableLabsが実現できたのが、既存のプロトコルとSALの間にプラグインを作ることでした。

OpenDaylightが提供する第2の大きな価値は、そのプラットフォーム全体のオープン性です。OpFlexやグループリポジトリのような新しいプロトコルでも、人々はOpenDaylightが提供するプラットフォームで新しいサービスを開発して貢献し合えるため、一から再開発する必要がありません。そのため、これまでにない速さで技術革新が進みます。

Q3:どういった企業がOpenDaylightユーザーになりそうですか?また、OpenDaylightはそうした企業が直面している問題をどう解決すると思われますか?

OpenDaylightにはおもに2つの使用例があります。その1つは、コードを取得して製品に組み込む開発者がいる企業の例です。ネットワークベンダーはこのようにOpenDaylightを使い、あらゆるソリューションを開発しています。また、OpenDaylightを利用することでベンダーは製品化時間を短縮でき、しかも製品に独自の機能を持たせて差別化を図ることができます。

このほか、企業が当初はPoCの一環としてOpenDaylightを自社環境で使用し、SDNの概念とコンポーネントを評価したり学習したりする例もあります。そして最終的にこれらのPoCが企業の基盤に採用されます。また、Twitterがraw Linuxを使用するのと同じようにDevOpsがOpenDaylightコードを導入する場合もあります。あるいは、OpenDaylightコードを組み込んだベンダーのソリューションを導入する企業もあるでしょう。

Q4:OpenDaylight Projectには、BROCADE、Cisco、IBM、Microsoftなどさまざまな企業がメンバーとして参加していますが、彼らはこのプロジェクトに何を期待しているのでしょうか?

業界はSDNプラットフォームを心待ちにしています。有力なプラットフォームが現れれば、エコシステムが受ける利益は多大なものになります。しかし、エンドユーザーの社会にある恐れ、不信、疑念などは採用のネックになります。したがって、業界はユーザーが安心してすぐに利用できる中立なプラットフォームを渇望しているのです。そこで、共通のSDNプラットフォームを開発すれば、SDNの強力な採用を牽引し、ユーザーが補完製品を発売する絶好の機会を提供することができます。

Q5:SDNは市場で大変期待されている最新開発技術であり、プロジェクトの参加企業のモチベーションもそれぞれ異なります。そうしたことを考慮すると、プロジェクトの運営は非常に難しいと思われます。たとえば、プロジェクトメンバー間の異なる見識の調整などもあるでしょう。どのようにプロジェクトを管理しているのでしょうか?

オープンソースプロジェクトで最も大切なことは、活気に満ちたコミュニティであることです。私の第一、第二、そして第三の優先事項は、コミュニティを育てることです。私の意見や構想をプロジェクトに押し付けるより、優秀な人々を見定めて1か所に集め、目前の課題に取り組んでもらうことが大切だと確信しています。これがオープンソースの取り組み方ですが、はっきり言って私の経験では、優れた企業のやり方も同じです。多様性はより良い決定を生み、熱意ある人々をより多く牽引します。私が常々人々に呼びかけていることがあります。それは、異なる見識を持つ協力者を見つけること、そして新プロジェクトを提案する際には複数の企業と連携し合うことです。幸いなことに私たちのコミュニティは多様性に富んでいて、ネットワーク分野、スタートアップ企業、大学など、世界を代表する大手組織に所属する開発者で構成されています。

私たちは、OpenDaylightの中で業界の主要な議論を進めていこうと考えています。そこではしばしば大きな論争が起こり、課題が持ち上がります。大切なのは、常に「どうすれば確実に、誰もが建設的に、常に解決や共存の道を見つけることができるか?」です。OpenDaylightは、個人間の関係構築を促進することには大いに投資しますが、私たちの価値観を損なう行動は容認しません。確実に各人が基本的に信頼関係を構築し、互いに尊敬し合っていることが重要です。そのために、ミーティングを(常にオープンに)開いたり、イベントを開催したりして確認し合っています。

Q6:OpenDaylight Projectはこの2月にHydrogenをリリースしましたが、この開発にあたって苦労したことはありましたか?今後予定されているプロジェクトについてもお知らせください。

OpenDaylightは2013年に発足し、10か月後に最初のオープンソースソフトウェアコード基盤を公開しました。あまりにも進行が速く、恐るべきスケジュールです。実際、外部の人々の多くは、それほど多様性のあるコミュニティや技術群をそんなに短期間にまとめられるのか、疑問を呈していました。予想どおり、さまざまなサブプロジェクトを繋ぎ合わせるのは難しく、もちろんテストや実装では困難なことがありました。しかしコミュニティは素晴らしく団結していました。たとえばEricssonは貴重なテスト要員を増員し強化してくれましたし、開発者らはみな、クリティカルなリリース期限に向けて全速力でサポートしてくれました。その作業経験がさらに強固な信頼関係を生み、コミュニティの連帯感を高めました。

OpenDaylightの次のリリース、通称Heliumは、今年の秋に公開される予定です。進行状況はこちらで確認できます。

Q7:SDNが普及すると、ネットワークエンジニアの役割や作業内容はどのように影響すると見ていますか?

SDNは確かにネットワークエンジニアの役割を阻害しますが、質問は「どのように」ですね。ある意味で、仮想化やクラウドは人間によって行われていた作業を自動化するため、本質的に破壊的なものです。同じように、多くの反復的な手作業はSDNによって消滅します。基本的に多くのプロセスを自動化することにより、SDNやクラウドは、その基盤やネットワーク環境全体の変化速度を大幅に高めることができます。したがってネットワークやITは企業にとってさらに重要になり、その基盤を導入、管理、トラブルシュートできる人々には、新たな機会が生まれます。

やがて、より高度なスキルを必要とするさまざまな業務が誕生するため、人々はネットワークについて、また、ネットワークと他の基盤要素との相互作用について、さらに広く理解する必要があるでしょう。かつては、管理者は必要なくなるだろうと言われましたが、今はネットワークプログラマーも必要なくなると言われています。これは正しいとは思いません。私たちが必要としているのは、知識豊富でクリエイティブで、1つの変化や決定が広い環境にどのような影響を与えるかをイメージできる人々です。

Q8:LinuxCon/CloudOpen Japanではどのような内容の発表を行う予定ですか?

議論したいことは、ソフトウェアデファインドデータセンターを実現する上で直面する大きな課題です。⁠SDNやNFV(Network Functions Virtualization:ネットワーク機能仮想化)採用のためにネットワーキングが進むべき道は何か⁠⁠、および「最も困難なネットワーク課題の克服に必要なイノベーションを加速化するためにオープンソースはどのような役割を演じるか」です。イベントで参加者の意見を聞き、皆さんの思いを理解したいと思います。また基調講演では、重要なニュースやプロジェクトの動向などを初めて発表したいと思っています。

Q9:NECと富士通がプロジェクトメンバーになり、日本でのSDNの期待も高まっています。プロジェクトの運営や今後の開発に関して、今後日本の企業やユーザーに期待することは何ですか?

日本は世界でも最も高度な通信市場を誇り、IT産業は他の分野に比べてはるかに巨大な構成要素です。日本はSDNが最初に普及する国の1つとなり、OpenDaylightの重要な市場になる可能性があります。

OpenDaylightロゴ
OpenDaylightロゴ

富士通、Midokura、NECなど、日本の開発者やメンバーがOpenDaylightに参加しているのは素晴らしいことです。彼らは市場の特殊なニーズを深く理解していて、コミュニティの成長に不可欠な大いなる多様性をプロジェクトにもたらすことができます。日本のOpenDaylight User Group(ODLUG)のようすも覗きたいので、日本のコミュニティと協力し合う時間を存分にとりたいと思っています。参加や指導に興味のある方は、電子メールかTwitterで連絡してください。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧