eラーニングシステム Moodleの活用とカスタマイズ

第1回Moodle(ムードル)とは

Moodleは、オンラインで授業を行うために開発されたシステムですが、ユーザ管理の機能がしっかりしており、また、さまざまな機能が備わっているので、いろんな用途に応用が可能です。プラグインが多数公開されており、独自プラグインの開発が容易なことも魅力です。

最近、Moodleによるeラーニングシステムの構築と運用という書籍が発売されました。これは、Moodleの使い方、管理の仕方を詳しく説明した書籍です。この書籍では説明されていない、

  • Moodleに日本語環境をセットアップする際の注意点
  • 最新バージョンでの機能
  • カスタマイズ、独自機能の開発

などの内容を、この連載では取り上げます。

今回は初回ですので、Moodleというのはどのようなものか、どのような用途に使えるかを簡単に説明します。

Moodleってなに?

Moodle(ムードル)は、GNU GPL(General Public License)の下で配布されているオープンソースLMS(Learning Management System)です。LMSとは、学習運営システム(または学習管理システム)とでもいうべきもので、インターネットを利用した学習・教育を実施する場合に、中核となるシステムです。Moodleはオーストラリアのパース在住のMartin Dougiamas(マーチン ドウギアマス)氏を中心としてMoodle Headquartersとコミュニティで開発および保守が行われています。

Moodleの最大の特徴は、そのコミュニティの規模が大きいことです。世界中に多くのユーザと開発者がいて、大変活発に意見交換や共同開発が行われています。公式サイトもMoodleを用いて構築されています。

図1 moodle.orgのトップページ
図1 moodle.orgのトップページ

公式サイトへの登録ユーザ数は800,000人以上であり、公式サイト自体がMoodle利用サイトの代表格と言っていいでしょう。また、公式サイトで存在を把握したMoodleサイトが約40,000サイトあります。操作画面の言語は80言語に対応しており、200カ国以上で使用実績があるそうです(これらは、2009年12月時点でのデータ⁠⁠。日本においても、Moodleは大学や高専から広がり始め、今では多くの場所で利用されています。

Moodleで何ができるの?

Moodleに備わっている機能のうち、主なものを紹介します。Moodleでは、まず「コース」⁠1科目に相当する領域)を作り、その中に「リソース」「活動」と呼ばれるものを設置します。主な「リソース」「活動」などについて以下で説明します。

なお、Moodleに、学生権限でログインした場合、教師権限でログインした場合、管理者権限でログインした場合では、それぞれ使える機能が異なり、同じ機能であっても画面表示が違います。

小テスト

Moodleの小テストは、自動採点されます。学習者が小テストを受験し答案を提出すると、Moodleによって自動採点された結果が学習者に提示されます。答案提出の直後に正誤や成績が表示され、正答に関するヒント(フィードバック)を示すこともできます。

Moodleでは、多肢選択問題、記述問題、数値問題、穴埋め問題、計算問題、組み合わせ問題など、さまざまな形式の小テストを出題することができます。また、問題バンク(多数の問題を集めたもの)からランダムに一定数の問題を出題する機能もあります。

問題の作成はもちろんMoodle上で可能で、問題作成画面上で必要な情報を入れると、次のような問題が簡単に作成できます。

図2 Moodleの小テスト問題の例
図2 Moodleの小テスト問題の例

また、XML形式等でMoodle以外で別途作成した問題データを読み込むこともできるようになっています。

対象とする学習者に適したレベルの問題を出題すること、答案に対する適切なフィードバック(ヒントや関連事項の説明)を設定すること、カジュアルな怠慢行為の防止策(問題がランダムに出題されて他人の答案の丸写しでは正解にならないなど)に留意すれば、問題を解くことで苦手な箇所を自分で効果的に把握して学ぶための自習用テストを小テスト機能で提供することができます。

教員は、学習者(=一般ユーザ)の答案や成績の履歴を見ることができます。

図3 小テスト受験結果の一覧
図3 小テスト受験結果の一覧

この受験結果の情報で、学習者がどこまで理解しているか、どの問題が苦手かなどを把握できます。

教材ページ作成・公開

Webサーバへのアップロード方法やHTML等についての知識がなくても、簡単に教材ページを作成・公開できます。

htmlAreaというJavaScriptベースのGUIのHTMLエディタを採用していて、ブラウザ上でワープロ的に手軽にウェブページを作成・編集できます。

プレインテキスト形式でのページ作成や、Moodleオートフォーマットという簡易形式(プレインテキスト+一部のHTMLタグ)でのページ作成も可能です。ファイルをアップロードしてリンクを設置することも簡単にできます。

どのユーザがどのページをいつ見たかの記録が残り、その記録を検索することもできます。

フォーラム

Moodleの「フォーラム」は、一般にBBSや掲示板と呼ばれるものと同じ機能をもっています。

図4 フォーラムの例
図4 フォーラムの例

学習者の書き込みに対して教員が評価点をつける機能もあります。また、書き込み内容がメールで参加者に転送される機能もあり、それがMoodleサイトへのログインを促して議論の活性化にも役立ちます。

課題

いわゆるレポート提出に相当するもので、文章の書き込みやファイルのアップロードにより、解答を提出する機能です。電子メールの添付ファイルで提出する方法に比べ、教員にとっては、提出期限がシステム上で設定でき、提出状況画面で未提出者が一目で分かるなど効率的に収集・管理できます。レポート提出者にとっても、自分のさまざまな提出物が散逸せずに一箇所に保存しておけるメリットがあります。

成績表の管理

Moodleには「評定」と呼ばれる、成績表の管理機能があります。

以上に説明した様々な「活動」⁠小テスト、フォーラム、課題など)の各成績や、成績合計を見ることができます。また、新しいカラムを別途作成して、任意の数値を入力することもできます。数値の入力だけでなく、計算式を入力して、複雑な計算をさせることもできます。計算式にはmax()、round()、sqrt()などの関数も含めることができます。

図5 評定画面の例
図5 評定画面の例

その他

これ以外にも、チャット、メッセージ送信、レッスン、投票、用語集、Wikiなど、さまざまな便利な機能が標準機能として揃っています。

標準機能以外にも、世界中の開発者が独自に開発した多数のモジュール・プラグインが公開されていて、追加インストールすることで誰でも自由にその機能を使用することができます。

図6 Moodle本家サイトの追加モジュール・プラグイン公開ページ
図6 Moodle本家サイトの追加モジュール・プラグイン公開ページ

独自機能を開発して追加する

Moodleのコードを一部改変して使いやすくしたり、自分で独自モジュールを開発して機能追加することも手軽にできます。オープンソースであり、かつPHPで書かれていることの強みと言えるでしょう。本連載では、いくつかの具体例を挙げて独自機能の追加方法について説明する予定です。

Moodleって何に使えるの?

Moodleは元々、学校の授業で利用することを念頭に置いた設計になっています。

従来の講義室で一方的に先生から学生へ情報が伝達されるタイプの授業は、今の時代にはそぐわず、それだけで教育を行うのは、もう限界が来ているとも感じられます。学生が自律的に学ぶ、また、学生同士でみんなで一緒に学ぶタイプの活動をうまく取り入れていくことに Moodleは活用できます。

また、Moodleの用途は学校の授業だけに限らず、実際にはさまざまなことに便利に利用できます。会社などの研修に利用できるのはもちろん、教えあい、学びあう場であれば、多くの場面で活用する価値があると思います。

具体例としては、

  • 特定のアプリケーションソフトの使い方を教えあうユーザグループのサイトTeXのフォーラムページではMoodleが使われています)
  • 学校の卒業生の同窓会サイト
  • サークル活動の運営をサポートするサイト

など、いろいろ考えられます。

特に、各ユーザがコンテンツを見たかどうかを確認、どれくらいの活動をしているかを知るとか、みんなに知ってほしい事項を提示し、知らない人が誰かを確かめる、各ユーザが提出すべきファイルを集約するなど、Moodleの特徴的な機能を生かすことができる用途にはぴったりきます。

次回は、日本語サイトを構築する際の注意について説明する予定です。

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