この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。
[MySQL]2022年1月の主な出来事
2022年1月のMySQLの製品リリースは、MySQLサーバー8.0.28、5.7.37の各マイナーバージョンをはじめ、MySQL NDB Clusterや各種Connector, MySQL Shell, MySQL Workbenchなどのクライアントプログラムの商用版、およびコミュニティ版のほぼ全ての製品のマイナーバージョンアップ が行われました。MySQLのマネージドサービスMySQL Database Serviceのイメージも8.0.28にアップデー トされています。MySQL Database Serviceのクエリ・アクセラレータであるHeatWaveのバージョンは8.0.28になっていますが細かなバグ修正のみで機能追加はありません。
MySQL 8.0.28リリース
MySQL 8.0.28と5.7.37のリリースに際して重要な注意点が2つあります。
1点目は、APTやYUMでMySQLの公式レポジトリrepo.mysql.comを利用してのインストールを行ったMySQLを、8.0.28や5.7.37にバージョンアップする際にエラーが発生する場合がある問題です。MySQLのダウンロードパッケージの署名のGnuPGキーが2021年12月に更新されたため、公式レポジトリを使用してのMySQL 8.0.28や5.7.37へのバージョンアップ時に鍵の検証エラーとなります。バージョンアップ前にレポジトリ情報の再インストール か新しい公開鍵の鍵束(keyring)への追加が必要です。詳しくはMySQL 8.0.28のリリースノートの"Packaging Notes"の項目 を参照してください。PGP公開鍵はpgp.mit.edu で公開されているほか、MySQL 8.0のリファレンスマニュアル でもご確認いただけます。
2点目はMySQL 8.0.28のみに関連しますが、システム変数tmp_table_size(デフォルト値:16MB) の設定が「TempTableストレージエンジンを使用した内部一時表 」にも適用されるようになりました。従来はMEMORYストレージエンジンを使用したテーブルのみに適用されていました。GROUP BYの対象データが大きい場合などには、tmp_table_sizeを大きな値に設定しておかないと意図せず内部一時表がストレージ上に作成されて性能に影響が出る可能性があるため注意が必要です。一方でユーザーが明示的に作成する一時表はMEMORYストレージエンジンが使用されており、最大サイズとしてmax_heap_table_sizeの設定が適用される点は従来と変わりません。
なおTempTableストレージエンジンについてはgihyo.jpの連載「MySQL道普請便り」の第129回 Internal Temporary Table(内部テンポラリテーブル)について[その1] および第132回(同テーマの[その2]) をあわせて参照してください。
MySQL 8.0.28の主な新機能や改善点は以下の通りです。
メモリ利用量の監視と上限設定
システム変数global_connection_memory_tracking(デフォルト値:0) が追加され、1に設定するとユーザー接続が利用しているメモリの合計を算出し、ステータス変数Global_connection_memory として確認可能となります。システム変数global_connection_memory_limit(デフォルト値:16EB) とconnection_memory_limit(デフォルト値:16EB) が追加され、それぞれ全ユーザー接続のメモリ利用量の合計とそれぞれのユーザー接続のメモリ利用量の上限が設定できるようになりました。なおこれらの変数の対象にはシステムスレッドやInnoDBのバッファプールの利用分などは含まれません。
スレッド別のCPU利用時間の監視
各スレッドで最新のSQL文実行状況を表示するパフォーマンススキーマのevents_statements_currentテーブル などにCPU_TIME列が追加され、各SQL文が利用したCPU時間が記録され監視に利用できるようになりました。
64bit環境での2038年問題の(一部)解消
FROM_UNIXTIME()、UNIX_TIMESTAMP()、CONVERT_TZ()の3つのSQL関数が64bitバージョンのOSでは64bitの値を扱えるようになったため、最大で'3001-01-18 23:59:59.999999'までの日時を扱えるようになりました。なお32bitのOS上でのこれらの関数およびTIMESTAMPデータ型 は引き続き最大値が'2038-01-19 03:14:07.999999'までとなっておりますのでご注意ください。
TLSv1およびTLSv1.1のプロトコルのサポート廃止
MySQL 8.0.26で非推奨となっていたTLSv1およびTLSv1.1のプロトコルがサポート廃止となりました。MySQLサーバーとクライアントの通信、グループレプリケーションのノード間通信、レプリケーションのノード間通信の全てが対象になり、関連する設定でもこれらのTLSのバージョンは指定できなくなっています。
このほかリグレッションの修正を含む多数のバグ修正が行われておりますので、MySQL 8.0.28のリリースノート をご確認ください。
[PostgreSQL]2022年1月の主な出来事
1月はPostgreSQLのバージョンアップは無く、主要な関連ツールでも目立ったリリースはありませんでした。そこで今回は、PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)主催セミナーのお知らせと、EDB社のセミナーの内容がブログ記事として掲載されていますので紹介します。
2月18日に「データの時代 ―ビジネスへ貢献するデータ管理基盤とは」を開催
例年、PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons) では、春~夏に研究・検証成果を報告する年次の大・成果発表会を行い、冬にテーマ設定されたセミナーイベントを開催しています。今年度の冬のイベントは、データ管理基盤に着目したものを企画しました (connpassの申し込みページ ) 。
企業が提供する価値の源泉として「データ」が重要であるという認識が一般にも普及してきました。今後、データ管理基盤の重要性は更に高まり、データ活用のストーリなど、データ取得、分析、活用、運用するためのトータルデザインも必要になります。そこで、「 データ」の重要性をユーザ企業やシステムインテグレータをはじめとするIT企業に携わる方々に再認識いただくための特別講演と、実際にPostrgeSQLをデータ基盤としてビジネスで活用されている企業へのインタビューによる事例の共有を行ます。
特別講演は東京大学特別教授で国立情報学研究所(NII)所長である喜連川優氏、事例インタビューはPostrgeSQLをデータ基盤としてビジネスで活用されている株式会社EDUCOM様です。
開催日時
2022年2月18日(金)14:00~16:30
配信
Zoomウェビナー(事前登録制)
定員
500名
対象者
PostgreSQLを活用するエンドユーザ、PostgreSQL関連のサービスを提供するシステムインテグレータなど
申込期間
2022年1月24日~2月18日
プログラム
14:00-14:05 開会にあたり
14:05-14:10 PGECons代表の挨拶
14:10-15:10 特別講演 喜連川 優氏
15:10-15:20 休憩
15:20-16:20 エデュコム様 PostgreSQL活用事例インタビュー
16:20-16:25 閉会にあたり
Postgres Build 2021セッションのハイライト
EDB社のブログ記事には、PostgreSQLに関する興味深いものや、先進的な話題が掲載されます。今回紹介するサイトは英語版 ですが、日本語サイト もあります。1月になって、このEDBブログに昨年開催されたPostgres Build 2021 のハイライトが掲載されましたので、いくつかピックアップして紹介します。
チューリング賞を受賞したマイケル・ストーンブレーカー博士による基調講演の要約です。冒頭で、大昔から昨今までのコンピューティング環境の変遷を振り返っています。かつてホストコンピュータでアプリケーションと一緒に稼働していたものが、3層モデルの登場によってアプリケーションとは分離され、現在はクラウドに移行しつつあります。そのクラウド環境でデータベースサーバを稼働させる際に、コスト、柔軟性、セキュリティの3点を考慮事項として示していますが、コストについての博士のコメントが興味深いものでした。「 コストが最も低いプロバイダーが優勢になる『底辺での競争』に巻き込まれないようにする必要がある」と言っています。クラウドサービスを選択する際に価格は重要な要素ですが、たしかに、価格の安さだけに気を取られすぎない様に注意が必要でしょう。
なお、この記事の中で、昨年にEDBが発表したEDB PostgresのマネージドサービスであるBigAnimal について触れられています。現在、BigAnimalはMicrosoft Azure上でのみ提供されていますが、今後はAzure以外の他の選択肢が増えると言っています。この部分はEDBメンバの表明と思いますので、期待して良いでしょう。
EDB社CTOのマーク・リンスター氏の講演要約です。企業ITにクラウドサービスを利用するのは、もはや普通のことになりましたが、「 なぜ企業はクラウドに移行しているのか?」はちゃんと理解しておく必要があると言っています。まずはスピードと敏捷性ですが、その他にもいくつかの主要な理由が挙げられており、クラウド利用が理にかなっていることを確認しています。そして、PostgreSQLをはじめとするOSSが、データベースをクラウドで稼働させるのに一歩先んじている状況を指摘しています。
ただし、クラウドでデータベースを稼働させるにはいくつか選択肢があります。IaaSの仮想マシン、Kubernetesとコンテナ環境、DBaaSを使うという3つの選択肢は、今ではよく知られたパターンでしょう。講演ではこれらの比較検討がされたようですが、結論としてはDBaaSが優れているという判断の様です。DBaaSはクラウドソリューションの主流の考え方に近く、セルフサービス構造やオンデマンドや柔軟性などの点が強化されています。
EDB副社長でありPostgreSQLのエバンジェリストであるブルース・モンジン氏の講演要約です。モンジン氏は何度も来日されて講演されたことがありましたので、ご存知の方も多いでしょう。
この講演ではPostgreSQLに投資する企業が注意すべきハードルについて述べています。プロジェクトの課題、競争上の課題、技術的な課題についてです。
プロジェクトの課題は、多くのOSSプロジェクトに共通の課題です。最近、OSSプロジェクトのリーダーが彼らの製品を放棄する様な出来事がありました。このような場合、企業は将来の持続可能な道としてのOSSプロジェクトに注意する必要があるでしょう。その他にもPostgreSQL採用企業が気をつけるべき課題があります。特許攻撃、ドメインと商標に対するアイデンティティの課題、クラウドベンダーの餓死(突然のサービス停止を意味すると思われます) 。
競争上の課題については割愛します。前述のプロジェクト課題は、OSSプロジェクトに共通する課題でしたが、最後の技術的課題の多くは、PostgreSQLというOSSプロダクトに固有の課題です。モンジン氏はPostgreSQLの重要な技術課題として次の5つを挙げました。Write Amplication(SSD等で実際に書き込んだデータの量よりもフラッシュチップに対する書込量の方が多くなってしまう現象) 、クラスタファイル暗号化/TDE、水平スケーリング、廃止されたツールチェーン、ドラスティックな技術の変化。
ここでは各講演の一部分のみしか紹介できていませんので、関心を持たれたものがあった場合はオリジナルをご参照ください。また、Postgres Build 2021の講演はオンデマンド配信もされているようです。
2022年2月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動
日程
2022年2月18日(金)14:00~16:30
場所
オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容
本編でも紹介しました、PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)による企画セミナーです。東京大学特別教授で国立情報学研究所(NII)所長である喜連川優氏の特別講演、PostrgeSQLをデータ基盤としてビジネスで活用されている株式会社EDUCOM様の事例インタビューです。
主催
PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム
日程
2022年2月2日 ( 水) 12:05~12:45
2022年2月16日 ( 水) 12:05~12:45
場所
オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容
“SELECT * FROM customer WHERE id = 100” は PostgreSQL の中でどのように処理され、どのようにデータを取得し、クライアントに返されるのでしょうか?PostgreSQL の基本的なアーキテクチャ、仕組みや使わている技術を紹介し、 それまでブラックボックスだった PostgreSQL をより明確に理解していきます。
2月2日(水)PostgreSQL入門 ~アーキテクチャ編~では、PostgreSQLのアーキテクチャを中心に解説します。PostgreSQLサーバを構成するプロセス郡や、共有バッファ、テーブル・インデックス等の解説をしながら関連する設定パラメータについても紹介します。
2月16日(水)PostgreSQL入門 ~クエリ編~では、クエリがPostgreSQLサーバに届いてから結果がクライアントに返るまで、PostgreSQLはどのようにクエリを処理し、考え、データを取得するのかを解説します。
主催
エンタープライズDB株式会社
日程
2022年3月4日(金)15:00-16:30
場所
オンライン(Zoom)
内容
MySQL Workbenchはオラクルが開発しているMySQLの公式GUIツールです。MySQL WorkbenchにはMySQLの運用管理に役立つ機能のほか、SQL開発に役立つ機能、DB設計に役立つ機能、データ移行に役立つ機能も兼ね備えています。このセッションでは、MySQL Workbenchの機能や利点をデモを通してご紹介いたします。今回のウェビナーでご紹介する主なMySQL Workbenchの各機能
ER図を用いたデータベースの設計
SQL文の作成や最適化
性能監視と分析
データマイグレーション
( 2/4開催予定から日程変更)
主催
日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit
日程
2022年3月11日(金) ・12日(土) 10:00~18:00
場所
オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容
オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。例年は東京で開催されていたこの回もオンライン開催となりました。セミナープログラムは近日公開される予定です。OSSコンソーシアムでは、OSSとDX(デジタルトランスフォーメーション)をテーマにしたセミナーを企画中で、データベース部会も参加します。次回で詳しくお伝えいたします。その他のOSSデータベース関連のセミナーについては公開されるプログラムをご参照ください。
主催
オープンソースカンファレンス実行委員会