ちょっと気になる隣の技術畑

第5回VRの魅力とエンジニアの情熱

話し手 中地功貴

【話し手】
中地功貴(NAKAJI Kohki)

普段はUnityエンジニアとしてVRゲームの開発をしながら、専門学校の先生やYouTuberをしている。カンファレンスへの登壇や技術記事投稿、イベント主催などのコミュニティ活動も精力的に行う。
Twitter:@nkjzm GitHub:nkjzm
URL:https://nkjzm.jp/portfolio

本コーナーでは技術へのタッチポイントを増やすことを目標に、各分野で活躍されている方をお迎えします。

今回のテーマはVRVirtual Realityです。VRゲーム「アルトデウス」の開発者中地さんにユーザー体験のデザインや没入感、技術の魅力を伝えていただきます。

はじめてのVR

日高:今回はVR技術を中心に聞いてみたいと思います。VRとの関わりはいつからでしょうか。

中地:はい。学生のころ(2015年)からVRと関わっていて今もVRゲーム開発をしています。

日高:早い時期に触れられていたんですね。

中地:始めた時期はちょうどVR元年と言われていたころです。たまたま参加した勉強会にOculus Rift DK2(開発者キット)を持ち込んだ人がいて。そのときはジェットコースターのVRを体験したんです。

日高:私もやったことあるかも。VRってテレビの画面に映っているものとは全然違いますよね。

中地:当時、体験したVRはヘッドセットタイプでした。周りを見渡すと景色も変わるし、ジェットコースターが落ちた瞬間に体が浮くような感覚があって衝撃的でした。

日高:あれ、不思議ですよね。

中地:あとから知ったことなんですが人間の五感って相互に作用しているらしいんですよ。クロスモーダル現象といって、たとえば実際に存在しない刺激でも脳が補完した感覚が生起することがあるんです。当時は全然知らなかったので「そんなことができるんだ、すごい可能性があるな」と。

日高:いい体験をしたんですね。

中地:この勉強会はUnreal Engineを使ってVRコンテンツを作ろうという主旨のものでした。当時は名古屋で学生をしていましたが、その3週間後ぐらいにVRの展示イベントがあって、自分もコンテンツを作り始めたことが最初のVR開発です。

日高:3週間とはずいぶん短いですが、それまでも勉強していたのですか?

中地:いえ、勉強会をきっかけに学び始めました。

日高:ゼロからだと難しかったのでは。

中地:まだまだVR開発者が少なかった時期ですが、みなさんたくさんの情報を発信してくれていて。ブログとかの技術記事を見ながらやったので頼りになりました。

日高:初心者が遠慮せず前に踏み込めたというのは温かいコミュニティがあったんですね。

中地:自分がやってみて気付いたことなのですがVRってかぶらないとわからないんですよ。SNSとかでバズっても遊んでみようとはならない。体験するハードルが高いことが開発者が相互扶助する下地になったのかもと思います。

日高:自分がしんどかったことを防ぎたい?

中地:どちらかというと、ちゃんとみんなVRにハマってくれるといいなっていう思いが芽生えてきました(笑⁠⁠。そういう技術への想いが業界にあったのかなと。

伝える難しさ

日高:VRにハマる人が感じる魅力ってどのあたりなんでしょうか。

中地:それに回答する前に少し説明がいるかもしれません。VRと一言で表現していますが実はたくさんの分野があるんです。

日高:一般的なイメージだとヘッドセットをかぶるやつがVRだと考えがちですがそうではないと?

中地:はい。視覚の場合はヘッドセットタイプのもので、みなさんがよく知っている見た目ですね。しかし、それだけではなくて音のVRとか触覚のVRとかいろんな分野があります。

日高:それは視覚だけでなくて五感のような人間の感覚を延長できるものだと?

中地:そうです。これっていう一つの現象ではないので、VRという技術領域でその人がハマるものが見つかれば好きになるのだと思います。どこに可能性を感じるかじゃないかな。

日高:たしかに重要な体験って人によって全然違いますからね。

中地:ですね。VRって聞くと空間のようなものがあると捉えがちなんです。

日高:私も仮想空間で何かするというイメージがあります。

中地:Virtualという言葉には「実質的な、本質的な」という意味合いがあります。その人の体験した場所が仮想的なものであっても、感じたことは現実も仮想も関係なく本物なんだよと。

日高:具体的な例だとVRChatのようなソーシャルなチャットでの利用も増えていますよね。

中地:そのときの価値はチャット空間というより本質的には人とのコミュニケーションじゃないかな。現実と同じ体験ができるから楽しいし、VRでのチャットにハマっている人は身体性が伴うようなコミュニケーションが好きな方が多いんじゃないかと。

日高:あー、自分が重要視する体験ができるから楽しいわけか。

中地:そうですね。どの側面に魅力を感じるのかは人それぞれで、もっと言うとVRゲームを作るというのは人の体験とか感覚を呼び起こす作業だと思っています。

日高:ゲームでの感覚というと樹の下で告白する恋愛シチュエーションの再現でもいいんでしょうか?

中地:わかりやすいと思います。実際に自分が体験していなくてもアニメとか作品を知っているだけでイメージができる。そういう感覚は体験として作れるんですよね。

日高:現実的でなくても同じ背景を共有できればいいと。

中地:この例は日本の文化を知っている前提があるので海外のユーザーは理解するのが難しいかもしれません。

日高:なるほど。ユーザーの持っている体験に依存するところが大きいからか。

中地:はい。VRゲーム開発ではシーンや操作など自然だと感じてもらえる要素を詰め込んでいきます。ユーザーの感じ方を想像しながらなので、これには頭を使いますね。

体験をデザインする

聞き手 日高正博
聞き手 日高正博

日高:技術スタックとしてはどのようになるのでしょうか?

中地:3Dゲーム開発と同じようにUnrealEngineやUnityを使うことが多いのですが、VR独特な部分は意外と少ないです。

日高:なるほど、VRデバイスの普及による影響はどうですか?

中地:まだ細かい操作は難しいという制約はありますが工夫しています。

日高:体験が幅広いうえに制約もあるんですね。これを乗り越えるのは苦労しそうです。

中地:実は中高生のころにゲームの遊び方が変わると感じた原体験がありました。

日高:家庭用ゲーム機からスマホゲームへという時期かな。

中地:はい。これまでの十字キーをスマホで再現されてもおもしろく感じなくて。それよりタッチパネルに合ったタワーディフェンス(自領地に来た敵を倒すゲーム)なんかが相性が良かった。インタフェースが変わると遊び方が変わるんです。

日高:入力デバイスがゲームに与える影響が大きいと。

中地:VR開発を始めたころはスマホゲームも黎明期を抜けていて。新しい表現に魅力を感じました。これじゃんと思って。

日高:技術の変わり目はワクワクしますよね。

中地:当時のVRはハンドコントローラやキーボードやゲームパッドなどいろいろなインタフェースを試しながらでしたから過去の経験が活きなくて。

日高:今までの常識がいったんリセットされるのか。

中地:制約の中でどう解決するのかはめちゃめちゃ楽しかったんですよ。最初に作った展示用のVRゲームはユーザーは前に進むしかできないものでした。

日高:ずいぶんと割り切りましたね。

中地:サラリーマンになって通勤電車に何度も乗り込むというコンテンツで、自分の足で前に進むという体験だけに注目しました。これをゲームパッドでやると体験をデザインする違和感がでてしまう。

日高:自分の体を動かす感じじゃないと。

中地:そこで考えたのは頭を前に傾ける方法です。歩くこととリンクさせたかった。ただ実際には制御がうまくいかず、当日はユーザーの動きに合わせて展示者がキーボードを押すように書き換えました。

日高:やってる様子を想像すると笑えてきますね。

中地:ですよね。ただユーザーはヘッドセットをかぶっているので操作者が外で何をしているかは見えていない。なので自分の操作で進んでいると感じてもらえれば体験が成立するVRの性質をうまく使って応急処置できたんじゃないかな。

人生をエモくしたい

日高:2015年ごろから7年以上VR開発者として活躍されてきていますが、やはりそれだけの魅力がVRにあったのでしょうか?

中地:実は迷ったこともあって。現在所属しているVR系スタートアップに入る前、代表に日本初のおもしろいVR作品を作れるのは今しかないと誘われました。

詳しくはブログに書いています。

日高:めちゃくちゃいいエピソードだ。夢に向かうことを選んだんですね

中地:正直ほだされましたね。僕も人生を決めるときに感情を大切にしたいと思っていたので、一緒にエモい人生を送りたいなと。

日高:情熱的な性格だと感じています(笑⁠⁠。

中地:僕は退職エントリも好きなんですよ、人生の岐路を残せるので。退職時に毎回エントリを書いていますが絶対VRの夢を諦めたくないぞと。なのでエモいかどうかで次が決まります(笑⁠⁠。

日高:熱量が伝わってきました。実際にVRゲーム「アルトデウス」の開発に関わって夢をかなえられていますよね。

中地:もちろんエモい人生を選んだ苦労もあったんですがエンジニアって楽をしないほうがおもしろいなと感じます。アルトデウスはVRゲームで初めてファミ通・電撃ゲームアワード2020のアドベンチャー部門で最優秀賞をいただいていて、もしかしたらVRの歴史に関われたんじゃないかと感じています。

日高:VRで初めてと言われると響きますね。

中地:会社は自分たちで作ったと話していいと言ってくれていてクリエイターとしてめちゃくちゃうれしかったです。

メタバースを考える

日高:VRに新しい可能性を感じる瞬間はありますか?

中地:バズワードですがメタバース的な展開はフックとしておもしろそうです。ちょっと前のVRは体験重視だったけど今はゲーム性だし、将来はコミュニケーションが来るんじゃないかという。

日高:いまエンジニアの間でもGather[1]が流行っていますし、感覚的に伝わります。

中地:そうですね。VR技術を使っていなくてもメタバースと呼んでも差し支えないと思います。VRだと伸びしろがありそうぐらいで。

日高:日常的に使えるものだとイメージしやすいですね。

中地:はい。現実の地続きになる体験が作れるとおもしろそうだと感じています。

日高:メタバースが特別なものじゃないほうがいい?

中地:新しいものが出ると構えてしまいますが、Gatherも人の気配を感じられてボイスチャットの障壁を下げていますよね。職場をふわっと再現していて使いやすい。

日高:Slackとかのチャットツールと対面の間にビデオ会議が入ってきていましたよね。ここ数年急速に。

中地:その2者の中間にGatherが位置していると思えばVRも延長線上に位置できるはずで、めちゃくちゃ可能性があると思いますね。

日高:人間の存在感って何? という疑問を埋められるとおもしろい。

中地:顔がでてたら密な会話ができるかというと、そうじゃない場合もあるわけです。たとえばうなずきや目線とか人を感じさせる動きのほうが大事とか。

日高:注目しているという合図や表現はVRでも再現できそうに感じます。

中地:人間の五感では視覚が強いわけですが、それだけにとらわれないほうがいいはずです。むしろ面倒くささが本質的だよねという出来事があって。これは知り合いがVRChat上で卒業旅行をしたというエピソードなのですがスケジュールに新幹線での移動時間が入っていたんです。

日高:そこは省略してもよかったのに。

中地:新幹線に座って30分ぐらいお弁当を食べたりトランプしたりする時間を用意して楽しんでいる。あえて移動する体験を入れることで成立していて、そこがおもしろいんですよ。

日高:一緒に遊んで過ごすことが本質的な体験だと。

中地:そうですね。誰かと一緒に経験することで「ああ、良かったな」と面倒くさかった行動が価値に変わる。

日高:面倒な制約があることは楽しい要素も産み出しているんですね。

中地:コミュニケーションを題材にしたコンテンツによく見られる傾向はもう一つあって、最近のユーザーはかなりクリエイティブだなって感じています。ユーザーによるゲーム作成システムを持つRoblox[2]やアバターのあるVRChatとか。

日高:自分で作るのは大変そうですが。

中地:最低限の環境があればできるんですよ。3Dモデルを作るのは難しいけどアバターの改変ならという具合に制約の中で頑張れる。

日高:好きな服を着るような?

中地:そうです。色を変えたりパーツを追加したりでもアイデンティティが生まれるんです。ここ2、3年はファッションブランドがアバターの衣装を用意することもあって盛り上がっています。

日高:大事なのは技術的な進化だけではないと。

中地:今のはアバター文脈でしたが僕はユーザーのクリエイティビティが当たり前のように表現できる世界が好きなので、VRでも創造性と技術が噛み合う将来につながっているといいなと感じます。

日高:いいですね。私も同じ夢を見たくなりました。ありがとうございました。

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