新春特別企画

2011年のOpenOffice.org/LibreOffice

激動の2010年

OpenOffice.orgにとって2010年は、激動の年でした。

1999年、ドイツのオフィススイート・メーカーであるStarDivisionがSun Microsystemsに買収され、当時販売していたStarOffice 5.2を無償ダウンロードできるようにしました。2000年10月13日、StarOfficeのソースコードを公開し、これがOpenOffice.orgになりました。すなわち、2010年はOpenOffice.orgが誕生して10周年でした。

OpenOffice.org 1.0がリリースされたのは2002年5月であり、これを元にStarSuite 6.0(StarOfficeは日本ではNECの登録商標であり、日中韓ではStarSuite)が発売されました。

以後ライセンスや標準ファイルフォーマットの変更などさまざまな変化がありましたが、順調にバージョンアップを重ね、ユーザを増やしていきました。しかし2009年4月20日、OracleによるSun Microsystemsの買収が発表されたことが、一番大きな変化といっていいでしょう。2010年1月27日に買収が完了し、OpenOffice.orgはOracleのプロダクトとなりました。これにあたってOracleはOverview and Frequently Asked Questionsというドキュメントを公開し、OpenOffice.orgの継続と発展を約束しました。StarOffice/StarSuiteはOracle Open Officeという名前になって販売が継続されています(ただし、日本では現在のところStarSuiteのまま販売されており、Oracle Open Officeにするためには無償のアップデートが必要⁠⁠。

そして突如9月28日に、The Document Foundationの創設とOpenOffice.orgからフォークしたLibreOffice開発開始が宣言されました。主要メンバーはOpenOffice.orgのコミュニティメンバーや開発者やNovellなどの企業で、CanonicalやFree Software Foundationをはじめ多くの企業やコミュニティに賛同を得ました。OracleにこのFoundationへの参加を促し、OpenOffice.orgという商標を寄贈するように求めましたがOracleはこれを拒否しThe Document Fondationが独立して開発していく旨の発表を行いました

以前よりNovellはGo-OOというOpenOffice.orgのパッチ集を開発しており、これをOpenSUSEやDebian/Ubuntuなど多くのLinuxディストリビューションで適用していました。また、Windows版を「OpenOffice.org Novell Edition」としてサポート付きで販売しています。LibreOfficeは、OpenOffice.orgとこのパッチ集をベースとして、開発が始まりました。

2010年12月下旬執筆時点において、OpenOffice.org 3.3とLibreOffice 3.3のリリースに向けてRelease Candicateの開発が進行中です。年内あるいは年明け早々にはリリースされるのではないでしょうか。一方、Oracle Open Office 3.3は12月15日にリリースされました。同時にOracle Cloud OfficeというGoogleドキュメントやMicrosoftのOffice Web AppsのようなWebブラウザで各ドキュメントを編集するWebアプリケーションもリリースされましたが、無償で使えるものではないので、目にする機会はあまり多くなさそうです。

OpenOffice.orgとLibreOfficeの2011年

これまで述べてきたとおり、OpenOffice.orgとLibreOfficeをめぐる状況はめまぐるしく変わっているので、2011年の予測をする、というのはとても困難です。

まずOpenOffice.orgから離脱した開発者を含むコミュニティメンバーが多数おり、開発に支障をきたすような事態が起きているのか、という疑問があります。現にOpenOffice.org 3.3はRC8まで進むということがありました。OpenOffice.orgは、RC(リリース候補)1を出し、リリースの妨げとなる重大な不具合(RC Bugといい、主としてクラッシュバグ)があるかどうかをテストします。もし見つかった場合はすべてのRC Bugを修正後にRC2を出し、またテストする……ということを繰り返し、これ以上RC Bugが見つからない場合にそのRCをリリース版とする、という工程を経てリリースされています。これが8まで行くというのは前代未聞ですが、現状ではOracle Open Officeのリリースと同期していないので急ぐ理由がなく、クオリティの向上を図っている、と考えるのが妥当かと思います。リソースの分散によるデメリットはないとは言いませんが、少なくとも短期的は今後も安定してリリースされ、安心して使うことができると考えて差し支えないでしょう。なお、現状3.4まではリリースが予定されています。

LibreOfficeの開発予定については、具体的なロードマップは今のところなさそうです。前出のTDF offers preview of future product and technology developmentsではコードのクリーンアップとリライトを行うことが示されていますし、Ixionという名前のCalcの新しいエンジンを搭載することも示唆されています。Development/Crazy Ideasは規模の大きなものから小さなものまで言及されており、また実現性を疑問視せざるを得ないものもあり、どう判断していいものかわかりません。

ただ1ついえるのは、コードのクリーンアップは確実に進んでいますし、今後も継続するでしょう。端的な例として、OpenOffice.orgには未だにMac OS 9でビルドするためのコードが残っていたりします。これは2000年の段階ですでに使いようのないものですが、未だに残っています。一方、LibreOfficeではすでに削除されています。クリーンアップすればするほど見通しのいいソースコードになり、新しい参加者の状況把握が簡単になるのは論を俟ちません。これはOpenOffice.orgとLibreOfficeの違いの象徴といえるかもしれません。

OpenOffice.orgとLibreOffice、どっちを選ぶ?

まず大前提ですが、現段階でOpenOffice.orgを使用している場合、このまま継続して使用するのがいいでしょう。すなわち、現在OpenOffice.org 3.2.1を使用している場合、OpenOffice.org 3.3がリリースされたら、そちらを利用するのがいいのではないかということです。OpenOffice.orgとLibreOfficeが3.3のうちは機能的には大きな違いはありませんし、LibreOfficeはリリース体制も万全とは言えません。こればかりは経験がものをいうところです。もちろん、新しいものに興味があるとか、業務で使用しない場合は、是非ともLibreOfficeを試してみてください。当然両者は同じ環境にインストールできます。

3.3のマイナーバージョンアップがあったとしても、少なくとも2011年の間は、一方的にどちらを選択するべきかを断定することはできないので、自分の意志で選択する必要がありそうです。ただしLinuxディストリビューションに搭載されるのは、今後LibreOfficeになっていく予定です。Red Hat、OpenSUSE、Ubuntu、DebianがLibreOfficeを選択するのであれば、ほかのLinuxディストリビューションも追随すると考えるのが自然であり、OpenOffice.orgを選択する必然性がありません。

Windowsなどほかのプラットフォームでは、自分がよく使う機能をピックアップし、OpenOffice.orgとLibreOfficeで実際に動作させてみて、より意図したとおりに動く方を選択するのもひとつの手です。例えばVBAの互換性は(Novellの貢献により)LibreOfficeのほうが高かったりなど、得手不得手があります。

2011年中は難しいでしょうが、いずれは落ち着くところに落ち着く、と筆者は考えています。もちろん、それがどこでなのか、という問題はありますが。

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