新春特別企画

LibreOffice/Apache OpenOfficeの2014年の推移と2015年の展望

ご挨拶

新年あけましておめでとうございます。こうして5年連続でLibreOfficeとOpenOffice.org/Apache OpenOfficeの記事をお届けすることができました。最初の頃はApache OpenOfficeが存在しなかったことを考えても、5年という歳月の長さを感じます。

昨年のLibreOfficeとApache OpenOfficeを一言で表現するのであれば、開発状況に決定的な差が現れた、となります。では、具体的に見ていきましょう。

注意
本稿で記述している日付はJSTであったりUTCであったり、はたまたほかのタイムゾーンであったりするため、最大で1日程度の差があることをご了承ください。また、多数リンクがありますが、中にはご覧になっている時点でリンク切れのものもあるかもしれません。あらかじめご了承ください。そのほか、行き交うメールの量が膨大すぎて全部に目を通せないため、見落としているものもあるかもしれません。何かお気づきの点があればコメントいただけますと幸いです。

2014年のLibreOffice

まずはLibreOfficeから見ていきます。

リリース状況

予定どおりであったりなかったりするものの、たくさんのリリースが行われました。一覧表は次のとおりです。開発版は含まず、あくまでリリース版のみです。

リリース日 バージョン
1月30日 4.2.0
2月11日 4.1.5
2月20日 4.2.1
3月13日 4.2.2
4月10日 4.2.3
4月29日 4.1.6
5月8日 4.2.4
6月20日 4.2.5
7月30日 4.3.0
8月5日 4.2.6
8月28日 4.3.1
9月25日 4.3.2
10月31日 4.3.3
10月31日 4.2.7
11月14日 4.3.4
12月12日 4.2.8
12月18日 4.3.5

一昨年が15回のリリース、昨年は上記のとおり17回のリリースと、リリースの回数が増えています。10月31日に2バージョンを同時リリースしているのは偶然ではなく、意図的に行われたものです。

ほかにも特徴的なことが2つありました。その1つが4.2.0と4.2.1のリリース間隔が非常に短いことです。4.2.1は中間(intermediate)リリースで、予定にはありませんでした。不具合修正が進んだことから4.2.1をリリースし、4.2.1としてリリース予定だったのを4.2.2としてリリースするに至りました。これ以降、バグハンティングセッションと称してX.Y.0のリリース前のテストを広く呼びかけるようになりました[1]⁠。このようなことが再び起きないように、可能な限り事前に不具合を発見するよう配慮していることが窺えます。

もう1つ特徴的なのは4.2.8のリリースです。X.Y.8がリリースされたのは今回が初めてです。4.2ブランチは11月19日でサポート終了の予定でした。リリースを決定したミーティングの議事録を読むと[2]⁠、Calcの不具合修正が主な理由です。しかしセキュリティの修正も含まれており、今から考えるとリリースされてよかったと思います。

例外はあるものの[3]⁠、原則としてLibreOfficeは2つのバージョンを並行してリリースしています。マーケティングの都合なのか、新しいほう(マイナーバージョンの低いほう)「最新版」⁠原文では"Fresh"⁠⁠、古いほう(マイナーバージョンの高いほう)「安定版」⁠原文では"Stable")と称するようになりました。個人的な感想では定着するのかやや疑問ですが、機能が多いほうがいいのか、枯れているのがいいのか、そのバージョンの見極めの目安とすればいいのではないでしょうか。

開発状況

最新の開発状況はLibreOffice 4.4.0リリース時に公開されるはずです。直近のまとまった資料としては9月に行われたLibreOffice Conference 2014のキーノートでのスピーチがあります。残念ながらスライドは公開されていませんが、YouTubeに動画があります。これを見ると、現在のWindows版/Mac OS版のアクティブユーザーは8,000万人程度とのことです。それはいいのですが、開発者の伸び率もコミット件数も鈍化が見られます。あくまで9月現在の話であり、その後どの程度盛り返したのか、あるいは逓減しているのかは今後の情報を待ちたいところです。

2月には解決したバグが15,000件を超えたという報告とがありました。現在は20,000件を超えたようで、10ヶ月で5,000件以上というのは凄まじいと言っていいでしょう。

WindowsでLibreOfficeをビルドしたことがある方はよくご存知だと思いますが[4]⁠、Linuxなど他のプラットフォームと比べてビルドに時間がかかっていました。しかし、makeにパッチを当てることによってビルド時間が短縮されたという報告がありました。MicrosoftがVisual Studio Community 2013を公開したこともあり、LibreOfficeのビルドに挑戦するいいチャンスだと思います[5]⁠。

LibreOfficeの開発者になるためにはメーリングリストにライセンス(LGPL/MPL)に承諾する旨の内容を投稿する必要があるのですが、これを見ていると日本人と思しき氏名の方が4名見つかりました。今年はもっと増えることを期待しています。

開発状況については、LibreOffice開発者の安部さんのブログも実に興味深いです。

Document Liberation Project

Document Liberation Projectが開始されました。このプロジェクトの趣旨を一言で表現するのに、アナウンスの翻訳のタイトル「読めなくなった昔の文書を、もう一度よみがえらせよう」がわかりやすいでしょう[6]⁠。

ただし、レガシーなファイルフォーマット以外もサポートしています。プロジェクトの内容を見るとなかなか興味深いです。MacWrite Pro[7]のファイルが読めるようになったことによる感謝を表すバグ報告がなされるくらいには、困っていた人がいたようです。

日本での動き

日本でのコミュニティ活動も活発に行われていますが、人材不足なのは否めません。大きなイベントとしてはLibreOffice mini Conference 2014 Tokyo/Japanが開催されました。ほかにも各地でたくさんのイベントが開催されました。

メーリングリストに参加するとイベント情報を知ることもできますので、興味がある方は参加してみてはいかがでしょうか。開発は無理だし翻訳も難しいけど何かしたい、という場合は、イベントの主催者に回ってみるのもいいでしょう。手を動かすのは好きだけど、イベントはやりたくないという人も中にはいます[8]⁠。

www.libreoffice.orgがリニューアルされたことにより、ja.libreoffice.orgも新たに翻訳されました。日本語でAsk LibreOfficeも開始されました。すべてボランティアで、やはり限界もあります。たくさんの方の手助けが必要です[9]⁠。

2014年のApache OpenOffice

続いてApache OpenOfficeです。

リリース状況

リリースは4月29日の4.1.0と8月23日の4.1.1です。一昨年のリリースも3回なので、こんなものではないかと思います。

ダウンロード状況

Apache OpenOfficeはダウンロード数を公開しています。これによると、4月17日に1億ダウンロードを達成しました。

ダウンロード数の推移は次の表を見てください。

日付 ダウンロード数
2013年12月31日 8,500万
2014年1月31日 9000万
2014年3月7日 9500万
2014年4月17日 1億
2014年5月21日 1億500万
2014年7月4日 1億1,000万
2014年8月24日 1億1,500万
2014年9月27日 1億2,000万
2014年11月4日 1億2,500万

日本の総人口が一人一回ダウンロードしたという計算ですから、すごいことだと思います。なお、原稿執筆時点でデータが12月1日までのものしかありませんが、昨年のうちに確実に1億3,000万は超えているでしょう。

開発状況

LibreOffice, OpenOffice, and rumors of unification(LibreOffice、OpenOfficeと統合の噂)という記事が話題をさらいました。IBMがApache OpenOfficeの開発から撤退(withdrawal)したのかもしれないというのが根拠で、その証拠としてIBMの社員がメーリングリストに登場していないというのが挙げられていました。しかし、これは証拠としては薄いどころか誤りであり、全体の信憑性も微妙です[10]⁠。IBM社員が開発に参加しているのは事実ですが、あくまでコミュニティメンバーの一員としてであり、IBMは企業として参加した事実がないのに撤退なんてしようがない、というのがIBMの言い分なのか、この件に関する積極的な発言はあまり多くありません。

客観的な事実としては、最初のリリースからリリースマネージャーを務めたJurgen Schmidtさんが辞任することがありました[11]⁠。Jurgen SchmidtさんはIBMの社員であり、何か続けられない理由ができたのかと勘ぐってしまいます。

もう1つ客観的な事実として、svn trunkへのコミット回数の減少があります。一昨年は1,325回のコミットがありました[12]⁠。しかし去年は639回しかありません[13]⁠。一昨年から半減もまぁそういうこともあるのかなという感じですが、月別にグラフにすると次のようになります。

図1 2014年の月別コミット回数
画像

リリースの前後で落ち込むのはそれほど不自然ではないにせよ、9月以降に回復してしかるべきですし、この話題が出た10月には一時的に復活しているのは不自然です。ちなみに一昨年(2013年)のグラフは次のようになりました。

図2 2013年の月別コミット回数
画像

Apache OpenOfficeの巨大さを考えると、毎月1桁のコミット回数では控えめに言っても少なすぎると思います。

これで実のところどうなのかがある程度推測できますが、この件に関してはJurgen Schmidtさんがコメントしているので、そちらも参照してください[14]⁠。

LibreOffice vs Apache OpenOffice ラウンド3

前回まではここでLibreOfficeとApache OpenOfficeの比較を行っていましたが、今回ばかりは全く意義を感じないので、1つエピソードを紹介します。

7月16日にNoto Sans CJK/Source Han Sansフォントがリリースされました。高品質なフリーフォントであり[15]⁠、利用者も多いのではないでしょうか[16]⁠。しかし、LibreOffice/Apache OpenOfficeでこのフォントを使用してPDFにエクスポートすると、クラッシュする不具合が発見されました。

LibreOfficeへのバグ報告は7月19日になされ、その後パッチが提出。これが適用されます。しかし、フォントを読み込めないならともかくクラッシュするのはおかしいというコメントが出て[17]⁠、その問題も解決されます。この修正は4.3.1/4.2.7に盛り込まれ、リリースされました。すなわち、現在は修正されています。

一方、Apache OpenOfficeへのバグ報告はあるものの、その後全く動きがありません[18]⁠。すなわち、現在でも修正されていません。

Noto Sans CJK/Source Han Sansを埋め込んだPDFを作成したい場合にはLibreOfficeを使用しましょうということになりますし[19]⁠、LibreOfficeの開発が活発に行われている何よりの証左でもあります。

2015年のLibreOffice

明確に決まっているのは4.4と4.5のリリースです。4.4は早ければ今月中にもリリースされます。4.2でもそうでしたが、第一四半期にリリースされるメジャーバージョンアップ版はGSoCの成果を含んでいるため、いろいろと興味深い新機能があります。ブランチは切られているので、4.5の開発もすでに始まっています。

あとはLibreOffice Conference 2015がデンマークのオーフス(Aarhus)で開催されることが決定しています。9月23日から25日までということは、LibreOfficeの5周年はこのイベント開催中に訪れることになります[20]⁠。

寄付も順調に集まっているようなので、これをうまく使ってなにか面白いことをするのではないかと期待しています[21]⁠。

2015年のApache OpenOffice

4.1.2のリリースが提案されています。今年も最低でも1回のリリースはありそうです[22]⁠。

このほか、Apache OpenOfficeの前身であるOpenOffice.orgの前身であるStarOfficeの前身であるStarWriter[23]がリリースされてから30周年という話が挙がっています。しかし、StarWriterはApache OpenOfficeの直接の先祖ではなく、その5年後のStarWriter for Windowsが直接の先祖なので、25周年とすべきであるという実に興味深い投稿がありました[24]⁠。いずれにせよ、記念の年と言えるでしょう。

それよりもなによりも、もう少し開発が活発に行われることを期待したいところです。

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