2007年もWebではさまざまなソーシャル系サービスが生まれる一方,企業サイトや商用サイトは,ソーシャルメディアの海に取り囲まれる島のように存在感が薄れた年だったといえます。
急速に成長するソーシャル系サービスでは,そこに参加するユーザーのエゴイスティックな利益をかなえることでユニークなデータを溜め込むという特徴があります。そのデータがまた新たなユーザーを引き寄せ,アテンションを吸い上げ,ユーザーを中毒に陥らせます。2005年にTim O'Reillyは,このことを"Data is the Next Intel Inside"(What Is Web 2.0)というという名言で看破していましたが,2007年大きな話題になったOpenSocialをめぐっては,"It's the data, stupid"(OpenSocial: It's the data, stupid)という表現で繰り返していたのが印象的です。
2007年に日本の先進ネットユーザーを虜にしたWebサービスといえば,文句なくtwitter…と言いたいところですが,最後になって注目を集めたのはtumblrでしょう。ぼく自身もかなりハマりました。
ではtwitterやtumblrは,ユーザーのどんな“エゴ益”を満たすことで人気を集めたのか。それを探ると,2008年のWebへのヒントが見つかるかもしれません。
twitterで,ユーザーはWebの魅力を再発見した
シンプルなサービスでありながら人気を伸ばしたtwitterですが,2007年後半にはまたひとつの普及の波を超えたようで,早い時期にはじめた人は自分のFollowerがどんどん増えていくのを体感しているでしょう。
日本で火がついたのは4月ですが,5月にKNN神田さんが仕掛けたイベント「Twitter Night」に集まったユーザーの躁状態はすごいものでした。twitterはチャットであることにも,ソーシャルであることにも新味はないのに,集まった人たちはまるでWebの面白さを初めて知ったみたいに浮かれていたのが印象的です(Twitter Nightの感想:一行さえずり(micro blogging)の寄せ集め風に)。会場ではEvan Williams(twitterの創業者の一人)のインタビューが流されましたが,ぼく自身それを見て,別に大したことをしゃべってないのにその場で聞けることががえらく嬉しかったことを思い出します。
twitterに集まるユーザーが生み出す即興的な盛り上がりは,多くの個人デベロッパーに「この場で,このユーザーたち相手になら何か面白いことができそう!」と思わせたはず。MovaTwitterやTwit!のような連携サービスやマッシュアップは,その着想や完成度において,たぶん英語圏でリリースされる同種のサービスを超えてしまったんじゃないでしょうか。使える・楽しいサービスがあるからtwitterをより楽しめる,だからさらにハマる,というエコシステムが日本のWebサービスで,この規模で実現したのも初めてだったのでは。
ついでに言うと,ぼくの会社(アークウェブ)も,ecoったー,necoったーというユニークなマッシュアップサービスを作ることで,日本のtwitter界隈を面白くすることに少しは貢献できたと思います。
「SNSはオープンがよいかクローズドがよいか」などと言うのはそろそろ芸がないのですが,2007年,流れはオープンに向かったようです(それがネット的に進歩なのか周期的なものかはおくとして)。最近読んで面白かった本「情報大爆発」の言葉を借りれば,日本の最大手SNSであるmixiのような場は,インターネットをインター・ギャラクティック・ネットワークに引き戻すような流れだったのかもしれません。
ソーシャルネットワークもユーザーが創り上げるソーシャルメディアも,本来人の流れに従って移り変わるべきもの。もちろんSNSは積極的に関係を「創り上げる」だけでなく「維持する」ためにも使えるわけですが,閉鎖的なネットワークの中では人は窮屈さを感じます。twitterの楽しみ方について,ぼくは5月に「Twitter試論:「コミュニティ」と「会話スタイル」を軸に考える」という記事で,ユーザーが新しいコミュニティに飛び込み,そこでの会話形式(小粒・非同期の盛り上がり)を身に付けていることを指摘しました。ライトで発散指向のtwitterに,ユーザーがmixiにない魅力を感じていることはまちがいないと思います。
一方,twitterの企業のプロモーションへの活用事例としては,かなり早い時期のMazdaの事例(Twitterのマーケティング活用:MazdaがブログパーツとTwitterを連携)が記憶に残っている程度ですね。これはもっともで,twitterにいるのは小さくクラスタ化された集団で,ユーザーのリテラシーは高めなので,少なくとも現時点では企業のマーケティングへの活用という点では難度も高いはずなのです。
tumblrは,DashboardとReBlogで新たなソーシャル体験を生んだ
次に,今年後半に話題になったtumblrです。
tumblrの魅力についてはぼくは3本もブログを書き,12月にはWebSig24/7のThe New New Web Diggersという分科会でミニプレゼンまでしました(The New New Web Diggersイベント:「QuoteとReBlogで語ってみるtumblrの魅力」を発表しました)。いろいろ言い尽くしているので,詳しくはそっちを読んでもらうとして,エッセンスだけ。
tumblrは,いわゆるTumblelogといわれるジャンルのミニブログをサービス化したものでありながら,新しかったのがDashboardとRelogという2つの機能で,それが強力な魅力の源泉になっています。他のユーザーをFollowすると,そのユーザーがクリップした写真,投稿したテキスト,引用などをDashboardという場所でストリーム状に見ることができるのがDashboard。またDashboardで見かけた写真や引用を,簡単なアクションで自分のTumblelogに取り込めるのがReBlogという機能です。
表だけ眺めているとまったくわかりませんが,このDashboardとReBlogによってtumblrは,ユーザーにこれまでにないソーシャルな体験をもたらすサービスになっていると思います。ベンチャーキャピタリストのFred Wilsonは,このようなtumblrの魅力を“Social Blogging”という言葉で説明しました(A VC: Social Blogging)。
そもそもBlogはソーシャルなものではないかと考えると重言のようですが,なぜソーシャルな面を強調する必要があるのかは,tumblrを使ってみればきっとわかりますよ。
twitterのブームと同じく,日本でのtumblrをめぐる“現象”として面白いのは,キレた開発者とαなユーザーたちが,Auto PagerizeやTomblooといったユーザースクリプトでtumblrのユーザー体験を劇的に向上させ,英語圏のユーザーにまで布教してしまうという「ユーザー主導の面白さ創出」が起こったこと。
これはイノベーターやアーリーアダプターがたむろするサービスの特徴といえばその通りですが,ぼく自身は,これほど鮮やかな「主客転倒」がすごい「スピード」で起こったのは初めて見ました。
この点も,twitterやtumblrが新しいと感じる理由のひとつです。
まとめ
2007年を振り返ると,αなユーザーたちはmixiという大きな会合の場所を中座して,よりライトでオープンな潮流に飛び込みました。そして,twitterやtumblrのような場でのアクティビティを通じて,なにかを一緒に創り上げる行為に熱中しました。そこで行われていたのは,より「小粒」で「暗示的」なコミュニケーションだったといえます。
2008年,twitterやtumblr(的なサービス)のユーザー層が広がる過程でこの特徴がどう変わるか,また,このトレンドが既存のWebサービスにどんな影響を与えるかはとても興味深いと思います。