最初に紹介するAndroidメモアプリは、EBt for Android(以下「EBt」)です。EBtは、連載にあたってまず紹介したいと思ったメモアプリで、筆者はザウルスSL-C1000というPDAを使っていた頃から愛用しています[1]。
リンクという思想
EBtは個性的なメモアプリです。メモを作成し、作成したメモ同士をリンクしていく、そして必要なメモを探すにはリンクをたどるというのが基本的な使い方になります。検索やタグという方法を使わないのがおもしろいところです。ただし、それもあってEBtのおもしろさに気づくには若干慣れが必要かもしれません。
作者さんがEBtを利用して、EBtのマニュアルを公開しています。インストールする前にEBtがどのような感じなのか、リンクとはどういうことなのかを実感することができるページになっています。
EBtの一番の特徴はリンク機能です。ここに作者さんの思想が表現されていると思います(このような形でメモ同士をリンクする機能をもったメモアプリを他に知りません)。特に、作者さんのブログ「今日のEBt。テーマ「方向の意味」。」は一読してみてください。EBtにおけるリンクの思想を理解する参考になるはずです。
多くのメモアプリにおいて、作成したメモを探すには検索やタグといった機能を使うのが一般的です。しかし、EBtにはどちらの機能もありません[2]。もっぱらリンクをたどって目的のメモを探すことになります。
ルートメモとUI
EBtを起動するとルートメモが表示されます。なお、この起動時に表示されるホームメモは変更することができます。
上部に「移動」「たどる」「編集」のボタンがあります[3]。「移動」をタップすると、「クリップボード」「ゴミ箱」「テンプレート」「ブックマーク」「ルートメモ」「最近のメモ」といった元々独自の機能のために用意されたメモに移動することができます。「編集」をタップすると、表示されているメモの内容を編集できます。「たどる」をタップすると、表示メモにリンクされているメモが一覧表示されます。
リンクをタップすると、そのメモに移動します。EBt for Androidでは、フリックを使ってリンクを次々とたどる機能がありますが、それは後述します。
EBtではルートメモを起点として、リンクされているメモをたどりながら目的のメモを探し出すという使い方になります。つまり、メモを作成するだけではなく、リンクをどのようにつなげるかがEBtの使いやすさの肝になります。どうリンクするかは自由です。また、EBtのリンクは双方向ですので、メモ同士をリンクするとどちらからもたどることができます。
リンクとメモの関係
リンクはメモとメモの関係性を表現しています。たとえば筆者は、ルートメモに「Androidアンドロイド」というカテゴリー的なメモをリンクし、さらに「Androidアンドロイド」メモには、「HT-03A」」「twitter」「メモアプリ」など具体的なメモをリンクしています。さらに「twitter」と「メモアプリ」というメモ同士もリンクすることができます。
また、EBtのリンクの特徴として、メモ同士の上下関係がないという点が挙げられます。メモ同士をリンクすると両方のメモからたどれるようになりますが、そのメモの間にWindowsのフォルダのような上下関係はありません。画面表示上はフォルダとその子フォルダたちという表示になっていますが、上記の例でいうとルートメモから「メモアプリ」をたどり「メモアプリ」で「たどる」をタップするとリンク一覧にルートメモが表示されます。この辺の感覚は言葉で説明するのは難しく、私も理解するのに時間がかかりました。たくさんのメモがリンクによって網の目の世界を形成しているイメージがわかりやすいでしょうか。よって、EBtのメモには階層もありません。
現代思想をかじった人だと「リゾーム」という言葉を思いつくかもしれません。EBtのリンクは上下関係のツリーではなく、リゾームになっているんですね。EBtの敷居の高さは、Windowsなどで慣れたツリー構造ではなくリゾームだからといえるでしょう。
このリンク機能を利用して、筆者はEBtをアイデアメモや人脈メモに使っています。情報の断片であるメモをリンクでつなげていくことで意味を生み出すのは、自分の思考法にあっています。思いついたことをどんどんメモにして、メモ同士をリンクすることでアイデアをつなげます。あるいは、知り合った人の情報をメモにしてそのメモ同士をリンクすることで関係性を表現したりしています。こういう使い方は他のメモアプリや検索、タグといった機能では表現しにくいのです。
このように、EBtはメモ同士をリンクでつなげることで意味を生み出すメモアプリだといえます。それは人と人との関係が意味を生み出す現実世界に似た構造と同じではないでしょうか。