[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第十八回「自転車のおきどころ」

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鶴岡八幡宮の大きな鳥居をくぐると、太鼓橋の横に守衛さんが立っていた。

「すいません。自転車置き場はどこでしょうか」

守衛さんは、いい年をした男(妙齢の女性と花盛りの娘もいたが)が数人、自転車を押しているのを見て、ちょっとびっくりしたような仕草を見せた。

「自転車ですか……すいません。自転車置き場というのは無いのですよ」

今度はこちらが、これだけ有名な観光スポットに自転車置き場無いのか、と、かなりびっくりしたような顔をしていたのだろう。⁠申し訳ありません。でも、こちらに自転車を置いておいても大丈夫な場所がありますから、どうぞ」

と、先に立って案内をしてくれた。

大丈夫な場所への道中も、守衛さんは自転車置き場が無いことをしきりに謝ってくれた。

鎌倉市では、マイカーの観光客に対して、市街地から離れた駐車場に車を停めて江ノ電やシャトルバスなどの公共手段を利用する"パーク・アンド・ライド"を呼びかけている。エコロジーと混雑解消のために、パーク・アンド・ライドをよびかけているのであるから、自転車での市内観光は公共交通の利用と併せてもっと推し進めていいはず。

鎌倉の行政よ、人のいい守勢さんに謝らせたり、便所の脇にあるメンテナンス用の資材置き場の前に自転車乗りを案内させたりさせてはいけない。

鎌倉では、この後も何軒かの観光スポットで自転車の置き場に悩まされた(親切な守衛さんは各ポイントに配置されてはいなかったのである⁠⁠。寺院や神社の境内は、諸車進入禁止、であるから自転車置き場は備える必要はないのです、といわれてしまえば、その通りかもしれない。でも、レンタサイクル屋も営業が成り立つようなエリアを持つ観光地は、もっと自転車に優しくてもいいのではないだろうか。

観光地に限らない。繁華街だって同じ事だ。

自転車に優しくしないと、大変な不幸を招くことになるのを皆、気づいていない。

僕は東京の郊外に住んでいる。買い物はひとつ隣の街に出かけることが多い。我が家から最寄りの駅まで歩くと30分近くかかる。駅まで自転車でいく事を考えると、隣の街まで自転車で行ってしまった方が早い。早いのだから、当然、自転車で出かける。そして、自転車を停める場所に頭を抱えることになる。

繁華街の外れに駐輪場がある。ここは露天で管理人もいない。鍵をきちんと掛ければ管理人なんていなくてもいいじゃないか、と思われるかもしれない。でもほら、良く見回してみてください。あの、フェンスにがっちりとした鍵で停められているマウンテンバイクのサドルが無い。こちらのロードは前輪が無い。此方を見れば、照明のポールにホイールだけが残されている。

熱心なパーツ泥棒は、ペダルやハンドルだって盗っていってしまうことがある。

駅前に屋内の駐輪場があるにはある。

そこには管理人も常駐している。これなら、たとえ有料であっても、ここに停めたい。停めたいけれど、こういうところの大半は月極契約のスペースであり、わずかな臨時駐輪スペースは朝から埋まってしまっていることが多い。

仕方なく、自転車をばらして輪行袋に詰め込んで、混雑している休日の大型商店の中を、人に自転車をぶつけつつ徘徊することになる。わけはなく、買い物を中止して戻ることになる。

そんなことを繰りかえてしていると、もう自転車で出かけるのが嫌になる。最寄り駅まで自転車で行ってもいいのだけれど、週末くらいは通勤用ではない自転車に乗りたい。駅までお気に入りの自転車で出かければ駐輪場に悩むのは同じ事。通勤用の自転車で遠出するのも嫌だ。

かくして買い物に出かけるのが嫌になる。嫌になっても必要なものはあるから、いきおいネットで探して購入することになり、隣町の繁華街は貴重なお得意を失って寂れてゆき、僕は運動不足に陥って体を害する。

こうしてひとつの街が滅び、ひとつの命が危機に瀕する。

どうです。大変な事になってしまったでしょう。

道も街も観光地も寺も神社も、もっと自転車に優しくして、みんなで幸せになりましょう。

鎌倉ポタリング

地図:るるぶ情報板『鎌倉⁠⁠ JTBパブリッシング

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スタートは雪ノ下にあるコインパーキング。

最近は最大料金が設定されている時間貸しの駐車場が増えているので、ドライブ&サイクリングのデポジット場所にはもってこいだ。

まずは鎌倉の顔、鶴岡八幡宮を参詣する。

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自転車の置き場にちょっと困ったことは先ほど語ったとおり。ほんとに考えていただきたい問題である。

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鶴岡八幡宮の本宮・宝物殿の入り口に歴代の御神輿がずらりと並んでいる。室町時代の御神輿は今でも祭りに使われているらしい。ここまでは無料で見ることができるから是非覗いていきましょう。

八幡宮を出て切り通しを抜け北へと向かう。

後で知ったのだけれど、この切り通しには旧道があった。巨福呂坂切通といって往事の面影を色濃く残している道だそうだ。担ぎでもいいから通ってみたかった。

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切通の坂を下りきれば右側に、建長寺の総門がでーんと控えている。

どの寺も拝観料を取るから、全部に立ち寄ると結構な金額になってしまう。が、建長寺の大伽藍はお金を払ってでも見ておきたい、と、いいつつ、実は登山コースから入ると無料で見ることができたりする。私らは表から入ったんでお金払わせていただきました。

建長寺で禅の教えをモチーフにした栞を配っていた。表は建長寺の風景や坊さんの写真、裏はいろはにほへと、を頭文字にして禅語が解説してある。全部で24種類あるそうだから、興味のある人はコンプリートしてみてください。お金のかからないお土産にもいいかも。

お次は明月院へ。

鎌倉は初めて、という御仁と同行したので、懐と相談しつつ有名どころは押さえていく。

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明月院はあじさいで有名だが、どうしてどうして、四季を通して花を楽しめる。私たちが言ったときはロウバイが見頃だった。

茶室の丸窓越しに見える庭園も見事な絵でありました。

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JR横須賀線を越えて、北鎌倉駅そばの円覚寺へ。

いや、円覚寺の境内に北鎌倉駅がある、と言った方がいい。ここも建長寺に劣らず大きな寺院だ。

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大きな寺院なのに、自転車の置き場がない(建長寺と明月院には自転車を置くコーナーがありました⁠⁠。

門前に馬をつないでおく訳にはいかないから、あちこち探して、結局はここ。これじゃあ粗大ゴミみたいだ。

境内を一巡りし、開高健や田中絹代の眠る墓地をかすめて、急な階段を登りきると、洪鐘(おおがね)という、まさに大鐘の鐘楼がでーんと境内を見下ろしている。そのすぐ前が弁天堂茶屋。通称・見晴茶屋というだけあって、富士山も出演する佳景をお約束できる。

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飯前にお茶してしまった。

なまじ口にものを入れたら益々お腹がすいてきた。そろそろ飯にしなくてはいけない。

北鎌倉駅前に小説や随筆などにも顔を出す、ちょっと名の知れたいなり寿司のお店『光泉』がある。

あまり量を作らないので昼過ぎだと売り切れていることが多いと聞いていた。

案の定、売り切れてしまっていた、のだが、まだ材料は残っているから待っているなら作ってくれるという。

うはうはと、いなり寿司と海苔巻きの折り詰めを注文。店内で食べることもできるようだけど、この人数で居座るのは気が引けたので持ち帰ることにする(今は店内での飲食はできないそうです。テイクアウトオンリー⁠⁠。

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いなり寿司の折を広げる適当な場所が無く、それではもうひとつの名物を食そうではないか、と、けんちん(建長)汁で有名な『鎌倉五山』ののれんをくぐる。

けんちん汁も炊き込みご飯(紫陽花ご飯)も、野菜しか使っていないお精進なのに、コク、ボリュームとも満点であった。ごま油が効いているのだね。

ここまでは、とても順調にやってきた。

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本日はこのまま順調にいくのかな?と思いきや、そうは問屋が卸さない。

案の定、道を間違えて、源氏山のハイキングコースに迷い込んでしまった。

押して担いで、また押して、源氏山を乗り越えて銭洗い弁天宇賀福神社に辿りつく。

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奮発して五千円札を洗い(奮発といっても持って帰るのだけどね⁠⁠、水神様にも手を合わせ、山を下りきれば交通量の多い市街地に出る。

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長谷の大仏はあいかわらずの大混雑。

早々に引き上げることにする。

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由比ヶ浜に向かう途中でちょっと寄り道をして、坂ノ下の星の井通りにある『力餅家』で、名物・力餅を仕込み、

由比ヶ浜で、先ほどのいなり寿司と一緒に楽しんだ(おわかりだと思うが、いなり寿司の方はずいぶんと食べ進んだ状態であります⁠⁠。

どちらもとってもおすすめの逸品。でも、どちらも日持ちがしないから、お土産にする場合はその日のうちにお召し上がりください。

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日も西に傾きだした。

影が長くなり、海も光を増してきた。

しっかりとしまった砂浜を気分良く走る。

山から海へ。

鎌倉ポタリングの楽しさここに極まる。

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滑川の河口から、若宮大路。

通り沿いの昭和のにおい漂いまくる『丸七商店街』で新鮮な魚を買い込み、魚の入った発泡スチロールを背負い込み。

さらに、小町通りで地ビールや鎌倉ハムを買い込んで、西日の鶴岡八幡宮をもう一度拝観してから、さらにさらに酒屋に寄って地酒を買い、ゆるゆるとドライブで帰路ついたのでした。

お店紹介
弁天茶屋
北鎌倉・円覚寺内
稲荷寿司・光泉
TEL 0467-22-1719
建長汁・鎌倉五山
TEL 0467-25-1476
力餅・力餅屋
TEL 0467-22-0513

心残りが一軒。

ここでホットケーキを食べたかった……売り切れでした。

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イワタコーヒー店
TEL 0467-22-2689
小町通りにあります。

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