[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第二十一回「無料キャンプ場」

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この夏、久しぶりにキャンプをすることが出来た。

子どもが学校に通っているときは毎年欠かさず一週間から二週間くらい、野外宿泊を楽しんでいた。

宿で泊まるのが嫌いなわけではないが、まずチェックイン、チェックアウトが面倒くさい。

1日部屋を専有するために料金を払っているのに、なんで3時まで入れてもらえなくて、翌日は10時に追い出されなくてはいけないのか。見栄えと量ばかりの料理にもうんざりする。何よりも宿代が高くて、家族で一週間も滞在したら1月分の稼ぎが軽くふっとんでいってしまう。

その点、キャンプ場はいい……と、いう話の流れにしたいところだけれど、実のところ最近のキャンプ場ときたら旅館や民宿よりもたちが悪いところが多い。

なんとチェックイン、チェックアウトの時間が決まっている。門限があって、夜になるとゲートを閉めてしまい車が入れなくなるところもある。1家族に駐車場1台分のスペースをあてがって、テント1張り三千円、利用料大人1人二千円、子ども千円、日帰りなら半額、ゴミはすべて持ち帰ってください。花火禁止、ペット禁止、たき火禁止うんぬん……自然の中にお邪魔するのだからルールは大事だけど、これではキャンプではなく、お小言教師つきの移動教室みたくなってしまう。

自分たちで考え、自分で行動を制限することが大事なのだ。

あれれ、なんだか説教くさくなってしまった。

一週間から二週間もの滞在となると、先ほどのような料金体制では予算的に無理だ。

かくしてわが家のキャンプ計画は、無料キャンプ場、を探すところから始まる。

無料……なんというすばらしい響きだろう。

昔から言いますね、ただより安いものはない。

そう、昔から言いますね、ただより高いものはない。

無料キャンプ場に関しては、この格言のどちらも正しい。

ただなのだから、家族で何日滞在してもお金がかからない。

基本的に一つの場所に居を構えているから、二、三日すると、なにやらキャンプ場に住み着いているやつがいるぞ、と町の噂になって、いきつけのお店もできたりして、地元の人と仲良くなって、作物のお裾分けがあったりする。

なによりも人がこない。人がいないから、子どもがころげまわっていても犬が走り回っていてもどこからも苦情がこない。あたりに人家もないから夜中まで騒いでいようと、フクロウが迷惑そうに鳴くくらいだ。

なぜ人がいないのか?

キャンプ場が辿りつくのに困難な場所にあることが多い。大抵、集落を数キロ離れた山のてっぺんや、森の奥にあったりする。脇が深い溝の道路は道幅も狭く街灯も無い。案内看板もとうに朽ちていて判別できない。初めての場所なら夜に到着するスケジュールは避けた方がいい。

無事辿りついても、キャンプサイトの手入れがされていないので、地面がグズグズだったり、道だと思って入り込んだら大きな切り株があって車の前部を思いっきり乗り上げたりする。

トイレはまずぽっとんである。手入れもされていない。トイレ掃除の道具を持参することをお奨めする。

この夏、訪れたサイトはトイレ掃除はゆきとどいていたけど、電気がつかない。昼間でも扉締めて大の用をたす気になれなかった。

おまけに天井を見上げたら、私の大嫌いなカマドウマ(便所コオロギというやつですね)が数百匹、びっしりと群れをなしていた。

トイレがあるだけいい。トイレが朽ち果て、床が抜けそうで恐ろしくて入ることの出来ないところもあった。

水場が無い。新潟のとある山のてっぺんにあったキャンプ場は水場がなかった。いや、無いというわけではない。水場と称する場所には手押しポンプの井戸があり、⁠飲用できません」と大書きしてあった。

人はいないけど、野生動物は多い。

福島の山奥では、夜になると猿がやってきて、テントの上に飛び降りてきた。

伊豆では野犬の群れに食料を全部たいらげられたし、今回は夜、テントの脇の森の中で、何か大きな動物が木から落ちる音がした。

キャンプ場の入り口には「クマ出没中」との看板が出ている。

なんだ、人を脅かすような事ばかり書いて、無料キャンプ場に来るな、とでも言いたげではないか、とのお叱りを受けるかもしれない。

そうなんです。無料キャンプ場は素敵です。素敵なんだけど、人がたくさんいると台無しだから、来ないでほしいのです。

山形県・最上川、寒河江川 林道と峠越え

地図:Pro Atlas X

一日目:西川町・大沼キャンプ場・小柳線~一ツ小柳~北山~楢山~大平~十八才~左沢
二日目:西川町・大沼キャンプ場~国道112号・熊野~国道458号・熊野川沿い~十部一峠~肘折温泉~勝地~JR陸羽西線・古口駅~国道47号・清川~立谷沢川沿い・科沢~羽黒山

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今回の拠点は大沼キャンプ場。ここを根城にして林道や峠を走り回ります。二日間に渡るので、いつもよりボリュームたっぷりになっております。

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一日目はすっかり寝坊してしまい、とりあえずキャンプ場近辺の林道を走ることにしました。林道が有効利用されているようで、地図で見ると周回コースもいくつか設定できるのですが、左沢(あてらざわ)という気になる地名の町に、昔ながらの家並みが残っているといことなので、林道で回り道をしつつ左沢を目指すことにしました。

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キャンプ場を出て、大沼沿いの林道を行きます。大沼の水は、なんかぬるついていて、下の集落にある温泉(月山銘水館・地ビールあります)と同じ水質のようでした。

風のない午前の水面は鏡のようです。

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林道小柳線を辿って楢山までいきます。所々にこの看板が立っていてくれるので安心です。

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地元の人が頻繁に利用しているようで、路面がしっかりしていてとても走りやすい。久々にスピードののるダートの下りを楽しむことが出来ました。

この辺はダートの宝庫で、林道があちこちに枝分かれしています。時間があれば、キャンプ場近辺の林道を全部走ってみたかった。

ただ、枝分かれの案内板は判読不可能なものが多いため、きちんとした地図とコンパスは必需品です。

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しっかりしている、とはいえ、車の轍が雨水に浸食されて、路面がえぐれてしまっている箇所もある。しっかりと前を見て操車しないと痛い目に遭いそう。

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見通しの悪い場所にはカーブミラーも設置されている。それだけ車の通行もあるということ。ハイスピードでダートを楽しめるけどブラインドカーブでは減速して、対向車に備えた方がいい。

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それにしても気分よく走れる林道であることか。あっという間に楢山そして眼下に集落と左沢への道路が見えてきた。もう林道とお別れかと思うとなんだか寂しい。いっそ、左沢での同行者との待ち合わせを止めにして萩の森峠を越え返して林道小山海味線でキャンプ場に戻ろうかな、などと考えたのですが、ここでは携帯電話が通じないのでした。

かくして林道とはお別れ。林道の出口は果樹園で、名産のラフランスがたわわに実っておりました。

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月布川を渡って27号線を左へ。カンカンと照りつけるお日様の下を左沢へと向かいます。

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隣の集落の名前は「十八才⁠⁠。いくつになっても十八才。若さが保てそうな、いつまでも大人になれなそうな幸せな地名ですね。

本日のゴールはこれまた不可思議な地名(というか読めない)の左沢(あてらざわ⁠⁠。駅前に地名の由来のプレートがありました。ちなみに右沢は「かてらざわ」と読むのだそうです。

ここはJR左沢線の終点。12時過ぎに到着した列車の次発は16時過ぎでした。

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駅から最上川沿いの道の駅おおえへ。ここで別行動の同行者と合流。道の駅で一番のおすすめはストレート果汁のリンゴやラフランスのジュース。一升瓶に入って売ってます。

隣接している舟唄温泉で汗を流した後、おしんの名シーン『筏の別れ』が撮影された大明神淵に降りてみました。わたしはおしんを未見なので、感慨深くはなかったけれど、自然のままの淵はなんともおごそかな水の流れをたたえておりました。

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常に行動食を口にしてはいたものの、さすがに腹ぺこです。駅前の老舗・そば処丸五で名物板そばを賞味。これで三人前1500円です。たくあんはデフォルト添付。これまた名物らしいげそ天(どこにいっても売っていた)と野菜の天ぷら盛り合わせは200円。つるりとしたのどごしの良いお蕎麦でした。汁も甘くなく、いけます。

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腹ごなしに左沢の町内を散策です。昔の町並み……といっても、この家くらい。あまり期待してはいけません。なぜか芭蕉の立派なお墓があって、????を連発しつつ、本日は終了。キャンプ場への帰路には何が日本一なのかわからない日本一公園と焼酎も美味しい"とらやワイナリー"があります。お時間のある方は是非お立ち寄りください。

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さて、二日目。今日は酒田方面へ峠を越えていきます。

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サイクリストなら知っている人は知っている"六十里越"という鶴岡へ抜けるコースも選択肢としてあったのですが、十部一峠という名前に惹かれてこのコースを走ることにしました。

キャンプ場の入り口に鎮座する大沼神社に「いってきます」の声を掛けて、西川町の集落へと下ります。

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大沼の下には長沼があり、こちらには水面に浮かぶすばらしい景観の神社があります。本殿にお参りするには船に乗るのが正式なのでしょうね。神事を見てみたいと思います。

国道112号線を東へ。山形自動車道をくぐって熊野川を渡ったらすぐ左折して国道458号線に入ります。112号線沿いにはコンビニもあるので、ここで食料飲料を買い出ししておきましょう。この先は肘折温泉まで販売機もありません。

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458号は国道だけど、どんどん狭くなっていきます。

どんどん狭くなりながら、山中へと続いているものなのです。それでもごくごくたまに対向車がやってくるのはこの先に肘折温泉があるからでしょう。

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こういう山の中を一人で走っていて、ちょっと怖くなるのは、⁠熊出没注意』の看板と、こんな風に道祖神が固まって立っている場所(今回は卒塔婆と新鮮なお花のお供えのおまけ付き⁠⁠。昔からの難所で亡くなった方が多かったのか、老人や子どもの捨て場所だったのか……想像がたくましくなります。

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さあ、やっと十部一峠に着きました。ここまでキャンプ場から30数キロ、ずっと登り。見晴らしがいいわけでもなんでもない、山の十字路でした。おまけに雨が降り出します。

楽しいダートの下りだああ、と、言いたいところですが、だんだんと雨脚が強くなります。ここでカメラを収納せざるを得なくて写っていないけれど、路面は川のようになって目を開けて前を見ているのもつらい降りになりました。こうなるとダートの下りの怖いこと怖いこと。

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標高がかなり下がり、森の中にはいると雨脚も一段落。空が明るくなって、林道は緑の回廊になりました。

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まるでアマゾンのような川の向こうに小さく肘折温泉街が見えています。

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肘折温泉は全国的に有名な秘湯なのだ、と後で温泉好きの同行者が教えてくれました。

このときは全身ずぶ濡れでそれどころじゃありません。本当は暖かいお蕎麦でもたぐりたかった。しかしこのなりじゃお店にはいることも出来ず。川沿いのベンチでコンビニおにぎりの残りを寂しく平らげました。

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肘折温泉から57号線にのって、もうひとつ山を越え陸羽西線の駅を目指します。この道は国道よりもずっと立派。車で温泉に来るならこの道の方がいいな。

と思いきや、またしても道はどんどん狭くなり、終いには高原の向こうでつきてしまうのではないか、と疑りたくなりました。

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そんな疑り深い男に「どうだ、まいったか」と言わんばかりに、下りにはいると、急に道が立派になって、空までが、ずどんと晴れてきました。夏の熱気がぶわっと襲ってきます。ずぶ濡れだった服もみるみる乾いて、もう爽快快感高揚感。大声で歌を歌いながら一気に下っていきます。

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三ッ沢の集落を過ぎると、彼方に鉄橋が!陸羽西線です。

うん、服もすっかり乾いたし、気分良くゴールできそうです。

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最上川沿いの国道47号線に出ました。角川橋から陸羽西線の鉄橋越しに先ほど下ってきた角川沿いの道を望みます。

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さあ、本日のゴール古口駅です。ここまで80km弱。暑さもピーク。販売機のドリンクが幸せです。この近くの道の駅・とざわで同行者と合流するべく連絡入れます。

が、なんとまだキャンプ場を出発したばかりとのこと、ええええええ、これから羽黒山に向かうから、そっち方面に走ってきてね、だとお。

頭の中に鳴り響く『男達のメロディ』を道連れにして、陸羽西線と最上川にはさまれた47号を酒田方面へ激走します。

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トラック多いです。あちこち工事中で片側通行です。警備の方が自転車の私のために対向車を止めてくれるので、結構長い工事区間をダッシュで通行しなくていけません。登りのダッシュはつらいです。インターバル練習しているような走りを繰り返して、

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清川で47号線と別れて立川羽黒山線に入りました。清川は幕末の志士・清河八郎の出身地。新撰組がらみであまり人気のない方だけど地元ではどうなのでしょうか。記念館が気にはなるところですが、ここから羽黒山までまだ15kmあるとの表示。同行者からの連絡をちょっと心待ちにしつつ立谷川を遡上していきます。

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予定外の走りにもはやクタクタ。田んぼの畦道に腰を掛けて、最後の携帯食を口に放り込みました。清河から13km走ってきたので羽黒山まで後2kmです。もはやお迎えを期待せず、羽黒山で合流しよう!もうひとふんばり!

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のはずが、角を曲がったとたんそこに「羽黒山まで6km」とある。なんじゃいこりゃあ、わめくまもなく道はぐいぐいと登りにかかります。

もはや意識が飛んでます。

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ふと気づけば、下りにかかる右手になにやら有料道路の入り口が。⁠羽黒山自動車道⁠⁠。⁠ええ!」いつのまにやら羽黒山を登っていたのですね。ここまできたら山頂まで行きたいなあ。でも自転車は通行不可、歩行者もダメ。ちょっとムッとしつつホッとして出羽三山神社の入り口に向かって一気に下りです。

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出羽三山神社の入り口です。

自転車を石碑の脇に停めようとしていたら、鳥居横の社務舎の中にいるお姉さんとばっちり目が合いました。⁠ダメですか、ここ」と、目線で聞くと、にっこり頷いてくれたのでいい方に解釈して駐輪しました。

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山頂は無理でも五重塔だけでも拝見していこうと境内へ。山門をくぐったとたん、空気が変わります。荘厳な雰囲気とはこういうことをいうのでしょう。

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平将門が建立したという国宝の五重塔。下から見ても軒がまっすぐに揃うよう、上層にいくに従って大きく作られているのだそうです。

ぽかんと口を開けて感心していたら、携帯電話が鳴り響きました。同行者です。⁠今どこ?」⁠五重塔」⁠こっちも今、山頂から五重塔まで降りてきたところ⁠⁠。振り返ると携帯電話を片手に手を振っていました。

はあああ、やっと本日の旅程終了です。これも出羽三山のお引き合わせ。ありがたく手を合わせて、同行者の車に自転車を積み込んでキャンプサイトへ。

おまけ

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翌日は帰京の日。

鶴岡の町を散策しました。見所、食事どころ満載の中で目についたのはこの建物。鶴岡公園にある大宝館。

どうみてもシャア専用ザクが埋め込まれているようにしか見えません。

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お台場ガンダムとバトルさせたいなあ。

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