[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第二十九回「能登へ」

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この夏、初めて能登半島へ行った。

前々から行きたい行きたいと思ってはいた。しかし自転車仲間の先輩に「夏の能登は地獄のような暑さだ」と、聞かされていたので、一応避暑目的で旅行に出かける身としてはなんとなく避けてきたのである。

当初、能登半島は頭の隅にも浮かばず、群馬・吹割の滝近辺のキャンプ場に滞在する予定で準備していた。出発が近づき地元の情報を集めてみると、この度の震災でキャンプ場への道が崩落し、吹割の滝遊歩道も一部が通行不可になっているという。

休暇の直前まで迷ったが復旧のメドがたたないという。

結果、思い出したように(出したんだけど)⁠では、能登へ行こうじゃあないか」ということになった。

自転車での移動を考えると、周回コースのとりやすい能登半島の先端部に拠点を置きたかったのだが、ネットで調べた限りでは石川県内に腰を落ち着ける気になるキャンプサイト(希望は無料、有料でも納得のいく料金でゆったりとしていそうなところ)を見つけることが出来なかった。

富山県で検索し直してみる。おお、結構あちこちに無料キャンプ場がある!

そんな中、お眼鏡にかなったのは能登半島の付け根に近い東海岸沿いの雨晴海岸キャンプ場。海に近く、温泉場もある。となりは富山湾の幸で有名な氷見漁港であるから、当然海の幸も期待できるだろう。

さらに探していくと、雨晴海岸キャンプ場の近くの山上、市営の休暇村内にも無料キャンプ場をみつけた。

海岸のキャンプ場は暑い上に、日中は海水浴の日帰りキャンプ客でにぎわうに違いない。それにくらべてこちらは町外れの山の上、ここならば人は少ないに違いない、おまけにここは同じ敷地内の施設に温泉大浴場もある。

私たちを呼んでいるのはこのキャンプ場だ。

八月の頭、呼び声に応えるべく中央道、長野道、北陸道をつないで能登半島へ上陸?した。

先人の言葉に嘘はない、能登は死ぬほど暑かった。

道の駅カモンパーク新湊で車を降りると熱気が身体を包む。じっとしていても皮膚の表面からジワジワと水分が蒸発していくのがわかる。汗がすぐ塩になって顔に張り付く。

「これは聞きしにまさる、だな」

夏の空を仰ぎ、この暑さと真っ向から取り組み、組み伏せられつつ倒れない程度にはしゃごう、そう決意する。

道の駅には立派な水槽があり、目の前の海でとれる魚たちが優雅に泳いでいた。生きたままの展示が難しい白海老も半死半生ながらキンキンに冷やされた専用水槽の中を漂っている。⁠美味しいのよ」といいたげな彼らの媚態に卑しくも舌が踊る、いやが上にも海の幸に対する期待が膨らむ。

道の駅でとりあえずの肴用特産品を買い込み山上のキャンプ場に向かう。

無料キャンプ場は大抵、大変不自由な場所にあり、アプローチの道路状況も夜間走行には適さない場合が多い。暗くなってからの車での移動は避けたほうが賢明だ。日のある内にテントやタープの設営を終え、生鮮食品や冷えたビールなどの買い物を済ませ、入浴も終えておきたい。

幸い、これから向かう高岡市自然休養村野営場は、すぐ隣の高岡市自然休養公社アッパレハウスという実に天晴れな施設の大浴場を利用することが出来るので入浴の際、車の世話になることはない。

しかし、暗くなる前にテントを設営しておくに越したことはない。

山の上といっても、海岸線からすこし内陸にはいるだけで大浴場からは富山湾を望むことが出来るらしい。

地図を読み違えて田んぼの畦道に迷い込んだりしつつ、いきなり標高をあげる急坂勾配をグイグイ押し上がって高岡市自然休養村に着いた。

緩やかな斜面にアッパレハウスやゲートボール場などがでんと建っている。でも肝心のテントサイトがない。

そうか、無料なんだからもっと奥まったところにあるのに違いない。

しかし、こういった時、ずんずん車で入っていくと、道が狭まった上、どんづまって決死のバック走行でしか脱出できない泥沼にはまる可能性がある。

こんなときは億劫がらず、脚で偵察するに限る。

道は正面に向かう舗装路と右に入るダートの林道の2本。

まずは正面に続いている先細りの車道を走る。道はすぐに下り坂になる。この幅ならすれ違いはしんどいが車の通行はラクラク。いいサイトを期待しつつどんどん降りていったら、山が尽きて反対側の集落に出てしまった。

えっちらおっちらと車の場所まで昇り返す。ではこちらの林道の先なのかと、車ではちょっとひるむようなダートに入ってみた。

徐々に狭まっていく尾根道をいくこと数分、たとえこの先にテントサイトがあったとしても、車で行くのは自殺行為だと判断して引き返す。途中にあった分岐も偵察してみる。分岐の先は数百メートルで眼下にある池への階段になっていた。池の畔にサイトがあるのか、そう思い階段を下りかけると、どうみても毒々しい三角頭の蛇がのた?っと行く手を塞いでいる。

先に進む気が失せ、車に戻った。

その間、身体より頭を使うことに長けた相方はアッパレハウスの職員にテントサイトの位置を確認しに行っていた。

最初からそうすればよかったんだけど、頭より身体が先に動いてしまう愚か者は、下着まで汗でぐっしょりになり、頭を蜘蛛の巣だらけにしないと気が済まない。

気が済んだところで、テントサイトの位置はというと……

なんと施設の目の前にあるサツマイモ畑がそれであった。

テントサイトを作っては見たものの、あまりにも人が来ないので、耕して芋を植えてしまったのである。

青々と茂った芋のツルを眺めつつ「芋畑の脇にテントを張りたい」とつぶやいた。

その願いは叶わず「ごめんねえ。でもお風呂は誰でも入れるから入りに来てねえ」というアッパレハウスの職員さんに見送られ、西日の中を海岸の無料キャンプ場へと車を走らせる。

次回へ続く

能登半島富山湾・有磯海から七尾南湾沿いを走る

地図:ツーリングマップル中部 旺文社

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さあ、能登半島にやってきました。

スタートは富山県・高岡市 雨晴海岸キャンプ場

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諸々問題はあれ、目の前が海、砂浜にあるキャンプ場です。

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目指すは七尾南湾の入口・小口瀬戸につき出した観音崎。そのまた突端にある観音島です。地図で見つけた時「行きたい!」と思いました。

まずはキャンプと海の間の遊歩道を辿って隣の島尾海水浴場まで行くことが出来ます。

道が尽きたので左折して舗装路へ。このあたりは海浜植物園になっています。ハマナスの実が美味しそうに実っていました。北海道に行くとこいつでジャムを作っていますが、ここいらでは食べないのかな。土産物屋でもハマナスを使った加工品は見かけませんでした。

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正面に氷見漁港が見えてきました。氷見といえば寒ブリで有名。何故か我が家の近所にも氷見直送の魚屋があるので親しみを感じます。

忍者ハットリ君も氷見の名物だったのですね。氷見線にはハットリ君列車も走っています(藤子不二雄(A)が氷見の出身だとのこと⁠⁠。

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半島を走る楽しみはこれから行く岬が順番に目の前に現れること。

見えているのは城ヶ崎です。

国道16号を北上します。大泊鼻の少し手前が県境です。ここから石川県七尾市大泊町に入りました。

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高山湾、佐々波湾と小さな漁港が続きます。

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庵町にある「道の駅いおり」です。

氷見を出てからここまで、自動販売機以外に飲食物を購入できるお店に一軒も出会いませんでした(氷見の町外れにあるデイリーヤマザキが最後⁠⁠。この先も七尾市街にはいるまで、まともに飲食できるお店に出会いません。ここがきちんとした食事の出来るラストチャンスです。

なんてことはこのときは知らず、写真を撮って通過してしまいました。

百海町で内陸部に向かう160号と別れ、海沿いの県道246号に入ります。

246号に入ってすぐのところに白鳥という集落がありました。海沿いに点在する能登の町並みは人をホッとさせてくれる佇まいをしています。

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海岸線ぎりぎりまで田んぼです。狭い土地で暮らしていく厳しさを感じます。

田んぼの先は切り立った崖。灘浦の海面はどこまでも透明です。

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綺麗な海沿いを蒼い岬を目指して軽快にアップダウン。

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していたらドン詰まってしまいました。

どん詰まりの集落は大野木町です。

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一度海沿いを離れます。

一本内陸にはいるだけで、海が近くにあるとは思えないような田園風景が広がります。

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中浦の分岐を右折します。左が七尾市街で、右に行くと鹿渡島です。

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分岐してすぐ、川尻の集落で海沿いに戻ります。

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鵜浦海水浴場を経て、道は岬の反対側、小口瀬戸沿いにでます。

この海沿いに出る道が狭くなっているため「おいおいいいのか?」と思うでしょうが、いいのです。途中オートバイで追い抜いていった二人組はそこであきらめたように引き返していきました。

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異様に綺麗な公衆トイレが現れたら……そこはもう観音崎

トイレの裏に観音島がポカンと浮いています。

島へ渡る道はコンクリートで固めた岩場の上の一本道。

人っ子ひとりいません。

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何かが潜んでいそうな気配がたっぷりの観音島。

観音堂の前を通って島を一周する遊歩道が草ぼうぼうながら整備されていました。鬼太郎の下駄の音が聞こえてきそうです。

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一本橋?を渡って、最後にもう一度振り返ります。

なんともいえないこのお姿。

能登に行く機会があったら、是非とも訪ねてみてください。

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と、ルンルン走ってきたように書いていますが、この時点で空腹が頂点に達していました。

海沿いの集落を走るのだから食べものには事欠くまい、なぞという甘い考えで走っていたのが原因です。

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何でもいいから液体以外のものを口にしたい。よろよろと鹿戸島のバス停まで戻ります。行く時には気づかなかったのですが、角にお豆腐屋さんがありました。

そしてそこではかき氷も販売していたのです。

ありがとう!豆腐屋のおばちゃん!

水が固体化したしただけで腹に入れば同じとはいうものの、何かを噛む、という行為だけで涙が出ます。

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ワシワシとかき氷をほおばっていたら、真っ黒に日焼けした男の子が「こんにちは!」と元気な声で挨拶をしてくれました。

重ねてありがとう!!

かき氷と挨拶でカラ元気100倍です。

海沿いとは思えない豊かな水をたたえた用水路と田んぼ広がる鵜浦町に別れを告げて、246号線で岬を越えます

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一山越えれば目の前は七尾南湾。

正面左手が能登半島、右手が能登島。小さくてわかりにくいけど真ん中に屏風瀬戸にかかる能登島大橋が見えています。

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再び国道160号線に合流し、火力発電所、貯木場を通り過ぎ

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七尾市街に入ってきました。

ここまでくれば食い物屋に困りません。

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観光施設にうまいもの無し、と知りつつも、色々悩んでいる腹具合ではないので七尾マリンパークにある七尾フィッシャーマンズ・ワーフ能登食品市場でかなり遅めの食事をとり、本日はここを終点に決めました。

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今回の旅のお伴は、太陽光発電つきのバッテリー・スマートフォン対応。

なんせスマートフォンはバッテリー消費が激しいので、予備電源は欠かせません。走行中も充電出来きるよう、ビニル袋に入れてフロントバックの上にのせて走りました。

こいつは、役にたちましたよお。

次回は能登半島編その2・能登島を一周します。

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