本当の真っ暗闇を体験したことはありますか。
闇と言えば,
夜は確かに暗い。しかし,
家の近所に畑の脇を抜ける細い道がある。片側は斜面で林,
キャンプに出かけると,
夜というのは
記憶の中に不思議な暗闇がある。
子どもの頃
急ぎ足で山すその道を家に向かっている途中,
それでも覚えているあの闇は本当に真っ暗だった。
おもわず動きが止まってしまった闇の中で,
性格もあまりいい奴では無かったような……そのあたりは忘れたけど,
山裾の暗がりとそこにぽっかりと浮かぶ子鬼が記憶の中に黒々とした闇として残っている。
真の闇を実体験したのは善光寺のお戒壇巡りだ。
お戒壇巡りは,
指の先も見えない真っ暗闇なので,
阿武隈の入水鍾乳洞も,
闇を体験したければ洞窟の一番奥までガイドが案内してくれる
懐中電灯の明かりを頼りに,
ガイドがコースの途中で
善光寺にしても入水鍾乳洞しても
いままでで一番恐ろしかったのは,
犬越路は神奈川の丹沢湖から津久井方面へと抜ける古道である。武田信玄が小田原攻めの時に犬に先導させてここを越えた故事にならってこの名がつけられたというが定かではない。
峠から津久井方面に向かって下る林道の途中にそのトンネルはあった。
荒れ気味のダートを軽快に下っていくと,
とたん,
一瞬にして視界が奪われ,
頭の中は恐怖で満たされてしまった。
冷静な判断ができず,
「大きな穴が開いているかも知れない」
「大きな石があるかも知れない」
「ともかくなんかあるかも知れない」
止まれ止まれ!
予想していなかったいきなりの
空気とは思えない圧迫感があり,
トンネルを抜けて,
今はそんな闇に出会うことはない。闇の中でぽつんと木の枝に座っていた子鬼を見ることもなくなった。
それでも闇はある。
時にはお金を払ってでも真っ暗闇を体験してみるのも一興だと思う。