漫画から学ぶマネジメント

第1回『蒼天航路』曹操に学ぶタレント活用のマネジメント

漫画から学ぶこと

本コラムは、漫画で描かれていることからマネジメントの参考となるケースを学んでいくという趣旨で執筆していきます。マネジメントの書籍を読んだり、知識をインプットしたうえで漫画を読んでいると、⁠これはマネジメントに通ずるものでは……」と気が付いたりして、その漫画で描かれているユースケースから、よりマネジメントの理解が深まっていくことがあります。本連載では、僕がいままでそういった経験をした漫画から、どういった場面をどうマネジメントに重ねて理解したかが伝わるような内容で執筆していきます。みなさんには、より身近にマネジメントのヒントがあることを感じてもらえると幸いです。

第1回にあたる今回は、⁠蒼天航路』曹操そうそうという人物に焦点を当てて「タレント活用のマネジメント」を話していきます。

『蒼天航路』曹操とは?

後漢末期の中国にて曹操は生まれました。彼は裕福な家の出ではあり、その家の私財をもって、小さな一武将として挙兵をします。そして、優秀な人材を採用/育成し活躍させるしくみを作り、周囲の強豪や強国を策をもって打ち破り、結果、⁠魏」という国を建国。曹操の代で国の基礎を固め、息子の曹丕そうひの代では安定した国として統治できる土台となりました。

そんな曹操は三國志という物語の中では悪役として描かれることが多かったですが、近年では彼の功績が見なおされており、この『蒼天航路』という漫画では軍略家/政治家/詩人/兵法家など多面な実績を残している人物として描かれています。

中でも彼は優秀な人材に関しては異常なまでの関心と執着があり、たとえ敵国の武将でも自分の眼鏡にかなう人物であれば味方に引き込もうとします。そしてそういった人材には重要な役職や役割を与え、チャレンジを課します。そうやって曹操の周りにいる人物たちがより成長し、組織自体も強くなっていくのです。ここには曹操のタレント活用のマネジメントから学べることがあります。

そこでいくつかこの漫画でのそういったシーンを取り上げて説明します。

(1)人の強みを活かすことを追い求めた

単行本26巻で曹操は「唯才」と唱え、何かに秀でた才能があればその人物の地位や家柄、人格や過去にも拘らないと言い「求賢令」を発します。乱れた世の中を立て直すのに国や社会の役に立つのであれば、組織の重要な役割を与え、その人材を重用していくという考えが国における人材の採用基準となったのです。これは当時の中国で浸透していた「儒教」が大事にしていた人格や道徳観を重視するいうのとは真逆の考え方でした。曹操は儒教の考えを無視して、実力主義の人材を登用していったのです。

当然このような行いは大きな波紋を生みました。その時代の世の有力者たちは儒教の人でもあったからです。当然曹操の配下の人物もそれに多く含まれます。それでも曹操は人の強みを第一としました。そうでもしないと、自分が目指す成果を出すことには及ばないと考えたのでしょう。

強敵に立ち向かう際や組織が困難に陥っている状況の場合、特出した強みを持った人物が状況を一変させることがあります。そして多くの人の強みを組み合わせることで、成功の確度が上がります。それが戦の才能のみであらず、農業や建設、医術といったあらゆる才能を活かすことで豊かに人生を送れる人が増えたり、人が長生きできたりして、モチベーション高く国が栄えることにもつながっていくでしょう。これこそが曹操の狙いで、そのために多くの才能を認め、その才能たちがコラボレーションを生み出すことが、これからの時代で生き残る国の在り方だと思って信じていたように感じます。まさに新進気鋭のベンチャーにおいては、とるべき一つのマネジメント手法としての学びがあります。

(2)学問として体系化し、一般教養として広めることを求めた

26巻~27巻には、三国時代の名医であった華佗かだという人物と曹操の話が描かれています。華佗とは三國志の物語中でも有名な医師で、麻酔を発明し外科手術などを行った伝説級の名医だと言われています。

『蒼天航路』で描かれた彼も儒教の人でした。そのため医学は一子相伝としており、書物に記して万人に伝えるものではないという考え方を持っていました。医学が万人に扱えるようになると、道徳観のない人たちの手に渡り、悪用されるリスクを恐れていたからです。これは儒教の考え方としては正しいのかもしれません。しかしそれが曹操の「唯才」の考え方と対立します。

曹操は「悪用するなら法で縛ればよい」という考えのもと、華佗に対して書にして記せと迫ります。しかし華佗は曹操からの申し出を断り、投獄されます。結果として、華佗は書に記すことはなかったものの、華佗の弟子やほかの医師などによって、これ以降中国医術が記述によって体系立てられ、学問の段階に入るきっかけを曹操が作ったというエピソードにつながっていきます。

才能よりも人格や道徳観が重んじられる儒教が広く浸透している世の中にとって、曹操のやっていることはその時代の中で非常識と言われる行動でしょう。ですが、医療が学問として体系的に学べるしくみができあがると、高い技術を持った医師が増えることにもつながり、より多くの人の命を救える世の中になるでしょう。それは戦で活躍する優秀な人材を失うリスクが減り、戦以外の場でもより長く元気に活躍する人が増えるといったことが起こり、国の繁栄へとつながっていくのです。学問として誰でも学べるOpen&Fairnessな環境を作ることで、より多くの人の才能が開花することにつながりタレント人材を生み出すしくみとする、それが曹操のマネジメント手法の一つなのです。

身近に置き換えてみると、よく組織において優秀な一人の人物が同じ役割をこなしていると属人化という現象が起こりますが、その人物が育成にも回れるようなしくみを作り上げることで、より大きな成果を狙える組織へと成長するでしょう。

『蒼天航路』の曹操が教えてくれること

いかがだったでしょうか? 今回は『蒼天航路』から曹操のタレント活用のマネジメントにおける場面からの学びをお話ししました。

停滞している場面や勝率の低い場面では、当たり前になっていることやセオリーを疑い、波紋を起こしてでも変化を生んでいくことで、窮地を脱する可能性が高まります。

そのように逆境に立たされている場面から、今までにないより大きな成果を狙うにあたってのマネジメントのケースとして、⁠蒼天航路』で描かれている曹操の生きざまからは学べるところが多く、筆者のバイブルともなっています。

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