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第16回GTDの生みの親 David Allenさんインタビュー特別編(4)Web2.0とiPhone時代のGTD

新しい時代の新しい仕事術として急速にうけいれられたGetting Things Doneですが、その生みの親であるDavid Allenさんに会ってお話をうかがう前から、私には一つ気になっていたことがありました。

それはGTDが登場して数年がたち、その間に私たちの周囲がめざましく変化してきたことについてです。いまでは世界中のほとんどどこにいても携帯電話で連絡を受けることが可能ですし、インターネットを通じてメールも、カレンダーも、ドキュメントも、どこにでもオフィスを持ち歩けます。

言うなればこのWeb2.0とiPhoneに代表される時代には、GTDの本に書かれていた「オフィス」とか「家」といったコンテキストの厳密な境界は消えつつあるのではないでしょうか?

今回はそんな疑問から語り起こされる「今の時代とGTD」の話題についてご紹介します。途中からDavid Allenさんの奥様、Kathryn Allenさんも参加されています。

「フォーカスの場」をつくる

David Allen(以下、DA⁠⁠:
⁠私の次の本には『注意を引いているものに注意をしないと、さらに多くの注意(アテンション)を浪費する』と題した章があって、それはGTDを続けるにあたってとても大事なことなんだ」

「GTDでは長期的な人生にかかわるタスクが特に日常のものよりも『重要』とは考えてはいないんだ。⁠空を飛ぶ』という目的から考えたら、離発着はつまらないことに思えるかもしれないけど、そうした日常の細かいことが適切に処理されていないと、いってみればランディング・ギアが出ない状態で飛んでいるようなもので、遠からず心配でたまらなくなってしまうはずだからね」

(以下、MH⁠⁠:
⁠そのアテンションについて質問があるのです。いまはどこにいてもユビキタスにインターネットに接続できて、携帯電話で常につながっていられる時代です。あなたがGTDの本を執筆されてから今までの技術の進歩で、最初は明確だった『職場』『家』との間の境目が消えて、常に割り込みが生じる現状があるような気がしてなりません。このことについてGTDではどのように対応すればいいとお考えですか?」

DA:
⁠一言でいうなら、それは単に『何に注目をしているのか』という話にすぎないんじゃないのかな?たとえば携帯があれば、君はいまオフィスで書類を書いている最中にも友達に電話できる能力を得たわけだけれども、はたしてそれが一番やりたいこと・やるべきことなんだろうか?」

「君の周囲には壁の色から、空気のにおいまで、注意を向けることのできるものは無限にある。携帯やネットだってそれと同じだ。この場でとることのできる行動を増やしてはいるけれども、君自身にとってそれがどんな意味をもっているのかということさえはっきりさせておけば、無に等しいのさ」

MH:
⁠自分は今やっていることに対する割り込みにどこまで耐えられるのか、どんな割り込みを許すのかという『選択』の問題におちつくということですね」

DA:
⁠もちろんそれは状況にもよる。このビルがいま非常に激しく揺れたとするなら、私は今は気にとめていない建物の構造だとか、壁の堅さについてとても気にし始めるはずだ。ビルの揺れが、強制的に私の周囲にある情報をある方向性に向けてフィルタリングしたわけなのだよ。災害に見舞われるとかえって心が落ち着いて行動できるということがあるけれども、それはふだんに比べて情報があらかじめフィルタリングされていて、考えるべき事が非常に限定されるからなんだ」

「それと同じで、GTDの『コンテキスト』という考え方はこうしたフィルターのように機能してくれるんだ。携帯もネットも含めて、対応できることが無限にあるなかで『いま』⁠ここで』⁠この状況で』やりたい・やるべきと考えていることだけに集中できる仕組みをつくろうということなのだよ」

「でもそれを本当に実行するのは、君自身でしかない。その点だけはどんな自己開発セミナーに行っても同じさ。だからGTDでは相手をしなければいけないタスクをフィルターして減らすことで、実行にむけたハードルを低くしているんだ」

左から、David Allenさん、堀 E. 正岳さん
左から、David Allenさん、堀 E. 正岳さん

新しいテクノロジーは新しい「問題」「挑戦」を明らかにした

Kathryn Allen(以下、KA⁠⁠:
⁠堀さんの質問は私にも興味深いわ。つまり携帯電話やネットは、リアルタイムに人をつないでいるけれども、そのせいで人は外からの割り込みに『ノー』といえなくなりつつあるということよね?」

MH:
⁠そうです。つい先日も、携帯メールへの返事が5分以内にこないと不安を感じ始める子供が多いとか、夜に眠るときにも『最後に返事をせずに眠った人』にならないようにするためにメールを打ち続ける子供がいるという研究が発表されていて、とても不安になりました。こうした機械は私たちに力を与えてくれるはずが、逆にストレスを生み出し、自由意志を奪っているのではないかと思うのです」

KA:
⁠でも面白いのは、こうしたデバイスは、その子供たちの『つながりたい』という欲求をさらに引き出しているということよ。つまり携帯それ自体は無実で、それは私たちの社会の中にあるもっと深い欲求や問題を引き出したに過ぎないのではないかしら。この違いを意識することはとても大事で、単にツールを責めるのは問題に対する間違った対処になりかねないわ」

MH:
⁠お察しの通り、日本でも子供が携帯を使うことを制限すべきか議論があります…」

DA:
⁠そしてアメリカの大企業では『金曜日は電子メール禁止』の日を作ったところもあるよ、おかしいだろう?(笑⁠⁠」

「ある意味、テクノロジーは私たちの神経システムを文化レベルでアップグレードしているといってもいいのかもしれない。進化の過程では、よりレスポンスの早い神経システムを手に入れた動物が食物連鎖の中で高い場所を獲得していったわけだけれども、そうなると今度はそれまで気がつかなかったたくさんのことが意識のなかに入るようになってしまうんだ。子供たちが感じている承認欲求の問題や、自信がもてないという問題も、携帯メールなどを通して初めて意識されるようになったものなのかもしれないね」

「メールで気が散ってしまって仕事に集中できないという人も同じだと言っていいだろう。それは本人の集中力の問題なのか、会社のなかのチームに内在する問題なのか、文化が直面している問題なのか、私にはわからない。ただ、メールそれ自体が問題というわけではないのだよ。GTDと同じで、メールはツールに過ぎないからね」

MH:
⁠DavidさんがGTDの基本コンセプトを子供時代から教育させたいとおっしゃっていた気持ちがわかります。フォーカスをもった考え方をはぐくむためにも、私もそれに賛成ですね」

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この会話の収穫は、ネットが進化し、⁠職場」「家」というコンテキストが消えたように見えたとしても、実際にはそれを選び取っているのは自分自身であるという意見を引き出せた点でした。

反面、ツールの側からやってくる情報やタスクの氾濫から身を守るために必要なのはGTDのような「仕事術」なのではなく、自分が「いま」⁠この場所で」何を引き受けるつもりなのかを選ぶ、明確な意志の力なのだということを諭された形となりました。

友達から認められたいという欲求で携帯メールに中毒となる子供がいるのと同じように、社会的承認を求めて私たちは限度を越えたタスクを引き受けてはいないでしょうか? それがGTDで処理できるレベルを越えているのなら、問題はGTDの方にあるのではなく、私たち自身の仕事のあり方の側にあるのかもしれません。

さてインタビュー最終回の次回は、世界と日本におけるGTDの広がり、そして価値観ベースの他の仕事術と行動ベースの仕事術であるGTDの比較という話題に切り込んでいきます。

インタビュー最終回もお楽しみに、Happy Lifehacking!

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