気がついたら最終回を過ぎていた!
- 「そろそろ最終回なので、まとめに入ってください。」
担当編集者の傳智之さんからそう言われて、「ああ、そうだった、『10回をめどに連載しましょう』という話だった」という事実をすっかり忘れていたことに気が付きました。
ということで、この連載も今回でいったん終了です。ダラダラと「エンジニア採用はなぜ難しいのか」を論じてきましたが、今日はその本質のようなものを整理して、有終の美を飾ってみたいと思います。
「すべての能力がそろったエンジニアを安く採用したい」のは当然として、それ相応の処遇ができるのか?
エンジニア採用の難しさは、かんたんに言うと「採用する側、される側、お互いのないものねだり」に尽きてしまいます。
採用する企業サイドは、エンジニアが採れないと承知しているにもかかわらず、スキルだけでなく、人柄やコミュニケーション能力、向上心や企業へのロイヤリティなど、そのすべての面において条件を満たしている人を欲しがります。もちろん、そのすべてがそろっている人がいれば良いのですが、そういう人はなかなかいないし、いてもコストがかかります。要は、高い報酬や、それなりのポストも必要になるわけです。
しかし、ここに1つ目の気がつきにくい大きな山があります。企業の欲しい条件が満たされている人の多くは、一定レベルの役職や職務に就いている人なのですが、企業はその人たちをできるだけ安い価格や、低い役職で調達しようとします。
いや、この書き方は正しくありません。用意しているポジションに対して、要求する条件が高いという感じでしょうか。もちろん、その人たちが、成長し、そのうちその企業で然るべきポジションに就くことを想定して、「ある程度の能力がないと困る」という判断なのですが、先を見すぎています。
いまの時代、自分と同じくらいの能力を持っている人たちが、ほかの企業でどの程度の処遇を受けているのか、少し調べれば一目瞭然です。その相場観と自社の懐事情をすりあわせることなく、どちらか一方を押し付けてしまったら、採用できないのも当然です。
逆に、この感覚がずれている企業は、自社のエンジニアに対しても、それ相応の処遇ができていないことが容易に想像できます。したがって、「気がついたらエンジニアが流失し始めている」という惨事が起こってしまいかねません。
「他社は他社、自社は自社」という考えでも良いとは思います。ですが、「自社にエンジニアを惹き付けて離さない絶対的な魅力がある」という場合を除いては、やはり他社を横目でみながら、自社のエンジニアに対して、遜色ない処遇をすることが大切です。
同時に、「(将来)求めたい能力」と「(いま必要な)持っていてほしい能力」を整理して、採用の際の要件を再定義しないと、いつまでたっても、最初の山は超えられないのです。
「エンジニアが転職市場からいなくなっている」という山を乗り越えるには
もう1つの山は、「エンジニアは転職市場から枯渇しはじめている」という事実です。
「転職市場にエンジニアがいなくなりつつある」ということを、人材関係の会社から、耳にタコができるほど聞かされている採用担当者は少なくないでしょう。1つ目の山、つまり、「優秀なエンジニアを安く採用したい(よく考えれば当然のことなのですが)」という流れに飲まれてしまって、なかなか転職が決まらないエンジニアにしてみれば「売り手市場の実感ゼロだよ」というお叱りの声も聞こえてきそうですが、データ上ではそうなっています。
企業の採用担当者に話を聞いても「人材斡旋会社に依頼しても、まったく推薦が挙がってこない」「募集しても応募がない」「来ても箸にも棒にもかからない人が多い」という声ばかり。「だから妥協して採用」という発想は、当たり前ですが、あり得ないですよね。
そこで採用担当者は、頭を少しひねって、この山を乗り越える必要があります。そう、いままでのやり方を脱却するしかないのです。
まずは、自社の常識を疑ってみることから始めると良いでしょう。
たとえば、エンジニアは正社員でなくてはならないのか。雇用形態を見直せば、別のリソースからエンジニアを調達できる可能性も出てきます。
「学歴や職歴は重要なのか」という見直しも必要でしょう。もしかしたら、大学に在学しているエンジニアが、自社にとって必要な人材かもしれません。通学しながら働いてもらう環境を用意することで、「エンジニアが不足している」という問題はかんたんに解決できるかもしれないのです。
従来の「求人」という仕組みそのものを見直す必要もあるでしょう。「転職市場にエンジニアがいない」からといって、世の中からエンジニアが消えているわけではありません(当たり前ですね!)。ただ、そのエンジニアたちと、自社に接点がない理由を、キチンと考えるべきです。出会いがないからといって、ジッと待っているという姿勢では、エンジニアを捕まえる(だんだん肉食系な話になってきました)ことはできません。
1回やって「うまくいきませんでした」で終わってしまえば、ダメに決まってる
- 「エンジニアにとって魅力のある企業かどうか客観視せよ!」
こういう話をすると、次のような声を採用担当者から聞くことが少なくありません。
「自社のエンジニアたちには、積極的に周囲のエンジニアに声をかけるように言っています。あと、技術などの勉強会もやっているのですが、芳しくありません。」
厳しい話をすると、「どうして振り返りをしないのかな」と、いつも思います。1回やってうまくいきませんでした、って、「それではダメだろう」という感じでしょうか。継続してやることで、問題点も出てきますし、解決策もトライすることができるはずです。しかし、やってみた⇒人が集まらない⇒めげるというスパイラルになってしまって、そこでストップ、という話は、枚挙にいとまがないのです。
繰り返しトライしても、エンジニアが集まらないなら、もっと根本的な理由があると考えなければなりません。たとえば、「自社にはエンジニアにとっての魅力がないのかもしれない」と、疑う必要があります。「エンジニアが転職市場から枯渇している」という山を乗り越えるためには、自社がエンジニアにとってどんな風に映っているのか、厳しく客観視しなければダメなのです。採用担当者の多くは、そこから目を背けがち。
ただ、「小手先の話をしても山は越えられない」と自覚すべきでしょう。逆に、エンジニアにとって魅力のない企業であり続けるなら、採用にもずっと苦労し続けるという覚悟を持つべきとも言えるのです。
エンジニア採用の壁を乗り越えるためにすべき5つのこと
最後に、採用担当者が、エンジニア採用の壁を乗り越えるためにすべきことをまとめておきましょう。
- エンジニア採用にはエンジニアを関与させよ
- 自社にとってのエンジニアの位置付けを経営層と話し合え
- エンジニアが魅力に感じる環境や技術について興味・関心を寄せよ
- エンジニア採用の方法論を1から見直し、新しい仕組みも検討せよ
- 上記への取り組みを結果が出るまで継続する覚悟を持て
ということで、この連載もこれでおしまいです。次回からは、「続・なぜエンジニアの採用は難しいのか?(仮)」という連載が始まります。ちょっと違ったテイストでお届けする予定です。
今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします! 良いお年をお迎えください。
この連載の言い訳のようなものは、私のブログで更新中です。併せてそちらもご覧ください。