今回は教育について書きます。エンジニア出身の社長であれば、ほかのキャリアをもつ社長よりは、エンジニアの教育や育成についてはメリットがあるのはまちがいありません。ただ、正しく取り組まないと、メリットが出ないどころか、デメリットにつながることもままあるでしょう。
教育が必要なのは技術だけではない
さて教育というと、「何についての教育なのか」という点について考える必要があります。「そんなの技術についてだろう」というのは早計です。そもそもエンジニアであれば、技術については自然と成長するケースも多いことでしょう。技術力の向上に対するモチベーションも高いでしょうし、自分のスキルアップは楽しいと思うのではないでしょうか。だからといって、「技術については教育がいらない」ということではないのですが。
ざっくり分けてみると、
- 技術力そのもの
- 技術力の磨き方
- 仕事の進め方
- 他職種の業務内容
- リーダーシップやマネジメント
- 交渉
- 協調性
- 経営
くらいでしょうか。全員に対して全部が必要ということではなく、このうち必要なものについて教育を行うということになります。
「技術力を磨く能力」の高い低いによって、1年後2年後のスキルは全然違ってくる
一応順に説明すると、技術力そのものはいいとして、技術力の磨き方というのは技術力と同じくらい、もしくはそれ以上に重要です。技術力を磨く能力の高い低いによって、1年後2年後のスキルは全然違うでしょう。
今は書籍よりもネットのほうが情報源として使われるケースが多いと思いますが、それだけに、情報の集め方、見極め方というのは重要です。書籍も玉石混淆ではありますが、ネットはよりその落差が激しく、まちがった情報もたくさんあります。
一例として、私はインフラエンジニアでしたので、教育としては「解決できないときは、システムコール、パケットを見ればわかる」ということはよく言いました。もちろん、プログラムのソースがあればそれも重要な情報源ですが、インフラエンジニアはトラブル時にソースを見れないというケースはままあるものです。
正直、システムコールやパケットを見るのはけっこうハードルが高く、根気も必要ですが、「最悪それをすれば、ほとんどの問題は解決できる」という手段を持っておくのは重要ですし、そうしたトラブル解決をしてきたエンジニアというのはスキルが大きく向上するのもまた事実です。
他職種の仕事の進め方を理解してるほど、自分の業務にもプラスになる
次に、仕事の進め方です。これはかなり多岐に渡りますが、やはり技術力と同様に必要な能力といえるでしょう。プログラマであれば開発管理だったり、SEであればプロジェクト管理だったり情報の整理や管理、あとエンジニアだと作業環境も重要だったりします。
他職種の職務内容も、教育としては重要な部分です。ほとんどのエンジニアは、趣味ではなく仕事でエンジニアリングに関わっているでしょうし、R&Dよりは事業に関わるほうが多いかと思います。その場合、当然その仕事については営業やマーケティング、サービス企画、カスタマーサポートなど他部署と連携していることになりますが、そうしたときに「他部署のスタッフは、どういう業務を、どのように進めているのか」を理解するというのも、大変重要です。そもそもその前に、「他部署の業務内容も把握することが重要である」という教育自体が必要なこともあります。
たとえば、システム開発の会社からネットサービスの会社に転職した場合、受注側から発注側に移るわけですが、その両方の経験があるというのは業務を進めるうえでプラスになります。それと同様、他職種についても理解が深ければ深いほど、自分の業務にもプラスになることは多いものです。
リーダーシップやマネジメントは前回、前々回で触れたので割愛します。
交渉と協調性は「相手の心情に配慮する」という意味で似ている
次に交渉ですが、これは特にエンジニアが職種の中では相対的に苦手というか不得手な人が多いため、教育が重要な部分の1つであるといえます。みんながみんなというわけではないですが、エンジニアというのは「交渉をせずに、要求をするだけ」というケースが多く見受けられます。コンピュータ相手ではなく人間同士のやりとりなのですから、相手の事情、心理なども鑑みるのは重要ですし、そのほうが結果として自分の要求も満たす割合が高くなることでしょう。
協調性も、交渉に似た要素があるといえます。交渉と同様に、なぜかエンジニアは協調性をあまり重視しない人の割合が高い気がしますが、エンジニア同士でも他部署との間でも、協調性というのは非常に重要です。たとえば「ありがとうとごめんなさいが素直に言えるかどうか」「挨拶できるかどうか」という社会参加のかなり初歩の初歩をきちんとできるようにするだけでも、会社の業務の円滑さというのは相当変わります。また、「相手の心情に配慮する」という意味でも、交渉と協調性は似ているといえます。
経営を理解していたほうが、より無駄なく業務へ取り組める
最後に経営ですが、これは先ほど挙げた中では「教育が必須」とはいえないジャンルです。ただ、業務というのはすべて、まずビジョンがあり、ビジネスモデルがあり、それらを要因として発生しているのですから、経営について理解していると「自分がなぜその業務に取り組む必要があるのか?」を表面的ではなく核心から理解することができ、より無駄なく業務へ取り組めるようになることでしょう。
さて、今回はエンジニアの教育のうち、どういう種類があるかについて触れてみました。次回はその個々について、エンジニア出身社長のメリットデメリットを考えてみたいと思います。