ゲームをおもしろくするコツ

第1回確率の罠―ドロップ確率1%=100回倒せば手に入る?

筆者は1980年代初頭から、アーケードゲーム『ゼビウス』⁠ドルアーガの塔』をはじめ、ファミコンソフト『ファミリーサーキット』⁠ケルナグール⁠⁠、トレーディングカードゲーム『真・女神転生デビルチルドレン カードゲーム』⁠巫法札合戦 犬夜叉⁠⁠、携帯電話アプリ『右脳パラダイス』⁠占いバキューン!』などあらゆるジャンルのゲームルールをデザインし、それが高じて現在はゲームデザイン研究者として、大学でゲームを教えています。

このコラムでは、時代やプレイヤーによって変化するゲームデザインのテクニックをお伝えします。ゲームを開発する、あるいはプレイしたりゲーム談義をする際に、ちょっと役立つ情報として楽しんでください。今回は確率についてお話します。

ゲームに使われる確率

ゲームで使われる確率で一番わかりやすいのはサイコロです。1から6までの数字が1/6 の確率で出現します。出る数字に膨らみを持たせたい場合、サイコロを2個、あるいは2回振った合計値を使います。また6面ではないサイコロもあり、サイコロの種類と振る回数によって、細かく確率を調整して利用できます。

このシステムを活用して作られたのが、シミュレーションウォーゲーム[1]やテーブルトークロールプレイングゲーム[2]です。コマの強さを表すパラメータがあり、サイコロによる確率でそのパラメータが変動し、戦闘結果が決定します。

ここから発展して、デジタルゲームではランダムに数字を発生させ、設定した数値との比較によって結果を決定する方法が使われます[3]⁠。ただし、乱数発生のアルゴリズムにはクセがあり、特徴的な傾向が現れるのを防ぐため、たとえば時刻から乱数を取り出すときは、予測しにくく変動が多い秒以下の数値を加えるなどの改善をするのが一般的です。

確率の罠

このように使い勝手の良い確率ですが、実は1つ大きな問題があります。それは、100%あるいは0%の確率でない限り、結果が必ず二分されるという点です。よほどのことがない限り成功するように99%の確率で設定しても、1%は失敗してしまう人が生まれるのです。失敗したので再度挑戦しても救えるのはそのうち99%だけで、1万人に1人は2回やっても成功しない結果になります[4]⁠。ゲームデザイナーの多くは「1万人に1人くらいなら別にいいか」と考えがちです。しかし、そのゲームを100万人のユーザーがプレイしているなら、100人も被害に遭うことになります。

この確率の罠が最も顕著な例を挙げます。RPGには、クエストやストーリーの流れで、特定のモンスターがたまにレアアイテムをドロップするものがあります。ゲームデザイナーは、手に入れるのには多少手間をかけてもらいたい、でも最終的にはすべての人に達成してもらいたいという思いで、⁠100匹くらい倒せば必ず出るように確率を決める」ことがあります。

ではその確率はどのくらいかと言うと、100回繰り返せば期待値[5]が1になるように考えればよいので1/100の確率にするのが、初級ゲームデザイナーの陥りやすいミスです。実際にこの確率で設定したゲームが世に出ると、何百匹倒してもドロップしないという苦情が来ます。なぜかと言うと、この問題は「余事象⁠⁠、つまり当たらない人に注目して考えなければダメだからです。

このクエストに100人のプレイヤーが挑んだ場合、1回目では100人の1/100、つまり1人がレアドロップを手に入れて離脱します。2回目では残った99人の1/100、3回目では98人の1/100が離脱することになり、回数を重ねるにつれて離脱できる人がどんどん減ってくるのです。

逆に残った人に注目して考えると、99/100が100回なら99/100の100乗が約0.366なので、100人中37人ほどが100匹倒してもレアアイテムが出ないことになります。期待値から想像される率に比べるととんでもなく大きな数であり、仮に200匹倒したとして約13人、300匹でも約5人が残ります。苦情が来ても当たり前ですね。このような方法を「確率的手法」と言います[6]⁠。

レアリティの起源と注意点

話が少し逸れますが、レアリティという言葉の起源と、ゲームに取り入れるときの注意点に触れます。

今でこそ「レア」という言葉は普通に使われていますが、ゲームの世界では1993年に発売されたトレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』⁠以下マジック)から、ゲームデザイナーたちが希少度を意味するレアリティを考えるようになりました。マジックはカードを「レア」⁠アンコモン」⁠コモン」の3種類に分類しており(最近は「神話レア」を含む4種類⁠⁠、15枚のパック1つにレア1枚、アンコモン3枚、コモン11枚が封入されています。

カードを手に入れるのも一つの確率なので、レアは手に入りにくいという理由でマジックの初期は特に強いカードがレアに設定されていました。自分が持っているカードをデッキとして使うシステムもマジックから広まったのですが、レアの中でも特に強いカードを引き当てたプレイヤーは、それをデッキに入れることができたのです。

このレアリティが高いアイテムの性能を極めて良くするゲームデザインは、それを手に入れるチャンス自体が限定されている場合にのみ成立します。マジックのカードは金に物を言わせればいくらでも手に入れるチャンスがあり、黎明期には「ブラックロータス」という、呪文を唱えるために必要なマナを3つ無コストで生み出すレアカードを大量にデッキに入れて、そのマナを利用するほかのカードと組み合わせて1ターンで相手を倒すデッキを構築した猛者もいました。ゲームデザイナーにとっては想定外の遊び方ですが、常にゲームデザイナーはプレイヤーが想定外の遊び方をすることを忘れてはいけません。

そのためマジックはデッキに入れてよい同種のカードの最大数を4枚としましたが、4枚入っていてもほかを圧倒する強さのカードが存在し[7]⁠、最終的には使用禁止にせざるを得ませんでした。

レアリティの高いアイテムを強くしたい気持ちはわかりますが、RPGの武器のように1つだけしか使えない限定がある場合以外、どんなにレアアイテムの出現確率を下げても、無尽蔵に所有できる前提でパラメータを設定すべきです。

ガチャポンの大人買い

確率の話に戻ります。確率の罠を解消するヒントが、いわゆるカプセルトイ(ガチャポン)注8にあります。ガチャポンはガムボールの自動販売機から発展し、カプセルの中身がある程度見える状態で、レアリティのある景品を販売します。システムだけを考えれば容器に入っている景品の比率に応じた確率でカプセルが排出されるわけですが、これは単純な確率にはなりません。

容器の中に100個のカプセルが入っているとして、当たりとなる景品が1つあれば1/100の確率となります。ところがガチャポンはカプセルと容器が透明なので、中に当たり景品が入っていることを確認できます。中に欲しい景品が入っていることがわかっているならば、全部のカプセルを買い占めるつもりで回せば確実に手に入れることができます。いわゆる「大人買い」ですね。

これは、前述の「100匹倒せば必ず手に入る」状態となっています。1回目は100個の中の1個なので1/100、外れた場合の2回目は99個なので1/99、3回目は1/98と当選確率が上がっていき、どんなに運が悪くても100回目には100%当選します。このような抽選を「統計的手法」⁠抽選箱方式」と言い、良心的なゲームデザイナーは必要に応じてこちらの方式を使っています。

統計的手法が一般化しないのは、ガチャポンの容器となるメモリを割り振る物理的リソースが不足していること、仕様変更やイベントに伴う当選率の変更が面倒なこと、多くのゲームデザイナーが確率的手法と期待値を誤信していることなどにあります。残念ながら、運の良い人が1/100を数回で引き当てSNSで自慢しているのばかりが目に付き、運の悪い人は文句を言う前に引退していくので、ゲームデザイナーが問題の重大さに気付かないという面もあるのです。

ガチャを回すプレイヤーの思い込み

スマートフォンアプリのカードゲームでは、⁠ガチャ」というガチャポンと似て非なる確率的手法の抽選機が利用され、一部では多額の利益を上げています。大人買いすれば必ず当たるガチャポンのイメージで当たりが出るまで買い続ける人がいるためなのですが、ここにもう一つの罠があります。

これは最近の実験で明らかになったのですが、プレイヤーは実際の確率より自分に都合の良い方向に誤認してしまうのです[9]⁠。メモなど実際の数値を確認できない状態で5%の当選率の抽選機を回してもらい、当選率を予想してもらうと、30%程度と答える人が多数となります。

ガチャでも同様で、もちろん運が良いために実際の期待値を上回る、つまり少ない回数で当選する場合もありますが、ほとんどのプレイヤーは「自分は当たる」という潜在的な思い込みで、当選するまで繰り返してしまうのです。そしてプレイヤーの体感的期待値を下回る、つまり多い回数を回しても当選しない場合は、⁠運が悪いだけ」と心理の合理化を行い、体感的確率の過大評価を訂正しようとは思いません。

しかしだからと言って、ゲームデザイナーは確率を必要以上に下げるべきではありません。いずれユーザーが離れてしまうはずです。

ゲーム内確率のガイドライン

先日、デジタルゲームの業界団体CESAよりガチャに関するガイドラインが発表されました[10]⁠。

  • 全景品と当選確率を明示する
  • 当選確率を1/100以上とする
  • 当選景品取得の推定金額を5万円以内とする
  • 当選確率が変動する場合は下限と上限を明示する

これを超える場合はユーザーに注意を促す例外条件もあるのですが、規制方法が統計的手法ではなく確率的手法のままなので、運の悪いプレイヤーにはまだまだ受難の時代は続くことになります。ゲームをプレイする場合も開発する場合も、確率を正しく認識して誤りなく利用しましょう。

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