これはPCを使う人間が決して忘れてはならない真理です。しかしながら、昨今のように機器の信頼性が高まってくるとついつい忘れがちになります。
昨年末、それで痛い目にあったことがあり、今回、自戒自省の意味もこめてその顛末を紹介することにしました。
突然の起動不能
11月29日の11時ごろ、突然自宅近辺が停電しました。当初は家のブレーカーが落ちたのかな、と思ったものの、通りに出てみると信号機も消えており、周囲一帯が停電しているようです。
信号機が消えると危険かも、と心配したものの、お昼前で交通量が少ない時間帯だったこともあり、大きなトラブルもなく数分後には送電が回復しました。
天気のいい日中に停電とは珍しいし、そもそも停電自体何年ぶりだろう、と思いつつ部屋に戻り、PC等の状況を確認すると、ファイルサーバ用に24時間運転しているマシンが起動しません。「あれれ?」と思って、普段はつないでいないディスプレイを接続し確認したところ、画面には"grub"の文字が表示されているだけです。
どうやら起動用HDDのトラブルのようなので、キーボードもつなぎ、Plamo Linuxのインストーラを入れたUSBメモリから起動したところ、起動用HDDが認識されていません。
「これはちょっと重症かも……」と、サーバールーム(という名の押入れ)からマシンを引っぱり出してケースを開き、HDDの状況を確認したところ、やはり起動用に使っているHDDが、BIOSからもカーネルからも認識されません。接続しているマザーボードのポートをあれこれ替えたり、別マシンで試してみてもダメです。
問題のHDDは容量 320GBのSeagate Barracuda 7200で、SATAの初期、10年以上前の機種です。
しばらく手の平で暖めてみたり、電源を入れたタイミングでゆすってみたりしたものの、認識される気配はないのに加え、HDDの基盤がやけに熱を持っているようです。「どうやらこれは物理的に死んだな」と判断し、障害がこれ以上拡大しないように問題のHDDは取り外して保管し、今後の対応を考えることにしました。
被害状況の把握
問題のマシンは家のファイルサーバ兼メールサーバに加え、Plamo Linux用のパッケージやisoイメージを配布しているplamo.linet.gr.jpをホスティングしていました。
メーリングリストは外部のレンタルサーバに置いていたし、普段使いのマシンは問題なかったので、取り急ぎPlamo Linuxの関係者にトラブルを報告し、しばらくplamo.linet.gr.jpが使えなくなる旨を連絡しました。
それと共に、このHDDが使えなくなることでどれだけの影響が出るかを検討しました。このマシンはファイルサーバとして運用しており停止すると致命的ですが、この連載の原稿等、筆者が書いてきた文書類や写真、動画の類いはRAIDを組んだ別HDDに保存していたので、起動用HDDを変更しても問題なさそうです。また、plamo.linet.gr.jpで提供していたパッケージ類やメンテナのホームディレクトリも別のHDDに置いていたので影響無いでしょう。
一方、メール&ファイルサーバとして24時間運転していたため、ついつい溜めこんでしまっていたデータもあります。個人宛メールはGmailのアドレスにforwardしていたので何とかなりそうなものの、「らじる★らじる」の録音用スクリプトや録音した多数の番組ファイル、PHPで自作した実家用の請求書発行システムとかは、ここ長いこと、このHDD外にバックアップしていませんでした。また、LXCでホスティングしていたplamo.linet.gr.jpの/etc/passwd等の設定ファイルもこのHDD内にしかありません。
Plamo関係者のパスワード等は初期化して再設定してもらえば何とかなるものの、ここ7~8年のデータを貯めこんでいる請求書発行システムを失なうのはかなり痛いので、専門業者にHDD修理を依頼することにしました。
修理業者への依頼
長くPCをイジっているからファイルシステムやHDDのトラブルには何度も遭遇しています。エラーメッセージが頻出しだしたHDDから何とか読めるファイルを救出したり、/lost+found/に残されたファイルの残骸を探し回ったこともあります。しかし、今回のように、ついさっきまで問題なく動いていたHDDが突然認識不能となり、バックアップする間もなく内部のデータに全く手を出せなくなったのは初めてでした。
こうなると多少PCに詳しい程度の一般ユーザでは対処不可能です。そのため、ネット上で「HDD復旧」を謳(うた)っている業者を調べ、5社ほどにHDDの型番やトラブル状況を伝え、いくらぐらいかかりそうかを問い合わせてみました。
その結果は5万から35万と幅があり、「クリーンルーム」を設置し修復技術の高さを誇っているところは高め、「専用解析ツール」を用いた「非分解」な修復に留めているところは安めな印象でした。とある技術力が売りの会社の担当者と少し話したところ、「問題のHDDを見ないと確実なことは言えないものの、そのHDDなら修理経験もあるので、35万くらいを上限に復旧はできそう。故障によってはもう少し安くあがるかも知れない。ダメだった場合は費用の請求はしない。」ということでした。
それらの情報を元にどこに依頼しようか、としばし考え込みました。当初は高くても確実そうな業者に心惹(ひ)かれたものの、少し頭を冷して考えた結果、現状ではHDDが全く認識されないため、「物理障害」なことはわかるものの、その障害がどれくらい深刻なのかはわからない、その状態でクリーンルーム完備な高めの業者に出すよりも、まずは障害レベルを判断するために安めの「非分解」な業者に見てもらい、ダメと言われてから高価な業者に依頼し直してもいいだろう、と判断し、「論理障害も物理障害も一律定額39,800円」を謳っているPCエコサービスにお願いしてみることにしました。
ここを選んだのは、「定額39,800円(税別)」という安さの魅力(苦笑)だけではなく、最初に問い合わせた際、30分くらいで返事が届き、その内容も金額や作業期間、作業の流れ等、ずいぶん詳しく説明されていたため、ここなら任せても大丈夫だろう、と考えた結果でもあります。
HDD復旧の流れ
HDDの復旧にどれくらい時間がかかるのか興味ある人もいらっしゃると思うので、ここでは時系列的にやりとりを紹介していくことにしましょう。
11/29(月)に停電によりトラブル発生、2日ほど手元で復旧を試みたり、依頼先をあれこれ検討した後、12/2(木)に宅急便で東京八王子にあるPCエコサービス社へ発送、12/3(金)に機器到着の連絡がありました。その後、土日をはさんで12/7(火)に検査結果の報告が届きました。
報告によると、「重度物理障害」でHDDは再利用できないものの、データ復旧(取り出し)は成功した、とのことで、メールには取り出せた3パーティション分、121万ファイル(!)のリストが添付されていました。
これだけデータが取り出せれば大満足なので、取り出したデータを書き込むためのHDDを追加注文し、銀行振込で入金したところ、12/9に先方から発送、12/10(金)には返却を依頼していた古いHDDと共に、救出したファイルを書き込んだUSB外付けHDDが到着しました。
届いたUSB HDDを接続してみたところ、元々はext3ファイルシステムでEUC-JP形式だったファイル名が、NTFSファイルシステム上のUTF-8形式に正しく変換されていました。
問題のHDDには不良セクタがあったそうなので、消滅したり、中身が空になったファイルもありそうなものの、最も必要だった自作の請求書発行システムやそれが使うSQLite3なデータベース、停電直前の番組まで録音していた「らじる★らじる」の番組ファイルなど、主要なデータは全て確認できました。
pukiwiki回りの再構築等が必要だったので、plamo.linet.gr.jpの再起動にはもうすこし時間がかかりましたが、11/29のトラブル発生後、週末を挟んで10日ほどでデータを復旧できたことになります。
一刻も早いデータ復旧が必要な場合、追加料金は必要なものの、検査等を優先して行ない、最短3日で復旧するオプションサービスもあるそうなので、それを使えば復旧までの日数は半分以下に短縮できるでしょう。
初めてのHDD復旧サービス依頼で、もっとあれこれやりとりが必要かも、と思っていたところ、最初にお願いした業者で完璧にデータが回収できてしまい、ほっとしたと共に、ネタ的にはちょっと物足りなさも感じたのでした(苦笑)。
今回、筆者自身が経験したHDDトラブルとその復旧(データ回収)にいたる過程を紹介しました。10年物のHDDでどれだけデータを取り出せるか心配だったものの、古い分、最近のHDDよりもデータ密度が低く、ファイルシステムも比較的シンプルなext3形式だったこともあってか、非分解なサービスで必要なファイルを全て回収できたことは幸いでした。
HDDのトラブルは千差万別で、分解して部品交換が必要なレベルのトラブルもあるはずです。そのような場合どうするのか、後日、PCエコサービスに確認したところ、社名等は公表できないものの、提携している専門業者を、個人が直接依頼するよりも安価な価格で紹介できる、ということでした。
そう言えば、最初にあちこちの業者に見積りを依頼した際、「コンパニオンID」があれば入力するように書いてあるページがあったことを思いだし、HDDの修理業者もそのような形で棲み分けや相互協力を行なっているんだなぁ……と感心した次第です。
さて次回は、今回のトラブルに関して調べたこと、考えたことを綴ってみましょう。