玩式草子─ソフトウェアとたわむれる日々

第35回Plamo-5.0の最新動向

6月も終わりに近づき、気がつくとすでに1年のほぼ半分が過ぎ去ってしまいました。昨年の大みそかにx86_64用Plamo Linuxの最初のバージョンとしてPlamo64-1.0をリリースした際には、春ごろまでにx86用のパッケージを同期してPlamo-5.0としてリリースしたい、と考えていましたが、x86用のパッケージをあれこれ作っているうちに、x86_64用のパッケージも古くなってきて更新が必要となり、それらをフォローしようとしているうちに更新が必要となるパッケージが増えてきて…、という悪循環に陥ってしまいました。

そうこうしているうちに非常勤講師の仕事も始まってしまい、まとまった時間も取れなくなってきたので、Plamo-5.0の正式版が公開できるのは秋以降になりそうです。

もっとも、x86版、x86_64版双方でそれなりに動く環境は整っており、手元ではVirtualBox上にインストールした最新版が、パッケージの開発環境として十分に機能しています。

Plamo-5.0の現状

上述のように、Plamo-5.0は主要なソフトウェアの最新バージョンに追従しようと現在も開発進行中です。その中から、いくつか目新しいバージョンを紹介してみましょう。

GIMP-2.8

画像編集ソフトの定番、GIMPを2.6系(2.6.12)から2.8系(2.8.0)に更新しました。

図1 GIMP-2.8.0の画面
図1 GIMP-2.8.0の画面

GIMPは、過去3年半ほどの間、2.6系が公式版としてリリースされていました。2.6系も年に3、4度新しいバージョンが公開されてきましたが、ユーザインターフェイス(UI)等、設計の根本に関わるレベルの変更は行なわれず、過去との互換性を重視した小変更に留まっていました。

2.8.0は、その間に蓄積されたさまざまな変更を盛り込んだ新しいバージョンで、以前からのユーザでも特に違和感なく利用できるレベルの互換性は保ちつつ、さまざまな新機能があちこちに追加されています。

たとえば図1の画面例に示すように、従来はメイン・ウィンドウと複数のサブウィンドウから構成されていた画面構成が、画像を表示するメイン・ウィンドウを中心に、回りに各種ツール用ウィンドウを配置する、Windows用の画像編集ソフトでよく見られるようなUIデザインに変更されました。

また、画像に文字を入力する際も、2.6系では文字入力専用のウィンドウを開き、いったんそこに入力した文字を画像に貼り付けるような方式だったのに対し、2.8.0ではFEP経由で画像に直接入力できるようになりました。

図2 GIMP-2.6と2.8の文字入力
図2 GIMP-2.6と2.8の文字入力

入力した文字は、指定したサイズとスタイルで直接画像上に展開されるので、より直感的に操作できるようになったと言えるでしょう。

個人的に興味深く感じた変更は、画像データの扱いに関する部分です。従来の2.6系では、JPEGやPNG形式の画像を開いた際は、名前を付けて保存する際もその形式で保存するのがデフォルトになっていたのに対し、2.8系では「画像データ」として保存できるのはGIMPのネィティブな画像形式であるxcf形式に固定され、JPEGやPNG形式の画像として保存するには、それらの形式に明示的にエキスポートしなければならなくなっています。

図3 GIMP-2.8の画像データの扱い
図3 GIMP-2.8の画像データの扱い

これは一見すると機能が制限されているように見えます。
しかし、GIMPで画像編集時に利用するレイヤ等の情報をそのまま保存できるのはxcf形式に限られており、JPEGやPNG形式で保存するにはその画像を作る際に用いたレイヤを全て合成しないといけないため、xcf以外の形式で保存した画像データは再編集するのが困難になります。そのため、⁠画像データ」として保存したい場合はxcf形式で、それ以外の形式は画像データからの「エキスポート」として扱う、というのは合理的な扱いと言えそうです。

このようにGIMP-2.8.0ではUIの設計レベルで2.6系からの違いが見えるものの、採用しているツールキットはGTK-2系で、最新のGNOMEデスクトップ環境が採用しているGTK-3系への移行は、次のメジャーバージョンアップ(GIMP-3.0)の課題となっているようです。

Xfce-4.10

メンテナの加藤さんのご尽力で、軽量で高速なXfceデスクトップ環境が最新版の4.10に更新されました。

図4 Xfce-4.10のスクリーンショット
図4 Xfce-4.10のスクリーンショット

Xfce-4.10は、外観を見る限りでは以前のバージョンである4.8と比べてそれほど大きな違いは見当りません。しかし、内部的にはかなりのリファクタリングが行われているようで、4.8のころに利用していたGNOME-2.x系のライブラリへの依存性が少なくなり、デスクトップ環境としての独立性がより高まったように感じます。

個人的に目についた改良点としては、直接コマンド名を入力して実行することができるxfrunの機能が、名前の一部からコマンドを検索できるappfinderの機能と統合され、Alt+F2で開いたウィンドウにコマンド名の一部を入力して補完、実行ができるようになっている所です。

図5 Xfce-4.10のappfinder
図5 Xfce-4.10のappfinder

同様の機能はKDE4にも用意されていますが、この機能を用いれば、何かのコマンドを起動する際に、いちいちマウスを使ってメニュー画面からアイコンを用いて起動する必要がなくなり、キーボードから手を離さずに操作できるようになるので便利です。

Firefox-13.0

これもメンテナの加藤さんに担当いただいていますが、Firefoxは最新のバージョンに追従し続けており、現在は13.0.1が採用されています。

図6 Firefox-13.0.1の起動画面
図6 Firefox-13.0.1の起動画面

最近のFirefoxはバージョンアップが頻繁に行なわれており、どの機能がどのバージョンから採用された、といった話題は追いかけられていませんが、新しいタブを開くとよく利用するサイトの一覧が候補として表示される、といった機能が追加されているようです。

図7 Firefox-13.0.1の新しいタブ画面
図7 Firefox-13.0.1の新しいタブ画面

また、Firefoxと共通する部分を多数持つメールソフト、Thunderbirdも最新の13.0.1に更新しています。

現在取り組んでいるパッケージ

前節では、すでにFTPサイトでPlamo-5.0用として公開しているパッケージを紹介しました。本節では、現在テスト中、あるいは開発進行中のパッケージをいくつか紹介します。

Emacs-24

高機能エディタの代名詞とも言えるEmacsのバージョン24(24.1.2)が現在テスト公開中です。Emacs-24にはEmacs Lispで書かれた各種マクロパッケージを管理する機能が追加されており、ネットワーク経由で新しいマクロパッケージをダウンロードして、即座に機能を追加することができるようになっています。

図8 Emacs-24のパッケージ管理画面
図8 Emacs-24のパッケージ管理画面

選択したマクロパッケージは~/.emacs.d/elpa/以下に保存され、再起動しても自動的に読み込まれるようになっています。

このようなパッケージ管理機能は、PerlやPython、Rubyといったスクリプト言語では広く利用されており、EmacsもEmacs Lispという強力なスクリプト言語を内蔵しているので、その意味では不可能ではないだろうとは思うものの、パッケージ管理機能を持ったエディタというのは、Emacsならでは、といったところでしょうか。

また、最近のEmacsではGTKを用いたユーザインターフェイスが利用できるようになっており、GTKを採用しているGUIアプリケーションと同様の操作で、ファイルやディレクトリを選択することができます。Emacs-24ではGTKの最新版であるGTK-3を採用しており、ファイル選択ウィンドウなどもより洗練されてきた印象を受けます。

KDE-4.8.3

前回も軽く触れましたが、Qtを新しい4.8.1に更新し、その上でKDE-4.8.3をビルドしています。

図9 KDE-4.8.3の画面
図9 KDE-4.8.3の画面

先に紹介したXfce-4.10同様、KDE-4.8.3も従来から採用している4.7.1に比べて外見上はそれほど大きく変ったように見えず、改良は主に内部的な修正が中心のようです。

リリースアナウンスによると、ファイルマネージャのDolphinが新しい表示エンジンになって、大きなファイルもより速く扱えるようになったり、テキストエディタのKateや画像ビューワのGwenviewにいろいろな機能が追加されたりしているそうですが、全体的に見るとバグフィックス中心の安定したリリースと言えそうです。

X11R77

以前、この連載でも触れたことがあるように、Plamo Linuxを64ビット化する作業の初期のころは、64ビット用のバイナリが不足していたこともあって、主なライブラリは32ビット用と64ビット用の双方を含んだ形で作っていました。

その後、64ビット用のバイナリが充実してくるにつれ、不要になった32ビット用のライブラリを含んだパッケージはビルドし直してきましたが、近いうちに新しいバージョン(X11R77)が出るはずなのでその時にビルドし直せばいいや、と思っていたX11R76用のパッケージ類は、X11R77のリリースが遅れたこともあって取り残されていました。

当初は去年の後半に予定されていたX11R77のリリースでしたが、ようやく今年の6/6に正式公開となったので、ざっとライブラリとXorgのサーバをビルドしてみました。

Xorgのサーバは、X11R76では1.9.3でしたが、X11R77では1.12.2になっているようです。

 % less /var/log/Xorg.0.log
 [ 78259.595] 
 X.Org X Server 1.12.2
 Release Date: 2012-05-29
 [ 78259.757] X Protocol Version 11, Revision 0
 [ 78259.814] Build Operating System: Linux 3.1.5-plamo64 x86_64 
 [ 78259.930] Current Operating System: Linux vm64 3.1.5-plamo64 #1 SMP PREEMPT Mon Dec 26 13:24:03 JST 2011 x86_64
 [ 78259.932] Kernel command line: BOOT_IMAGE=/vmlinuz-3.1.5-plamo64 root=/dev/sda1 ro rootflags=subvol=2012_0510 vga16 unicon=eucjp vt.default_utf8=0
 [ 78260.133] Build Date: 26 June 2012  11:11:01AM
 [ 78260.202]  
 [ 78260.275] Current version of pixman: 0.26.0
 [ 78260.430]    Before reporting problems, check http://wiki.x.org
         to make sure that you have the latest version.
 ....

とりあえずVirtualBox上でVESAのドライバを使って動作することは確認したものの、カーネルのDRM機能を操作するlibdrmやOpenGLのOSSによる実装であるMesa3Dライブラリなど、合わせて更新が必要となるパッケージが複数存在するので、現在ドライバのビルドと共に整理を進めているところです。


以上、簡単にPlamo-5.0の動向を紹介してみました。最近は、時間や人手といったリソースが不足気味のため、公式版のリリース予定は立っていないものの、今回紹介したように、パッケージ単位での更新は怠っていません。

手元のFTPサーバの容量やミラーいただいているサイトへの負担等から、従来は開発中のDVDイメージを公開することは控えていたのですが、このままずるずると正式版が出ないのもよろしくないので、適当なタイミングで開発中のDVDイメージも公開していく予定です。これら新しいパッケージに興味のある冒険好きな方はご期待ください :-)

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