前回、Plamo-5.1のリリースを紹介した記事では、「Plamo-5.1はメンテナンス・リリースのため、特に目新しい機能はありません」と書きました。
それは間違いではないものの、「メンテナンス」以外の部分では、Plamo-5.0には無かった機能が追加されていたりします。今回はそれらの中から、準公式(contrib)パッケージとして採用したMateデスクトップ環境と、Plamo-5.1を元にしたP-Plamoについて紹介してみましょう。
Mateデスクトップ環境
Mateは、GNOMEプロジェクトとは独立に開発された、GNOME2ベースのデスクトップ環境です。と言っても、前後の事情を知らない人には意味不明だと思うので、少し背景的な話をしましょう。
ご存知のように、GNOMEはLinux環境で広く使われている統合デスクトップ環境で、多くのディストリビューションで標準のデスクトップ環境に採用されています。
Linuxで広く利用されているデスクトップ環境には、GNOME以外にもKDEやXfceなどがありますが、それらに比べたGNOMEの特徴は「新しい機能やアイデアの採用に積極的」ということです。
「新しい機能やアイデアの採用に積極的」というのがコインの表面だとすると、その裏面には「過去との互換性は重視しない」という考え方があります。その結果、GNOMEプロジェクトでは、GNOME2までで採用していた伝統的なUIを捨て、GNOME3ではGNOME Shellをベースとした、スマートフォンやタブレットPCに似たタイプのUIを採用しました。
GNOME3におけるUIの全面的な変更は賛否両論を引き起こしました。一部の人々はGNOME3のUIを嫌ってXfceに移行しましたし、Linux MintのようにGNOME3に独自のレイヤを被せて伝統的なUIに見せるという対策が提案されたりもしました。
Mateデスクトップ環境が生まれたのはこのような背景からで、GNOMEプロジェクトが放棄したGNOME2を引き継いで(forkして)、新しいデスクトップ環境を構築することを目指しています。
GNOME2ベースの機能ならばXfceも利用しているので、必要なツールやライブラリ類も共有できそうです。そう思って以前からMateデスクトップ環境を眺めてはいたものの、なかなか自力でパッケージ化する余裕はありませんでした。
そんなころ、Plamo Linuxのユーザである植竹さんから、Mateデスクトップ環境をビルドしてみた、という投稿がメーリングリストにありました。そこで、渡りに舟、とばかりにメンテナになってもらい、作成いただいたMate-1.6の環境をcontrib/Mate/以下に収録しました。
Plamo-5.1では、Mate-1.6は準公式パッケージ(contrib)の扱いなので、システムインストール時に自動インストールすることはできず、contrib以下から手動でインストールする必要があります。
また、Mateデスクトップ環境を起動するための設定は、~/.xinitrcに手動で追加する必要があります。具体的には、WMの指定を"gnome"にして、
セッションの起動部でgnome-sessionではなくmate-sessionを起動するようにします。
なお、起動直後では一部のアイコンが正しく表示されませんが、メニューバーの「システム」→「設定」→「外観の設定」で、テーマの「カスタマイズ」を選び、「アイコン」を"Mate-Faenza"あたりに指定すれば、表示されるようになるようです。
ちなみにMateデスクトップ環境では、GNOME3との混同を避けるため、元となったGNOME2環境の主要なアプリケーションが、forkに合わせてリネームされています。
ファイルマネージャ | Caja(旧 Nautilus) |
テキストエディタ | Pluma(旧 Gedit) |
画像ビューワ | EOM(Eye of Mate)(旧 EOG) |
ドキュメントビューワ | Atril(旧 Evince) |
端末エミュレータ | Mate Terminal(旧 Gnome Terminal) |
ファイルアーカイバ | Engrampa(旧 File Roller) |
Cajaはスペイン語で「ボックス」、Plumaは「ペン」、Atrilは「書見台」だそうで、南米原産の"Mate"に合わせてか、スペイン語が多様されていて、英語しか知らない人間にはちょっと新鮮な感じがします。
Mateは新しいデスクトップ環境ではあるものの、成熟したGNOME2を元に開発されているため、すでに日常使用にも十分なレベルに達しています。Plamo Linuxの次のバージョンではMateも公式パッケージに追加したいと考えているので、興味ある人はぜひ試してみてください。
P-Plamo-5.1
この連載でも以前取りあげたように、P-PlamoはいわゆるLiveCDと呼ばれる種類のインストール不要なPlamo Linuxで、DVDやUSBメモリから直接起動してPlamo Linux環境を利用することができます。
P-Plamoは、Plamo Linuxの紹介や試用、トラブル時のレスキュー、出先のWindow PCの借用など、さまざまな場面に使える便利なツールでしたが、作るのには結構手間がかかることもあって、64ビット化以後は作成をサボっていました。
それを見かねて、メンテナの田向さんがPlamo-5.1ベースのP-Plamoを開発してくれました。以前のバージョンでは、イメージファイルのサイズをあまり大きくしたくないこともあって、デスクトップ環境はXfceのみを採用していましたが、田向さんの新バージョンではKDEやtexlive、LibreOfficeまで含めた環境が、32ビット版、64ビット版それぞれP-Plamo化され、その結果、イメージファイルのサイズは3GB強になったものの、フルセットの最新版Plamo Linuxがインストールしなくても利用できるようになりました。合わせて、起動時パラメータで無線LANの指定ができるといった、以前のP-Plamoには無かった新機能なども追加されています。
一方、レスキュー用や古いPC用など、フルセットのPlamo環境が不要な場合用に、収録パッケージを基本ツールのみに絞りこんだmini版も用意され、こちらは500MB弱とCD1枚に収まる規模になっています。
この環境でもX Window Systemは利用できるものの、容量的な制約から、AfterStep ClassicやQvwmといった、統合デスクトップ環境以前の「ウィンドウ・マネージャ(WM)」で利用する形になっています。KDEやXfceといった便利な環境に慣れたユーザにはあれこれ戸惑うことも多いでしょうが、かっての「ワークステーション」時代のX環境を追体験してみるのも面白いかも知れません(笑)。
P-Plamoのイメージファイルはplamo.linet.gr.jpからも入手できますが、フルセット版はファイルサイズがかなり大きい(3GB強)なので、回線の太いミラーサイト、たとえば
からのダウンロードをお勧めします。
田向さんによるとP-Plamo-5.1は現在b2とのことですが、主な機能はほぼ動いているので、正式版のリリースも間近でしょう。
ちなみに、起動時画面にも表示されていますが、P-Plamoではユーザ名とパスワードがそれぞれ"demo"になっているサンプルユーザがあらかじめ登録されており、DVD等から起動後、このユーザ名でログインすればすぐにPlamo Linuxの環境が利用可能です。また、システム設定の変更時に必要なルートのパスワードは "password" になっています。
Plamo Nextへ向けて
まだ具体的な計画は立てていませんが、Plamo-64のころから使い続けているPlamo-5.x系の基盤部分はそろそろ時代遅れになってきているので、次のバージョンではそれらを更新することになりそうです。
特にGCCは、長く使ってきた4.6系のメンテナンスが終了したようなので、新しいバージョンに更新する必要があるでしょう。その際にはGlibcもあわせて更新した方がいいかも知れません。
Cコンパイラと言えば、長くGCC以外の選択肢がありませんでしたが、最近はLLVM/Clangと呼ばれる新しいコンパイラも実用レベルに達してきたそうなので、GCCと比較してみるのも面白いかも知れません。
X11R78はまだ当分出ないと思うものの、ライブラリやドライバ類は着実に更新されているので、それらに対応する必要もあるでしょう。
今、気になっているのはネットワーク回りの設定・管理ツールです。手元ではあまり無線LANを使っていなかったこともあり、Plamo Linuxの無線LAN回りの設定はなおざりになっていて、wpa_supplicant等を使う場合もユーザ任せになっています。
一方、最近遊んでいるNexus 7では、無線LANの設定は場所ごとに自動的に切り替わるようになっていて、それに比べるとPlamoのネットワーク機能はいかにも貧弱です。
ネットワークの設定・管理ツールは特定のディストリビューションやデスクトップ環境を前提にしていることが多く、Plamo Linux用にカスタマイズすることは簡単ではありません。そのため、ずるずると改良を先送りにしてきましたが、そろそろきちんと取り組むべき時期に来ているようです。